転生者のせいで国外追放された『独り言令嬢』は廃国で日記をめくる
「フローレンス・フォン・ディペンド公爵令嬢! 貴様のような『独り言令嬢』とは婚約を破棄する!」
宮殿、舞踏会の大広間。
ウィリアム第一王子の怒号が、シャンデリアを揺らす。
王子のすぐ後ろにはざまぁみろ、とほくそ笑むファビリア男爵令嬢の姿があった。
派手なストロベリー色の髪をハーフアップにし、男爵にしては目立つドレスを身につけていた。
(……はいはい、ご乱心になられたのですね。私、要領がいいのでわかります)
お馬鹿な王子が、これからなさる英雄譚。
まずは聞いてみましょうか……。
「はわはわ、フローレンス様がこわ~い目つきで睨んでくる~。またドレスを破かれちゃう……」
「僕が絶対にさせないぞ、そんな極悪非道。今まで気づいてやれずに、すまなかった……。もう、ファビリアに指一本触れさせん!」
「新しいドレスから何から何まで……ウィリアム王子は私の救世主ですぅ~!」
大声を出し、王子に抱きつく男爵令嬢。
抱きつかれた王子は満更でもなさそうだ。
(はぁ、茶番ですね……)
私……というか貴族なら誰もが知っている。
王子と男爵令嬢の関係に。
いつ陥落させたのかは謎だが、ところ構わずイチャついて、時には行為も目撃されていた。
そして、私だけが知っている。
男爵令嬢は伝説の聖魔法を使える転生者? なことを。
彼女が落とした日記に書いてあったのだ。
花吹雪の節、04月01日――――
王立学園入学!
伝説の聖魔法を特典にもらったし、さらにこの美貌!
王子様にも見惚れられたし最高!
花吹雪の節、04月02日――――
転生者になって毎日が楽しい!
まぁ、授業は難しいから、ついていけないけど……。
それでも、いざとなったら隠していた聖魔法で捲ってやる!
花吹雪の節、04月03日――――
日記も飽きたな……。
とりあえず、今日で終わりにす
中途半端に書き終えた日記。
三日坊主とはこのことだ。
転生者とやらは知識に無いが、聖魔法が使えることは確かだ。
ということは――――
「婚約破棄、断らせていただきます。これは私達個人の問題ではありません。国家の問題です」
「……国家的に考えても、そっちの方が国のためなんだよ。――なぜならファビリアは聖魔法の使い手だからだ!」
「……ナ、ナンデスッテ」
王子の発言で舞踏会場はざわついた。
無理もない、聖魔法はこの国において伝説になっていたからだ。
大昔、魔物のスタンピードで滅亡しそうになった自国を結界で護り抜いた聖女。
その人物が使った魔法が聖魔法だったのだ。
「はい~、まさか私のような地味で~冴えない女に~、そんな才能があったなんて~気づきませんでした~」
(どの口が言うか……)
「そういうわけだ。僕はファビリアと婚約する。貴様はいつも通り花にでも話しかけていろ!」
王子は嘲笑った。
周りも王子を概ね肯定していた。
そこにディペンド公爵が人波を掻き分け王子の前に進み出た。
「ウィリアム王子! これは……」
「おお、ディペンド公爵、貴殿も賛成してくれるか!」
「…………当たり前ではないですか! 王子と聖女が結ばれれば、国は磐石なものとなります! フローレンスは婚約破棄……いや、国外追放だ!」
ゲスい顔して平然と言い放った。
実の娘を見捨てるなんて……。
クズだ、クズだと思っていましたが、ここまでくるとむしろ清々しいですね。
「承知しました。けれど……本当によろしいのですか、父上? ――国が滅びますよ」
「は? お前のような魔法も使えない無能。呪いすらかけられんわ」
王子も続けて言った。
「まったくだ。貴様のような花と戯れることしかできぬ女が、国を滅ぼすとは笑わせる」
最後に男爵令嬢……次期聖女が言った。
「悪役令嬢なんて~、さっさと退散してくださ~い」
***
私は廃国となった宮殿で一冊の日記を見つけた。
風化の節、○○月○○日
王子様と婚約した記念で日記をまた始めるよ!
聖女として、みんなちやほやしてくれる。
異世界生活、神様ありがとう!
風化の節、○○月○○日
聖女の結界で魔物は自動で撃退される。
ダラダラしながら王子に溺愛されて順風満帆だ!
風化の節、○○月○○日
最近、ディペンド公爵が栽培成功させていた高品質の薬草が、急に栽培できなくなったらしい。
経済が回らなくなって大ピンチ!
まぁ、それも一時的なことでしょ!
風化の節、○○月○○日
変な病が巷で流行している。
病にかかった人は踊りながら血を吐き死ぬらしい。
……まぁ、それも一時的なことでしょ。
風化の節、○○月○○日
王子が病にかかった。
病は感染症だ。
もしかして私も発病するんし
また、日記帳は途中で途切れていた。
――少し違うのは、そのページに血がべっとり染み付いていたことだ。
フローレンス・フォン・ディペンドは『独り言令嬢』と呼ばれていた。
黙々と毎日花に話しかけていた姿が独り言に見えていたようだ。
しかし、それは大間違い。
実際に花と話していたのだ。
魔力を全く持たない彼女は花の声を聞き、話すことができる、『花の語り手』だったのだ。
その最たる特徴は望んだ花を咲かすことができる点だ。
最高級の薬草も望めば咲かすことができる。
逆もまた然り……感染し、人を殺す病を生み出す花も咲かすことができた……。
聖女の結界で外敵からは身を守れても、中までは守りきれなかったようだ。




