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『泡沫の日ごと』――雨の日だけ、君は僕のそばにいた  作者: 疾風


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4.雨を待つ理由

雨の音は、優しい。


 少なくとも、私にとっては。


 窓を叩くそのリズムは、

 何度も繰り返された“始まり”を思い出させる。


 今日も、空はまだ晴れている。


 それでも私は、天気予報を何度も確認してしまう。


 午後、降水確率六十パーセント。


 それだけで、胸が少しだけ苦しくなる。


 ——また、会える。


 ——でも、また、失う。

そのどちらもが、雨と一緒にやってくる。


 私は知っている。


 想が、どんな顔で私を見ていたか。


 初めて会った日のことも、

 二度目も、三度目も。


 全部、同じだった。


 雨の日。

 少し戸惑った目。

 それから、ゆっくりと、恋に落ちていく視線。


 まるで、毎回“最初から”やり直しているみたいに。


 でも、違う。


 やり直しているのは、想だけ。

私は、全部覚えている。


 ——忘れられないまま、ここにいる。


 最初は、ただの偶然だった。


 雨の日に出会って、

 同じ帰り道を歩いて、

 同じ傘の下で笑った。


 それだけのことだったのに。


 想は、私の名前を呼ぶとき、少し照れる。


 その声が好きだった。


 「澪」

たった二文字なのに、

 大切に扱われている感じがして。


 だから、私も名前を呼んだ。


 「想」


 それが、すべての始まりだった。


 でも——


 思い出した日の夜、想は泣いていた。


 「忘れるって、こんなに苦しいんだな」


 そう言って、私の手を握った。

理由は、教えてくれなかった。


 ただ一つだけ、約束を残した。


 ——もし、また俺が忘れてたら。


 ——雨の日だけ、そばにいてほしい。


 ——それ以外の日は、近づかないでほしい。


 私は、笑って頷いた。


 本当は、嫌だった。


 晴れの日に話せないことが、

 どれだけ残酷か、分かっていたから。


 でも、想は言った。


 「思い出すたびに、俺はお前を傷つける」

「だから、忘れたままの俺のほうが、まだマシなんだ」


 そんなの、嘘なのに。


 忘れられるほうが、ずっと痛いのに。


 それでも私は、約束を守った。


 何度、最初からになっても。


 何度、恋が巻き戻っても。


 雨の日だけ、少し近づいて。

 晴れの日は、他人みたいに距離を取る。


 そうやって、

 想の時間に、私は取り残され続けた。


 今日も、教室で彼は私を見ていた。

理由が分からないまま、

 それでも惹かれてしまう目で。


 その視線を受け止めるたび、胸が痛む。


 だって私は知っている。


 このあと、彼がどんなふうに笑って、

 どんな声で私の名前を呼ぶかを。


 そして、その全部を——

 彼がまた失うことも。


 雨は、記憶を呼び起こす。


 でも同時に、終わりも連れてくる。


 それでも私は、空を見上げてしまう。

 降ってほしい、と願ってしまう。


 ほんの少しでいい。


 また彼と、同じ傘の下を歩けるなら。


 たとえその先に、

 「忘れられる未来」が待っていたとしても。


 ——私は今日も、雨を待つ。


 泡沫みたいな日々を、

 もう一度、抱きしめるために。

読んでくださりありがとうございます。

続きは明日、21時半更新予定です。

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