怪人
基地に着く。
今日は、守里さんがいた。
「おはようございます」
声をかけると、
守里さんは、ほんの少しだけ会釈を返した。
それだけだった。
言葉はない。
仕方ない。
出動が続いている。
疲労も、緊張も、きっと限界に近い。
そういう空気だ。
⸻
戦闘スーツに着替え終えたころ、博士が入ってくる。
「今日は、手強い相手になりそうだよ」
端末を見ながら、軽い調子で言う。
「装備品は忘れないように」
それだけ言って、博士は去った。
⸻
サイレンが鳴る。
いつもと同じ流れ。
ドリンクを手に取る。
一本目は、飲めた。
二本目に口をつけた瞬間、
頭の奥を殴られたような痛みが走る。
視界が揺れる。
――無理だ。
反射的に、錠剤をポケットに押し込んだ。
「こっちは……無理だ」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
次の瞬間、
視界が白く弾けた。
暗く落ちる感覚じゃない。
以前と同じだ。
強い光を、真正面から浴びたような――
あの感覚。
⸻
気づくと、車両の中だった。
揺れている。
エンジン音。
誰も喋らない。
集中しているのか、
それとも、もう話す必要がないのか。
――こんなに、時間がかかっていただろうか。
頭痛は、まだ続いている。
今日は手強い。
そう言われていた。
特別な場所なのかもしれない。
特別な数なのかもしれない。
これが――
最後になる可能性も、ある。
⸻
現場に着いた瞬間、
四人は、迷いなく前に出た。
少しだけ、出遅れる。
すぐに後方支援に入る。
――多い。
いや、
今までより多い、なんて言葉では足りない。
比較にならない。
視界の端から端まで、
“それ”が、蠢いている。
奇声。
怒号。
咆哮。
今まで聞いたものとは、まるで違う。
頭痛が、さらに強くなる。
散っていく“それ”を、ガンで潰す。
逃がすな。
逃がすな。
心の中で、何度も繰り返す。
撃って、
撃って、
撃って――
弾が切れた。
距離を詰める。
ソードを突き立てる。
今までに感じたことのない、
重い手応え。
強い。
ただ、それだけのはずなのに――
その時、
声が聞こえた。
悲鳴?
呻き声?
――人の、声?
瞬間、
頭の奥に衝撃が走った。
⸻
一瞬、目を閉じただけだったのか。
それとも、意識が飛んだのか。
わからない。
ただ、
さっきまでの頭痛が、嘘みたいに引いていた。
…………
耳を塞ぎたくなるような声が、聞こえる。
奇声とも、咆哮ともつかない。
喉を引き裂くような、壊れた音。
鼻を突く匂い。
鉄の匂い。
焦げたような匂い。
生臭さが、混ざっている。
ヘルメットの外側――
視界の部分に、
黒ずんだ液体が、厚く張り付いている。
拭おうとして、
指先が滑った。
手に、生暖かい感触。
液体だ。
ぬるりとしたものが、指の間を伝う。
おかしい。
“それ”は、どうなった?
僕たちは、
ちゃんと殲滅できたのか?
⸻
ヘルメットを外す。
一気に、音が押し寄せた。
悲鳴。
嗚咽。
何かを引きずる音。
地面が、紅い。
染まっている、なんて生易しいものじゃない。
濡れている。
踏み出した足元で、
靴底が、ぐしゃりと音を立てた。
血――。
それだけじゃない。
肉の欠片。
衣服の切れ端。
砕けたスマートフォン。
人だった痕跡が、散らばっている。
見渡す。
倒れている人。
折れ曲がったまま動かない人。
人。
人。
人。
転がっている、という言葉が一番近い。
数えきれない………
⸻
奇声の方へ、歩く。
血の海を、踏みしめる。
止まらない声。
近づくにつれ、
はっきりと見えてくる。
すでに動かない人を、
奇声を上げながら殴り続ける影。
遅かったかもしれない。
それでも、
止めなければならない。
距離を詰める。
さらに、近づく。
返り血に覆われた影。
その中に、
見覚えのある色が、浮かぶ。
赤。
青。
黄色。
ピンク。
戦闘スーツ。
目の前にいたのは、
四人の怪人だった。




