もう一歩先へ
基地に着いた時、すでに三人は揃っていた。
隊長。
力石さん。
見方さん。
全員、黙って準備をしている。
早い。
それだけのことのはずなのに、
いつもより空気が引き締まっているように感じた。
⸻
少し遅れて、守里さんが入ってくる。
「あ、ギノ。昨日はありがとね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
短いやり取り。
昨日のことを思い出して、少しだけ胸が落ち着いた。
全員が揃ったところで、博士が口を開いた。
「一昨日の出動で、一体取り逃がしている」
淡々とした声だった。
「その後、その一体については、
隊長と力石くんが対応した」
それだけの報告。
隊長も、力石さんも、特に反応はしない。
……大事にはならなかった。
そういうことだ。
胸の奥に、ほっとした感覚が広がる。
それでも。
次は、最初から逃がさない。
同じことを繰り返さないために。
⸻
「今日は装備を追加する」
博士がトレイを置く。
銀色の金属。
拳銃だ。
「ヒーローガン」
博士は、いつも通りの口調で言った。
「…戦隊モノですか?」
「危険だからね。慎重に使って」
手に取ると、ずしりと重い。
これ以上、取り逃がさないための道具。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
「今日も、出動がありそうだ」
博士が、付け足すように言う。
それ以上は何も言わない。
⸻
待機時間に入る。
思ったより、長い。
いつもなら、
こうして準備を始めてから、
ほどなくサイレンが鳴る。
今日は、違った。
見方さんは、静かだった。
騒がしいわけでも、落ち着かないわけでもない。
ただ、集中している。
その様子を見て、守里さんが小声で言う。
「ねえ、見方くん。今日、変じゃない?」
「一昨日のこと、気にしてるんだと思います」
取り逃がした件。
だから、いつも以上に真剣なんだ。
そう考えれば、自然だった。
⸻
――ウゥゥゥゥゥン。
サイレンが鳴る。
ドリンクを取る。
一本目を飲む。
「……君は、これも」
博士が、小さな錠剤を差し出した。
「導入剤だよ。君は量がなかなか増えないからね」
一瞬、ためらう。
でも。
次は、逃がさない。
錠剤を飲み込み、
二本目のドリンクを飲み干す。
次の瞬間。
頭の奥が、強く締めつけられた。
視界がいつもと違う、、
そのまま暗く落ちていく。
「今日はもう一度テストだから……」
誰かの声が、遠くで聞こえた気がした。
次に気づいた時には、車両の中だった。
揺れ。
エンジン音。
頭痛は、まだ続いている。
吐き気もある。
でも、出動は始まっていた。
⸻
現場は、静かだった。
怪人の気配が、薄い。
それでも、
影が動いた。
走る。
「……逃がさない」
ヒーローガンを構える。
引き金を引く。
乾いた音。
影の動きが止まる。
距離を詰める。
ヒーローソードを握る。
突き刺す、
その瞬間、
人のうめき声に近い音が、
耳に残った気がした。
気のせいだ。
そう思った。
⸻
車両に戻る。
頭痛は、まだ引かない。
「まずまずだな」
博士らしき声が、どこかで聞こえる。
腕に、ひやりとした感覚。
冷たい。
意識が、ゆっくり沈んでいく。
目を閉じた。
少しだけ、やっていることが変わってきました。
本人たちは、まだ同じことをしているつもりです。
次回も、いつも通りの話です。




