特別な休日
休日だと聞いたのは、前日の夜だった。
しかも、
守里さんに誘われた。
それだけで、少し落ち着かなくなる。
出動もなく、訓練もない。
本当にただの休みだ。
……なのに。
目覚ましをかけずに起きた朝、
妙に早く目が覚めてしまった。
服装を決めるだけで、少し悩む。
別に、特別なことがあるわけじゃない。
そう自分に言い聞かせても、どこか意識している。
⸻
テレビをつける。
『昨夜、都内で発生した不可解な襲撃事件について続報です』
聞き慣れた言い回し。
『警察によりますと、事件現場から逃げ延びた重傷者の男性は、聞き取りに対し、
「突然、奇声のような声が聞こえた」
「人なのか、怪物なのか分からない存在に襲われた」
と話していたということです』
画面には、ぼかされた現場映像。
一緒にいた仲間は、逃げ切れなかった。
……やはり、怪人だ。
僕たちが見ている“それ”と、
同じ存在の話をしているように思えた。
⸻
昼前、守里さんと合流した。
「今日は、ありがとうございます」
「いいよ。たまにはこういう日も必要でしょ」
そう言って、守里さんは気軽に歩き出す。
街は、驚くほど普通だった。
人がいて、
車が走って、
何も起きていない。
カフェに入り、軽く昼食を取る。
本当に、ただの日常。
それなのに、どこか落ち着かない。
「……正直、何もないのが、逆に変な感じがします」
「分かる」
守里さんは、短く頷いた。
⸻
「正義の味方庁って」
守里さんが、ふと思い出したように言う。
「やっぱり、変な部署だよね」
「はい。
正直、あんなところだとは思っていませんでした」
「だよね」
と守里さんは笑う。
少し間が空く。
「力石さんが、一番長いんだよ」
「へえ」
「その次が隊長。
私と見方くんは、わりと最近」
言われてみれば、確かに。
隊長と力石さんは、いつも落ち着いている。
落ち着きすぎている、とも言える。
また、少し間が空く。
「私、弟が亡くなってて。ここに配属される前なんだけど」
淡々とした口調だった。
「その時は、ただの不可解な事件だと思ってた。
ここに配属されてから……怪人の話を聞いて、
もしかしたら、って思うようになった」
「……そうだったんですね」
僕が何か言おうとすると、
守里さんは、ほんの一瞬だけ視線を落とした。
それ以上、この話を続ける気はないようだった。
⸻
――地下。
博士は、端末の画面を眺めていた。
表示されているのは、
隊員たちの状態ログ。
一つの名前に、視線が止まる。
「……まだ、馴染んでいない」
それだけ呟き、画面を閉じた。
⸻
それから、しばらく街を歩いた。
特別なことはしなかった。
買い物をして、他愛もない話をして、
時間が来たら、それぞれの帰り道に向かった。
「今日は、ありがとうございました」
「うん。気をつけてね」
そう言って別れたあと、
守里さんの背中を、少しだけ見送る。
夕暮れの色が、街に落ちていく。
ちゃんと休日を過ごしたはずなのに、
胸の奥に、何かが残っていた。
⸻
夕方、部屋に戻る。
テレビはつけたままだった。
『昨夜、都内で発生した不可解な襲撃事件について、続報です』
今朝見たニュースの続きだ。
『この事件で重傷を負っていた男性について、
警察は、本日夕方、容体が急変し死亡が確認されたと発表しました』
画面は、同じ現場映像。
『これで、この襲撃事件による死者は、
合わせて十三人となりました』
数字だけが、静かに読み上げられる。
……十三人。
今までより、明らかに多い。
説明は、それだけだった。
……結局、助からなかった。
そういうことらしい。
⸻
ベッドに横になる。
今日は、いい休日になった。
身体も休めたはず、、
そう言い聞かせるように目を閉じた。
今回は、戦っていない日の話でした。
次回は、またいつもの日常に戻ります。




