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正義の強化

 テレビのニュースが、また同じ言葉を使っていた。


『不可解な襲撃事件が相次いでいます。

 警察は、これまでの事件との関連性を――』


 犠牲者の数が、前より増えている。


 画面を見ながら、僕は自然と考えていた。


 怪人の数が、増えている。


 それだけのことだ。


 出動が追いついていない。

 だから、その分だけ被害が出る。


 単純な話だった。


 なら――

 もっと倒さなければならない。


 これ以上、犠牲者を増やさないために。



 待機室の空気は、いつもと変わらない。


 戦闘スーツに着替え、装備を整える。

 隊長は椅子に座り、目を閉じている。


 集中しているのか、

 それとも、ただ静かにしているだけなのか。


 そこに、博士が入ってきた。


「今日は、これも持っていって」


 博士は、トレイの上の一本を指した。


「ヒーローソード」


「……え?」


 手に取ってみる。


 銀色。

 刃渡りは短い。


 形状はどう見ても――


「普通のナイフじゃないですか、これ」


「違うよ」


 博士は即答した。


「ヒーローソードだ」


 見方が肩をすくめながら言う。


「ヒーローソードって……戦隊モノかよ」


 守里は、困ったように苦笑いした。


 力石は何も言わず、無言で受け取る。


 怪人が増えている。

 だから、武器が必要。


 それだけの話だった。


 僕も、そう思った。



 サイレンが鳴る。


 ドリンクが配られる。


 今日は、数が多い。


 隊長の前には、四本。


 迷いもなく、一本ずつ開けていく。

 表情は変わらない。


 力石の前には――五本あった。


「……多くないですか?」


 思わず聞くと、博士は気にも留めず答える。


「体格差だよ。問題ない」


 力石は何も言わない。

 黙ったまま、一本目を飲み干し、二本目に手を伸ばす。


 ……まあ、あの体だ。

 普通の基準で考える方がおかしいか。


 そう納得しかけたところで、

 ふと気づく。


 隊長も、力石も、

 飲み方が同じだ。


 味を確かめるでもなく、

 一気に流し込む。


 見方は一本多く取って、軽く笑った。


「今日は気合い入れとかないとな」


 守里は少し迷ってから、追加で一本。

 表情は、まだ普通だ。


 でも――

 隊長と力石だけは、違う。


 飲んでいるのに、

 何も変わらない顔をしている。


 ……慣れてる、ってことだろうか。



 僕の前には、二本。


 一本目は、飲める。


 二本目は――

 やはり、喉が受け付けなかった。


 半分ほどで限界だった。


「……すみません、ちょっと」


 洗面所で、口に含んだ分だけを吐き出す。


 戻ると、

 誰もこちらを見ていなかった。


 視界が、一瞬だけ白く弾けた。



 次に気づいた時には、車内だった。


 景色は、うまく頭に入ってこない。


 いつの間にか、

 車両はもう止まっていた。



 いつもより、少しひらけた感じがした。


 “それ”が、いくつも見える。


 正確な数は分からない。

 ただ、今までより明らかに多い。


 低い音が、腹に響く。


 言葉ではない。

 怒鳴り声とも違う。


 咆哮、

 という言葉が、一番近かった。


 近づくにつれて、違和感が増す。


 腕が、やけに長く見える。

 関節の位置が、少しずれている気がする。


 ……これまでより、明らかに強い。



 隊長たちは、迷いなく前に出た。


 合図らしい合図はない。


 それぞれが、

 それぞれの間合いで動いている。


 隊長は、誰よりも早く踏み込んだ。


 躊躇がない。


 武器を使うことにも、

 相手との距離にも。


 その背中を追うように、

 他の隊員たちも動き出す。


 見方は距離を詰め、

 刃を閃かせる。


 守里は無駄なく足を止め、

 近づいた“それ”を素早く制する。


 力石は正面から受け止め、

 力任せに押し倒した。


 誰も、誰かを待っていない。



 混戦が、一瞬だけ緩んだ。


 “それ”たちの動きが、不揃いになる。


 進む方向も、間合いも、揃っていない。


 それぞれが、

 場から離れようとしているように見えた。


 体が、先に動いていた。


 誰かに言われたわけじゃない。


 止めなければ、と思った。


 このまま散れば、

 どこで何をするか分からない。


 また、人を襲うかもしれない。


 だったら――


 距離を詰める。


 背中が見える。


 ヒーローソードを、振るう。


 刃が届く。


 手応えがある。


 “それ”は、もつれるように倒れた。


 動かなくなる。


 息が、少し荒い。


 でも、迷いはなかった。


 一体。

 もう一体。

 もう一体。

 もう一体。


 絶対に逃さない。

 それで、よかった。


 そう思った。



 戦闘は、思ったより早く終わった。


 数が多かった分、

 手数も増えただけだ。


 こちら側に、倒れた者はいない。


 それで、十分だった。



 車両に戻り、座席に沈む。


 疲れはある。

 でも、悪い気分じゃない。


 今日は、うまくやれた。


 武器も、上手く使えた。

 判断も、正しかった。


 視界が、ゆっくりと暗くなる。


 誰かが近くで、何か言っている。


 意味は、よく分からない。


 目を閉じる。


 ……少しだけ。


 少しだけ、休もう。



 怪人を止められた。


 それでいい。


 そう思っていた。


このあたりから、

少しずつ空気が変わっていきます。


次回は、

戦っていない日の話です。

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