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はじめての出動

 車両が止まったのは、住宅街の外れだった。


 気づけば、外はもう暗くなっていた。


 家々は沈黙し、通りには人の気配がない。

 空気が、妙に重い。


「配置につけ」


 隊長の短い声。


 それだけで、全員が動いた。

 言葉は交わさない。

 確認もない。


 僕は少し出遅れる。


「ギノ、お前は後方。周囲警戒」


「了解です」


 戦闘の輪から、一歩だけ距離を取った位置だった。



 前方で、何かが揺れた。


 人の形に、近い。

 だが、輪郭が定まらない。


 焦点が合わないまま、そこに“在る”。


 近づいたり、遠ざかったりして見える。

 動くたびに、像がぶれる。


 影のようでもあり、

 影そのものでもない。


 視線を動かすと、

 少し離れた場所にも、同じ“揺らぎ”があった。


 数は分からない。


 ただ、

 複数いる、という感覚だけがあった。


 次の瞬間だった。


 隊長が踏み込む。


 一直線の動き。

 それに重なるように、青い影が走る。


 突撃。


 すれ違うような一瞬。


 何が起きたのか、理解する前に、

 前方の“揺らぎ”の一つが、地面に伏していた。


 終わった、らしい。


 考える暇はなかった。


 残った“それ”が動く。


 見方が前に出て、動きを引きつける。

 守里が横に回り込む。


 力石が、正面からぶつかった。


 衝撃。


 像が大きく歪み、動きが鈍る。


「――今だ」


 隊長が踏み込み、迷いなく拳を叩き込んだ。


 それで終わった。


 倒れた“それ”は、

 人の形を保ったまま、動かなくなる。


 そこにあったはずの気配が、

 急に薄くなる。


 ……終わった。


 胸の奥が、ふっと緩む。


 ――これが、正義の味方の仕事。


 すごい。

 本当に、すごい。


 そのときだった。


 背後で、何かが迫る気配。


 近い。


 振り返る前に、身体が反応していた。


 踏み込む。


 軽い。


 信じられないほど、身体が軽い。


 拳が当たる。


 確かな感触。


 “それ”は、形を保ったまま倒れ込んだ。


 地面に伏し、動かなくなる。


 少し遅れて、息が荒くなる。


 ……倒した。


「ギノ!」


 守里の声。


「大丈夫?」


「……はい」


 自分の声が、やけに落ち着いている。


 見方がこちらを見て、短く頷いた。


「反応、良かった」


 隊長は何も言わなかった。

 ただ、周囲を一瞥し、小さく頷く。


 それだけで、胸がいっぱいになる。


 “それ”は、そのまま回収されていった。


 詳しい説明はない。


 気づけば、僕たちは車両に戻っていた。


 ドアが閉まり、エンジンがかかる。


 走り出す振動の中で、

 さっきの光景が、何度も頭に浮かぶ。


 初出動は、成功だった。


 そう思った。


 ……なのに。


 はっきりと聞こえたわけじゃない。


 ただ、

 何かを聞いたあとみたいな感覚だけが残っていた。


 それは、

 今も拳に残っている、この感触と、よく似ていた。


 気のせいだろう。


 そう思って、目を閉じた。

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