セイギノ
息を吐いた。
白く濁ったそれが、ゆっくりと上へ昇っていく。
空が、広がっていた。
灰色だったはずの空が、
いつの間にか赤く染まっている。
空を、ちゃんと見たのは
どれくらい前だっただろう。
視線を落とす。
戦闘服は、もう元の色が分からない。
乾いた赤が染み込み、
グレーだったはずの戦闘服は、黒ずんでいた。
もう、どこにも自分の色はなかった。
腕に、重みが残っている。
感覚はあるのに、
どこまでが自分のものなのか、曖昧だった。
⸻
気づけば、
足が、動いていた。
どこへ向かっているのかは分からない。
ただ、あてもなく……
だけど、何処かへ向かっているような……
頭の上に、空が広がる。
降り注ぐ、陽の光。
人も、
怪人も、
今はいない。
それが、
ただの現実だった。
太陽は、もう同じ場所にはなかった。
時間だけが、静かに進んでいく。
白かった息は、今は見えない。
長く歩いてきたはずなのに、足の裏に痛みはない。
地面を捉える感触だけは、はっきりしている。
空の赤みが、ゆっくりと薄れていく。
薄く伸びた影も、今はもう見えない。
⸻
夜が、街灯に照らされていた。
低いエンジン音が、近づいてきた。
止まる車両。
開く扉。
中から、影が降りてくる。
見慣れた戦闘スーツ。
赤。
青。
黄色。
ピンク。
距離を測る間もなかった。
銃声が、重なった。
肩。
腕。
脚。
衝撃が、時間差で身体を貫く。
倒れる――
その前に、距離が詰まった。
刃が、胸に入る。
熱。
息が、抜けた。
「……もり……さと……さん……」
声になったかどうかも、分からない。
ただ、
もう彼女の耳には何も届いていない。
次の瞬間、
刺さった刃を抜くように、身体を突き飛ばされる。
地面に崩れる、その上から――
影が、重なった。
同時に、
三つの刃が、振り下ろされる。
音。
衝撃。
何かが、終わった感覚だけが残った。
⸻
薄れゆく意識の中、
視界の端で、影が揺れていた。
四つ。
見慣れた色の戦闘スーツ。
そこに、僕の血だけが残っていた。
セイギノ……




