作戦の中止
視界の中で、四つの影が動いている。
返り血に覆われた戦闘スーツが、ゆっくりと、しかし確実に人を壊していく。
喉が、詰まる。
どうして、こんなことに――。
考える前に、声が出ていた。
「やめてください……!」
声は、奇声と咆哮の中に、あっさりと飲み込まれる。
届かない。
叫べば叫ぶほど、遠ざかる……
視界の中に、守里がいた。
「守里さん……!」
駆け寄り、腕を掴む。
「……“それ”は、……人です!」
もう、戻れない言葉だった。
次の瞬間、
信じられないほどの力で振り払われ、身体が宙を舞う。
地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出された。
視界が揺れる。
立ち上がろうとした時、守里はもうこちらを見ていなかった。
視界の端で、何か殴り続けていた。
もう、止められない。
⸻
国防省本部。
無数のモニターに、現場の映像が映し出されている。
警告音。
断続的な報告。
「制御不能です」
「作戦を中止」
間を置かず、命令が続く。
「特殊部隊を派遣。至急」
短い沈黙。
「五体を拘束しろ」
⸻
轟音。
閃光。
黒い影が、次々と現れる。
揃った足音。
無駄のない動き。
麻酔銃の乾いた音が、夜気を切り裂いた。
撃たれ、
倒れ、
拘束具が巻き付けられていく。
一瞬だけ、静寂が落ちた。
――終わった?
呻き声。
金属が歪む音。
「……どうして……」
近くにいた隊員に詰め寄る。
声が、震える。
「どうして、こんなことに……」
返ってきたのは、低く、冷たい声だった。
「お前もだ」
銃口が、こちらを向く。
「化け物め」
視界が、狭まる。
指が、引き金に触れる。
息が止まる。
銃口の向こう、
拘束された影が――動いた。
金属が軋む。
拘束具が、裂ける。
怒号。
悲鳴。
乾いた金属音。
それらを押し潰すように、
喉を裂く声が上がる。
奇声。
咆哮。
意味を持たない音の塊が、
一気に背中にぶつかってくる。
気づいた時には、走っていた。
考えていたわけじゃない。
逃げようと決めたわけでもない。
ただ――
僕は、走っていた。
息が切れ、喉が焼ける。
何度か足がもつれ、それでも前に出る。
どれくらい走ったのかは分からない。
やがて、限界が来て立ち止まる。
荒い呼吸のまま、顔を上げた。
足を止めた時、
そこには、もう誰もいなかった。




