俺、魔王の城へと潜入する
俺の持ち得るハイパーアルティメイトキックは、対単体相手に破壊的な強さを発揮するスキルだ。
今現在の状況は、スケルトンが四方八方に跋扈し、しまいにはドM女が転がって嬲られている始末。
コイツらを一網打尽にするには多少の工夫が必要となる。
対複数を相手にするには、風を帯びた魔法を駆使して敵に当たる他ないだろう。
過去、引き篭もりゲーマーとして名を馳せていた俺の発想力を解き放つ時がきたか!
……さて、唱えよ!
「自然界に吹き荒ぶ風よ、我が心に宿る疾風の如く、時には静かに、時には荒ぶりて、その力を解き放ち、世界を翻弄せしめん!!」
俺の体を中心として、風がグルグルと吹き荒れる。
出来上がった巨大な竜巻が唸りをあげながら、その範囲を更に拡大させていく!
「広範囲フィールド、ヴォルテックストーム、展開……!!」
スケルトン達は巨大な竜巻に吸い込まれて、天井へと吹き上げられる。
「ふっ、定まれ!!」
俺の放った風が落ち着きを見せ、定まった。
ポトポト一匹二匹とスケルトンが地面に落ちてくる。
地下のダンジョンであったために、内部は埃や砂諸共、綺麗に一掃されていた。
だが、ただの物理的なダメージだけでは浄化できないのが、骸骨型魔物の厄介なところである。
風魔法を直撃したスケルトンは動きを止めているが、奥の方からガチャガチャと骨の動く音が聞こえてくる。
仲間をやられた腹いせに、追手が近付いてるっぽいな。
であるならば……仕方ない。
難関ダンジョン六本木の前座としては充分だ。
肩慣らしに光系統の武具を呼び出すとしよう。
黄金錬成……!!
「金色の盾ディバインシールド、創造」
この盾は、邪な者の攻撃を防ぐのに特化している金ピカで高価な盾だ。
しかしながら、かなりの重量であるために、残念ながら俺には持つこと自体が叶わなかった。
「ぐぉぉぉ、重たぁぁ…………無理だ。あまりにも精巧な金属を創造してしまったばっかりに、自分で扱えないとは情けない!」
ふと横を見ると、目をキラキラさせたエリカ様が突っ立っていた。
ついさっきまでスケルトンの猛攻と、俺の起こした竜巻をモロに受けていたとは思えない立ち振る舞いである。
流石はドMを極めし者、打たれ強さは天下一品、擦り傷一つないとは驚きだ。
「なんと、光り輝く盾がこんな所に落ちてるじゃないか!」
「これはスケルトンを浄化する黄金錬成された大盾だ。エリカに預けるから入り口に立っててくれ!」
「何から何まで感謝するぞ! 渋谷駅の防衛は全て私に任せてくれていいからな!」
「間違っても盾を捨てるのだけは勘弁してくれよ!」
「物足りなくなったら捨てるつもりだった……いや、何でもないぞ! いよいよ盾騎士の本領を発揮する時がきたようだ!」
この変態、否、変人めが!
エリカは意図も容易く金色の盾を広い上げ、ガッチリと身構えた。
火事場の馬鹿力とはこのような人間を指す。
そして、次々に襲いくるスケルトンを風でいなして吹き飛ばし、盾にぶつけて浄化する。
盾が放つ神々しい光で渋谷駅入り口を実質封鎖、スケルトンは動きを完全に制限されてしまった。
『グォォォォォ……』
「よし、ラストだ。ハイパーアルティメイトキックぅぅぅぅぅ!!」
俺は最後の一匹となったスケルトンをディバインシールドへと一直線に蹴り飛ばして、終わらせた。
うむ、体力の最大値も二百まで上昇している。
余力を残しての攻略達成だ!
「よっしゃあ、楽勝過ぎて相手にならんな!」
:無茶苦茶やw
:盾騎士の癖に初めて盾を持った哀れな女。
:ヴォルテックス何ちゃらだか知らないけど、確実にフィールドではない気がする。
:相変わらず痛いなお前wwww
:でも今日のYAPOOニュースの閲覧ランキング上位が厨二病患者だったから、注目度は相当高まってるぞ!
:ドヤ顔キメぇww
:明日はついに六本木か。頑張って。
そう、これは予行演習みたいなもん。
この程度のダンジョンでひぃひぃ言ってたら話にならないからな。
エリカの実力を測るためでもあったわけだし、まずまずの収穫と言えるだろう。
魔石が散らばっているから一つ残らず拾わないと。
帰った後、とある鍛造師に渡して、恒常的に持参できる新たな装備を鍛造してもらうつもりだ。
俺は再び『超高性能四次元式コンパクトバッグ』を創造した。
大量の魔石を適当に詰め込んで、今日の任務は終了となった。
「リスナーの諸君、今日も配信見てくれてありがとなぁ。明日は早朝から六本木のビルに繰り出すから、覚悟しとけよ!!」
◇
一方その頃。
六本木ビルズ、通称魔王城にて。
禍々しき雰囲気が立ち込める城内。
とある階層には、頬杖を付いて偉そうに玉座に座る一人の魔王がいた。
「ぞ、ゾルゲ様ぁぁぁ! 大変で御座います! 今話題の男がこちらに殴り込みにくるとの情報が舞い込んできましたぁ!!」
「ふふふふっ、がっはっはっはぁぁぁ!! 其奴もそこらの冒険者と同様、有象無象の内の一人であろう。恐るるに足らぬわ!!」
「で、ですが、何やら不可思議な力を行使する模様で……油断は禁物かと……!」
「ワシの力を忘れたわけじゃあるまいて」
魔王は懐から黒刀を取り出して、配下の魔物に突き立て脅す。
「ひ、ひぃぃぃぃ。出過ぎた真似を……申し訳ございません!!」
「ま、ワシが出るまでもなかろうに。暇してる四天王にでも相手させよ。ワシは別室でサキュバスの相手をせにゃならんので忙しいのよ」
「はっ。直ぐに通達致します」
「して、ワシの生誕祭の準備は順調か?」
「えぇ、それはもうバッチリかと。例の建造物の準備も滞り無く進んでおりまして、今夜には完成するかと……」
……と、その時だった。
『ドッカーーン、ガッシャーーん!!』
「な、何事であるか!?」
「緊急事態、緊急事態。何者かが城内に侵入し、エントランス階層で暴れております!!」
「な、何じゃとぉぉ!?」
魔王に休息の刻は訪れなかった。
次回『俺、魔王城でシンボルを破壊する』




