俺、YAPOOニュースに掲載される
ドラゴンは氷漬けとなり、戦闘不能となった。
だがしかし、相変わらず目をぎらつかせてこちらを睨んでいる。
何かを訴えかけるかのように。
「しぶとい奴め!」
:マジで倒しやがったww
:高難易度ダンジョン攻略おめでとう。
:魔石の回収を忘れないように。
:ドラゴンまだ生きてる?
:氷が溶けかかってるから生存しとる。
ドラゴンの体内から発される熱によって、氷がジュワっと蒸発した。
中から満身創痍のドラゴンがのっそりと翼を広げながら、口を開く。
『グルっ……お主の剣、久方ぶりに効いたぞ』
「なっ、フレアドラゴン、お前喋れたのか!!」
『ワシは実力を認めた者としか話さんからな。お主には褒美として、この炎龍の逆鱗をやろう。では、さらばじゃ』
そう言うと、ドラゴンは大きな翼を羽ばたかせながら空高く舞った。
「これからは人様に迷惑かけるんじゃねぇぞ!」
『グルルっ……承知した……!』
そして、傷付いた体を庇いつつ、遠くの空へと瞬く間に消えていった。
こうして難関ダンジョンと呼ばれていた渋谷一〇六のボスは立ち退き、周辺地域の安全は守られた。
この俺の手によって!!
:これで知名度爆上がったか。
:厨二病患者強ぇぇぇぇえ!!!
:重度の厨二病を患った人間にしか扱えないなこりゃ。
:氷砕古剣ミストリアヌス【極寒】……即興で考えたにしちゃだいぶ凝ってるな。
:発想力が肝要、か。
:加えて、コイツの超絶プラス思考とも相性が良いときた。
:ワシからの選別じゃ。≪¥10000≫
俺自身、まさか厨二病患者がここまで強力だとは思ってなかったからビビる。
使い方次第では、戦闘以外の局面でも利用できるかもしれない。
しかもだ。
YAPOOニュース速報を見てみろ!
表紙ではないにせよ、俺の勇姿がデカデカと掲載されているではないか!
いやはやこの写真、我ながらツワモノ感半端ねぇっす……!
ジョブチェンジ担当の新人ちゃんには感謝してもしきれないってもんよ!
仕方ない、今度飯でもご馳走してやるかな。
さてと、今回の戦利品は、純度Sランクの魔石と、炎龍の逆鱗か。
竜の逆さ鱗が何に使えるのか定かじゃないけど、名前からして凄いレアアイテムっぽいし、大切に保管しといて損はないだろう。
俺は唱えた。
『一日限定、超高性能四次元式コンパクトバッグぅぅ、創造〜!!』
説明するまでもなく、所持品を無限に詰め込める便利な小型のバッグを生成した。
これで一時的にだが、安全に冒険者寮へとお持ち帰り出来る。
炎龍の逆鱗ともなれば、表面温度は二百度を悠に超える高温なもんで、手袋を着けていても持ち続けるのは危ないときた。
ちなみに一日限定にしなければ、体力が下限突破して命の危険に晒される恐れがあるため、少し遠慮気味に低く設定させてもらったぜ。
『プルル、プルル』
「お、丁度ギルドから連絡がきたか」
ドラゴンを討伐したことによって作戦行動中のステータスが任務達成へと変化していた。
「マヒトさん、ドラゴンの討伐おめでとう御座います。すぐにギルドまでお戻り下さい」
俺は足早にギルドへと向かった。
◇
ギルドの受付に到着した俺は、たんまりと報酬を受け取ったのち、冒険者が憩いの場としてよく利用される酒場へと案内された。
着いて早々に酒場の店主と思われる人物に声をかけられる。
「よく来たな! お前さんマヒトっつったか! お前の戦いっぷり、存分に見させてもらったよ。新米の癖してやるじゃねぇか!!」
「おう、サンキューな!」
「今この酒場じゃお前さんの話でもちきりよ。ここ最近じゃあ渋谷一〇六を完全攻略できる冒険者が中々現れなくって、皆四苦八苦してたからな!」
「俺にかかればドラゴンとか一捻りだけどな!」
「ガハハハっ、若いのに言うねぇ! まあ今日は祝勝記念さ。店主である俺の奢りってことで、好きなだけ飲んで食ってもらって構わないぜ!!」
「なら遠慮なく爆食いさせてもらうぜ!」
初めて来た酒場だったが、大歓迎ムードでもてはやされている様子。
なんか胴上げなんかも始まっちゃってさ、一日で英雄になった気分かな。
まあ不満があるとすれば、少しばかり男臭過ぎる空間なので、ちょっと花を添えたいとか思ったりしなくもない。
流石にいないよなぁ、こんな場所に可愛らしい美少女ちゃんなんて……。
「君はさっきドラゴンを倒したマヒトだな」
「うん。俺は間違いなくマヒトだけど、どうしたのお姉さん」
声をかけてきたのは美少女……というよりは、少々色気のあるお姉さんっぽい女性。
「素晴らしい活躍ぶりだったな。私も騎士として見習わなきゃならないと思ったよ」
「あ、もしかして貴女は……めちゃくちゃ硬い盾騎士として有名な冒険者、南田絵里香じゃないか?」
「おぉ、よく知っていてくれたな! 私はエリカだ。以後お見知り置きを!」
この人は、盾騎士というジョブとしてダンジョン攻略を行う女冒険者だ。
見た目はスラっとした長身で、比較的スマートな甲冑を身に纏い、両腰に剣を備え付けている。
顔面は大人びていて綺麗な顔立ちの二十一歳のお姉さん系な美女だ。
頭に装備されたお洒落な防具の隙間から見え隠れする真っ金金のロングヘアーが、俺の鼻息を荒らげる。
俺は被っていた仮面と手袋を外し、紳士的に質問を投げかける。
「エリカさん、何でこんなむさ苦しい場所に一人で?」
「あ、あぁ。実は、今日もダンジョン配信をしてたのだが、いかんせん中々敵を倒せなくてだな……リスナーから厳しい言葉を受けたりと……やむにやまれず酒を飲みに来たんだ」
「でもめちゃくちゃ打たれ強いって評判はよく聞くけど、攻撃の面は苦手って感じ?」
「上手く当たらないんだ。その反面、攻撃を喰らうのは大好物……いや、大得意だからな! マヒトはさっき見た感じだと、攻撃に特化してるとお見受けするが」
「うむ、間違っちゃいないな」
まぁ最強の武器ってやっぱりカッコいいし、どうしても攻撃に特化している剣やら槌を創造したくなっちまうのは、ロマンを追い求める男のサガだからな。
で、結局この女騎士は何が言いたいのかというと。
「なぁ、私と、パーティ組みませんか?」
……なぬっ!
ま、まさかのパーティ申請か!
いきなりプロポーズされた気分だぜ!
これがドラゴン討伐による真の恩寵なのかもしれない!
断る理由はないな。
こんな綺麗な年下お姉さんと一緒にダンジョン攻略できるなんて、夢か幻かって。
下手したらもっと親密な関係に……グヘ、グヘへへ。
下らない下心はさて置き。
……メッチャいいじゃん、最強の矛と盾。
難敵相手にバランスの取れた組み合わせだし、より厨二病セリフをいかんなく発揮できそうで、色んな意味でワクワクしてきた。
俺は二つ返事で提案を飲んだ。
「おけ、これからよろしくなぁ!」
「まだまだ未熟者だが、これからよろしく頼む!」
新たなパーティメンバー、盾騎士エリカが加わった。
次回『俺、女騎士に稽古を付ける』




