俺、魔物を焼き滅ぼす
まだ諦めるには早い。
この娘が俺の配信を見ている一視聴者だという可能性も否めないからな。
ただ単に厨二病と煽ってるだけかもしれん!
「えーっと、もう一回言ってもらってもいいか。俺は何のジョブになったの?」
尚もあたふたしている受付嬢は、俺の崇高なる股間を見るまいと、目を手で覆い隠しながら返答をする。
「で、ですから……あの、その、厨二病患者です」
……寝言は寝て言え!
はぁ、俺がいくら厨二臭漂う人間だったとしてもだなぁ……間違いなくさっき剣士を選んだだろうに。
そもそもタブレットで見せてもらったジョブ一覧には厨二病患者とかいう意味不明なジョブはなかったはずだが?
結論、馬鹿にしてんのか、この女!!
「お嬢ちゃん、大人を揶揄うのは良くないよ。こう見えても僕は歴とした紳士なんだ。見た目で判断するのは良くないんだぞ!」
「も、もうギルドカードと紐付いているので、念の為、ご自身で確認をお願いします」
確かにな。
ちゃんとジョブチェンジされているのだったら、ギルドカードの冒険者ジョブの欄に記載されているはずだ。
さて、どれどれ……。
★★★
≪名前≫天童真飛斗
≪年齢≫二十五歳
≪冒険者ネーム≫マヒト
≪冒険者ランク≫C
≪冒険者ジョブ≫厨二病患者
≪所持スキル一覧≫
【物理系統】
なし
【魔法系統】
なし
【特殊技能】
ハイパーアルティメイトキック
【身体強化】
なし
≪状態異常≫
厨二病(永続、消去不可)
≪体力≫
100/100
★★★
オワタ(二度目)。
:え、聞いたことないジョブなんだけど。
:これほどお前にお似合いのジョブはねぇよwwww
:剣聖王の夢、僅か一日で断たれる。
:受付嬢訴えて金貰った方がいい生活出来るぞ。
:目が死んでるw
俺は自分の衣服を着込み、トボトボと部屋の出入り口を目指す。
「あ、あの。一応新人の方に言わなければならないセリフがありますので、一言だけ……」
「そか、じゃあ激励よろしくなぁ」
『ジョブチェンジおめでとうございます! 遥かなる頂きを目指せ……ちゅ、ちゅ、厨二病患者として!』
「行ってきまーす」
ち、最後に"剣士として"って文言が入るはずだったのによ!!
こうして、前途多難な冒険者生活が始まった……と思いきや、慌ただしい様子の声が館内放送によって響き渡る。
『緊急任務、緊急任務! 今現在ギルド内にいる腕に覚えのある冒険者は、至急、例の掲示板前までお越し下さい。繰り返します…………』
各ギルド周辺ではよくある事。
渋谷周辺地域にて緊急的にダンジョン攻略を要する場合にのみ発せられる号令だ。
「なんか装備でも買って参戦するか」
:おま、マジでやめとけって。
:怪我じゃ済まされない。
:命あっての物種だ。
:ハイパーアルティメイトキック使えよ(爆笑
:おいおいおいおい。今回の緊急任務、よりにもよってあの渋谷一〇六の難関ダンジョンじゃねぇか。
電光掲示板にデカデカと表示されていたのは、かの迷宮渋谷一〇六!
かつてビル型の商業施設として若者を中心に根強い人気を誇っていた建造物である。
が、いつの間にか迷宮深度レベル【7】として定められ、凶悪なドラゴンの巣窟へと変わり果ててしまった。
よくニュースでも取り上げられるそこそこ有名な高層ビル型ダンジョンであり、手練れの配信者がダンジョン攻略と称して配信活動をする場所としても有名だ。
:ここ最近、最上層の屋上部分にドラゴンが住み着いたってのは専らの噂だがな。
:厨二病患者があの一〇六を攻略出来るわけがねぇ。
:そもそも何に特化したジョブなのか見当も付かないのだが……。
:ま、ギャグ路線なのは間違いないけど。
:今回は流石に勢いだけじゃ厳しいわな。
確か、このダンジョンの適正な冒険者ランクは【S】以上だったか。
緊急任務は急を要する任務であるため、一人でも多くの人手が必要なので、低ランク帯の俺でも参加自体は可能である。
何なら個人的にギルドを通さず勝手に攻略しに行っても問題はない。
が、ギルドからの報酬は当然ゼロなので、利益的には旨味が少ないってだけの話。
とりあえず任務を受注するカウンターまで行くか。
「緊急任務の詳細を教えてくれ」
「冒険者の方ですね。緊急任務の参加をご希望でしょうか?」
「おぅよ。俺が向かってちゃちゃっとドラゴンを粉微塵にしてきてやるから、安心しな!」
「は、はぁ……では、ギルドカードを拝見させて頂きますね」
「どうぞ」
「…………ぶふっ」
なんかニヤニヤ笑いながら冷めた目付きで俺を見てくるのは気のせい?
「ん、どうかした?」
「い、いえ、失礼しました。えーっと、これで向かわれるおつもりで?」
「リスナー達も応援してくれてるもんで、期待には応えないとだからな!」
「期待に応える前に粉微塵にされるのはあなただと思いますが……まあいいでしょう。戦闘不能となった瞬間に強制的にワープさせられるので、死ぬことはないですが、一生歩けない体になる可能性があります。それでも行きますか?」
「うん。余裕!」
:職員が呆れてるw
:マヒト、せめて生きて帰ってこい。
:装備はどうすんねん!
:いや、ジョブ的に装備できる武器がそもそもないんじゃ……。
:その無謀さ、俺は嫌いじゃねぇぞ!
正式に緊急任務参加証明の判子が押された。
ギルドカードには作戦行動中と表示されている。
「では、お気を付けて」
「帰ったら高級ドラゴン肉を振る舞ってやるよ」
「遠慮させて頂きますね」
覆面マスクマンの俺は、ギルドを出発した。
◇
迷宮渋谷一〇六、一階エントランス区画。
通称ゴブリンの間。
今回のミッション内容は最上階に住まうフレアドラゴンの討伐だ。
屋上へと到達するにはエレベーターを利用するのが一番手っ取り早い。
しかしながら、この階層ではゴブリンキングがエレベーター前に陣取っており、完全な障害となってしまっているのだ。
「貴様がゴブリンを従えるゴブリンの親玉、ゴブリンキングだな!」
『ぐがぁぁぁぁああ……!!』
「ほう、臨戦体制とはいい度胸じゃないか。いいだろう、後悔しても遅いからな!!」
ゴブリンキングは棍棒を両手に持ち、俺に向かって接近してきた。
図体が大きい癖に意外と動きが素早いな。
:推奨ランク【A+】の魔物じゃん!
:南無阿弥陀。
:でけぇ、全長三メートルはあるだろ。
:逃げてぇぇぇ!!
「うし、俺の究極のパンチをお見舞いしてやるぜ!」
などと、犬笛を吹きながら、名前だけ強キャラ感満載のただのパンチを敵にお見舞いする…………つもりだった。
ゴブリンと直線上の一騎打ち。
お互いの距離は既に約数メートル。
……そして、俺は唱えた。
恥ずかしげもなく、声高らかに堂々と。
「紅蓮の炎よ、我が拳に燃え盛れ。その熱量は宇宙をも照らすが如し!!」
『この手に宿れ! 究極神拳奥義……紅蓮演舞拳、三式!』
俺の拳はゴオゴオと唸りをあげて燃え盛る。
周辺の温度がみるみる内に上昇していき、やがて、大気に揺らめきが生じ始めるレベルへと達した。
『グ、グガッ……ガァァ……!』
逃げの態勢を取っていたが、刻既に遅し。
ゴブリンの王様は灼熱の拳に焼き尽くされ、あっけなく豚の丸焼き状態となった。
「こ、この力は……厨二病患者とは一体……!!」
ゴブリンキング、撃破。
エレベーターホール占拠完了。
同時にコメント欄が色んな意味で荒れていた。
次回『俺、最強の剣を創造する』




