まっすぐすぎる新人騎士
「今日はお前、こいつと組め」
ギルドのカウンターで、マクスが一本の指で隣を示した。
そこに立っていたのは、まだ鎧が新品の匂いを残していそうな若い男だった。
背筋はピンと伸び、目はやたらと真っ直ぐ。
「新人騎士のカイルです! 勇者様とご一緒できるなんて光栄です!!」
声がでかい。眩しい。まぶしすぎる。
「……よ、よろ……」
「はいっ!! “よろしく頼む”ですね!!」
(まだ“し”しか言ってない……)
⸻
依頼は近場の魔物討伐。
小規模だが、数が多いらしい。
森に入った瞬間から、カイルはずっと俺の一歩後ろをくっついて歩いていた。
「勇者様の背中、すごく安心します!!」
「……」
「やはり多くは語らず、背で語るタイプ……!」
(違う、ただ黙ってるだけだ……)
⸻
魔物が現れた。
俺は剣を構え、いつも通り一撃で薙ぎ払う。
「す、すごい……!!」
カイルは感動で震えていた。
「まるで“先に行け”とおっしゃっているかのような一太刀!!」
(そんな意味込めてない……)
俺は「まだいるぞ」と言おうとした。
「……う、うし……」
「“よし、突撃”ですね!!」
カイルが全力で突っ込んでいく。
(違う!! “後ろ”を見ろって言いたかったんだ!!)
⸻
結果、カイルは魔物に囲まれていた。
俺が慌てて助けに入る。
「ありがとうございます!! 命令通り、先行しました!!」
(お願いだからもう少し周りを見てくれ……)
⸻
戦いの後、カイルは妙に目を輝かせて俺を見た。
「勇者様……さっきの沈黙、あれは“成長しろ”という無言の叱咤ですよね!」
「……ち、ちが……」
「たしかに! 言葉は甘やかしになる! あえて何も言わず、己で気づかせる……!」
(違う!! 本気で違う!!)
⸻
帰り道。
俺は「疲れたから少し休もう」と言いたかった。
「……や、やす……」
「“休むな、進め”ということですね!!」
なぜそうなる。
⸻
ギルドに戻ると、マクスが腕を組んで待っていた。
「で、どうだった」
俺が答える前に、カイルが叫んだ。
「最高でした!!
勇者様は一切無駄な言葉を使わず、すべて“沈黙”で導いてくださいました!!」
「……は?」
⸻
マクスは俺を見た。
俺は何も言えず、視線を逸らした。
「……あー、うん。解散な」
「!」
カイルが目を見開いた。
「そ、そんな……! 僕はまだ、勇者様の沈黙を――」
「勘違いが限界突破してるから解散な」
⸻
カイルは最後に、深く一礼した。
「短い間でしたが、ありがとうございました!
あの沈黙、一生忘れません!!」
そう言って、爽やかに去っていった。
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俺はその背中を見送りながら、心の中でつぶやいた。
(今までで一番、疲れた……)
⸻
──そして世間はまたこう言うのだろう。
「勇者は、言葉なき英雄だ」と。
……違う。ただのコミュ障です。




