伝わらなくても、届いた気がした
ギルドの掲示板の端に、ひときわ小さな依頼書が貼られていた。
大きな魔物退治でも、財宝探索でもない。
そこに書かれていたのはたった一行――
「ネコを探してください(9歳・リナ)」
「たまにはこういうのもやれ」
マクスが肩をすくめながら言った。
「お前みたいなタイプでも、子ども相手なら怖がられねぇだろ」
(……そうかもしれない)
⸻
リナは茶髪の小さな女の子だった。
少し怯えたように俺を見上げる。
「あの……勇者さま、ですか?」
「……う、うん」
「ほんとに来てくれた……ありがとう」
その笑顔は、魔物より強かった。
なぜか胸が詰まる。
⸻
二人で街を歩いた。
リナは小さな声で、猫の特徴を話してくれた。
「白くて、しっぽがくるんってなってて……でもすぐ逃げちゃうの」
俺は黙って頷きながら、家の裏や木の上を探した。
声をかけようとしたけど、うまく言葉が出なかった。
(見つかったら、“よかったね”って言おう。簡単な言葉だ)
⸻
しばらくして、路地裏から小さな鳴き声がした。
「ミルク!」
リナが駆け出す。
白い猫が、塀の上でこちらを見ていた。
俺はそっと近づき、ポケットから干し魚を取り出した。
猫が降りてくる。
リナは泣きながら抱きしめた。
「ありがとう、勇者さま……!」
「……」
言葉が出ない。
でも、胸の奥があたたかい。
(こちらこそ、ありがとう)
そう思った瞬間、リナが小さく笑った。
「……うん、わかってるよ」
⸻
ギルドに戻ると、マクスが珍しく何も言わなかった。
ただ、俺の顔を見てニヤリと笑っただけだった。
(……伝わらなくても、届くことはあるんだな)
⸻
──そして世間はまたこう言うのだろう。
「勇者は感情を捨てた」と。
……違う。ただのコミュ障です。




