同じコミュ障なら上手くやれる!?
お前に紹介したい奴がいる」
ギルドのカウンターで、マクスがいつものようにニヤついていた。
「名前はノエル。弓使いだ。性格は……お前と似てる」
「……似てる?」
「そう。あいつも相当なコミュ障だ。お互い気を使わなくて済むだろ」
(……それ、悪くないかもしれない)
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ノエルは、柔らかな銀髪の青年だった。
目が合うたび、そっと逸らす。
こちらが何か言おうとすると、彼も同じタイミングで喉が鳴る。
「……よ、よろ……」
「……よ、よよ……」
沈黙。
(同じタイプだ……!)
心の中で叫んだ。何も言わなくても、なんとなく分かり合える気がした。
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森の探索でも、会話は少なかった。
どちらも黙って進み、黙って戦い、黙って休む。
まったく無駄がない。
(……なんて楽なんだ)
言葉がなくても成立する関係。
今までの誰よりも、やりやすい。
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けれど問題は、連携が取れなさすぎることだった。
魔物が出現したとき。
俺が右に回り込もうとした瞬間、ノエルも同じ方向に走る。
結果、ぶつかって転倒。
「……す、す……」
「……すみ……」
声が重なり、また沈黙。
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休憩中。
ノエルが立ち上がる。
俺もほぼ同時に立ち上がる。
どちらも何も言わないまま別方向へ歩き、気づいたら見失っていた。
(……あれ?)
周りは森。静かすぎる。
そして向こうも同じように迷子になっていたらしい。
二人して、声も出さずにお互いを探し回り、
ようやく再会したときには日が暮れていた。
「……お、おつかれ……」
「……お、おお……」
結局、その一言しか交わせなかった。
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ギルドに戻ると、マクスが頭を抱えていた。
「お前ら……報告が“無事です”の一行ってどういうことだ」
「……」
「……」
「……もういい。解散だ。いや、むしろ解散しないと迷子になる」
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ノエルは静かに頷き、
「また、どこかで……」と小さく呟いて去っていった。
俺はしばらくその背中を見送ってから、ふっと笑った。
(不思議だな。いちばん気まずくて、いちばん落ち着く相手だった)
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──そして世間はまたこう言うのだろう。
「勇者は誰とも組まない。孤高を貫く」と。
……違う。ただのコミュ障です。