筋肉武闘家と、噛み合わない拳
「お前に紹介したいヤツがいる」
ギルドのカウンターで、マクスが腕を組んで笑った。
「名前はゴードン。武闘家だ。……まぁ、見りゃわかる」
その背後から、山みたいな男が現れた。
全身が筋肉でできている。顔も筋肉でできている気がする。
「おう! てめぇが勇者か! 俺と拳で語ろうぜぇ!!」
「……」
「その沈黙……“受けて立つ”ってことだな!? わかるぜ!!」
(ちがう、ただ声が出なかっただけだ……!)
⸻
森に入ると、ゴードンは大はしゃぎだった。
「魔物が出やがった! さぁ勇者、どっちが多く倒せるか勝負だ!」
「……い……」
「“いいぞ”だな!? よっしゃあああ!!」
(違う、言いかけただけなんだ……!)
⸻
ゴードンが魔物を殴り飛ばす横で、俺も仕方なく剣を振る。
一撃で群れごと吹き飛ばした。
「なっ……! お前、やっぱり本気出してなかったんだな! 最高に熱いぜぇぇぇ!」
「……」
「その無言……“もっと戦え”って意味だろ!? おう任せろ!!」
(帰りたい……)
⸻
日が暮れる頃。
ゴードンは全身ボロボロになりながら、筋肉ポーズを決めた。
「勇者、お前……最高の仲間だ! だがわかってるぜ……」
「……?」
「その無表情、その沈黙……“まだ俺は足りない”ってことだろ!? よっしゃああ! もっと強くなって戻ってくるぜぇぇぇ!!」
ゴードンは勝手に盛り上がりながら、走り去っていった。
⸻
結局、仲間はできなかった。
でも世間はこう言うのだろう。
「勇者は誰も寄せつけない。孤高を愛するからだ」と。
……違う。ただのコミュ障です。