いつまで経ってもコミュ障です
「今日はお前にピッタリの子を紹介するぞ!」
ギルドのカウンターで、マクスがニヤついていた。
俺の同級生にして、この街の最年少ギルドマスター。
人当たり抜群のコミュ力お化けだ。
「名前はリリア。回復術士だ。お前みたいな無口でも、うまくやれる癒し系の子だぞ」
「……」
「そういう時は“ありがとう”くらい言えって!」
⸻
現れたのは、金髪で柔らかい雰囲気をまとった少女だった。
白いローブの裾を揺らしながら、はにかんで一礼する。
「はじめまして。リリアと申します。勇者レオン様とご一緒できるなんて、夢みたいで……」
胸が高鳴る。
今度こそ仲間ができるかもしれない。
俺は勇気を出して、喉を震わせた。
「……よろ……」
「え? ごめんなさい、聞き取れなくて……」
(し、しまった! もっと大きな声を……!)
「……し」
「――ひっ!?」
リリアが目を見開き、一歩後ずさる。
「“死”……!? い、いきなり脅しですか……!?」
(違う! “よろしく”だ!!)
⸻
ぎこちない空気のまま、俺たちは森へ入った。
「きゃあっ!」
魔物に襲われたリリアを、俺は剣で一閃。
「ありがとうございます……!」
今度こそはっきり伝えなきゃ。
俺は息を吸い込んで言葉を押し出す。
「……あ、あ……り……」
「え?」
「……が……とぅ……」
「“ガトゥ”……ぐらいなら私ひとりでも倒せってことですね!」
(違う! “ありがとう”だ!)
リリアは真っ青になりながらも森の奥へ駆け込んで行ってしまった。
⸻
慌てて追いかけると、彼女は再び魔物に囲まれていた。
「うわぁっ!」
大きな牙を持つ魔獣が迫る。
俺は剣を抜き、一閃。魔物は吹き飛んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「は、はい……でも……血が……」
リリアの腕には赤い線が走っていた。
俺は必死に伝えようとした。
「……ち、血……!」
「――チッ!?」
リリアの顔が凍りつく。
「い、今……舌打ちしました!? 私、また足を引っ張って……!」
(違う! “血が出てる”って言いたかっただけなんだ!!)
⸻
森を抜けたとき、リリアは小さな声で呟いた。
「……勇者様は、やっぱり一人の方がいいんですよね」
本当は「違う」「君が必要だ」と叫びたかった。
でも喉は固まり、言葉は出なかった。
彼女は深々と頭を下げ、背を向けて歩き去っていった。
⸻
残された俺は、剣を握りしめて空を仰ぐ。
仲間が欲しくて、頑張って声を出そうとした。
でも全部、裏目に出た。
──そして世間はまたこう言うのだろう。
「勇者は孤高を選ぶ」と。
……違う。ただのコミュ障です。