気づいたら世界最強になっていた
はじめまして! 読んでくださってありがとうございます。
本作は、世間から「孤高の最強勇者」と呼ばれている主人公が、
実はただのコミュ障で仲間ができない……というギャグ寄りの物語です。
基本は一話完結で、いろんなパーティ候補が登場します。
勇者のせいで(というかコミュ障のせいで)毎回すれ違い、
笑えたり、ちょっと切なかったりするお話になる予定です。
肩の力を抜いて、クスッとしながら楽しんでいただけたら嬉しいです!
──気づいたら、俺は世界最強になっていた。
名をレオン。二十六歳、独身。
世間からは「孤高を愛する勇者」と呼ばれている。
パーティを組まず、誰の助けも借りず、ただ一人で魔物をなぎ倒す姿が“美学”だとまで噂されていた。
だが、実際は違う。
俺はただ、コミュ障すぎて仲間を作れなかっただけだ。
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冒険者になったばかりの頃は、声をかけてくれる人もいた。
「なぁ兄ちゃん! 一緒に組もうぜ!」
その言葉に、胸の奥が震えるほど嬉しかった。
本当は「ありがとう、ぜひ一緒に!」と叫びたかった。
……でも、声が出なかった。
喉がひゅっと詰まり、目も合わせられず、結局黙って立ち尽くすしかできなかった。
「……あ、無視かよ」
相手はそう言って去っていった。
残された俺の胸の中には、鉛のような後悔だけが残った。
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それ以来、俺はずっと一人で戦った。
小鬼を狩り、巨獣を討ち、果ては古竜をも叩き伏せた。
強さを求めたわけじゃない。仲間を拒んだわけでもない。
ただ、うまく話せなかっただけだ。
そして気づけば──このエルディア大陸で「最強の勇者」と呼ばれるようになっていた。
⸻
「よぉ、また一人でため息ついてんのかよ」
冒険者ギルドのカウンターから声をかけてきたのは、マクス。
俺と同郷の同級生で、この街のギルドマスターを務める男だ。
誰とでもすぐ打ち解けるコミュ力モンスターであり、唯一、俺がまともに話せる相手だった。
「お前さ、ドラゴンをソロで倒したんだってな? 街じゃ祭り騒ぎだぞ」
「……」
「なに無言で照れてんだよ。いや照れてない? その無表情やめろ。怖ぇから」
マクスは昔からこうだ。
俺が言えないことを勝手に代弁してくれる。だから楽だった。
「にしてもなぁ。お前、強さは十分なんだから、あとは人付き合いだろ。なんでいつまでもソロでやってんだよ」
「……」
「ほら、それ! 黙るな! そういうとこだぞ!」
ギルマスの説教を受け流しながら、俺は心の中で苦笑する。
できることなら、俺だって仲間と笑い合って冒険したい。
……でも、どうしても声が出ないんだ。
⸻
「しゃーねぇな」
マクスは肩をすくめ、ニヤリと笑った。
「次に合いそうなパーティ、俺が紹介してやるよ。人当たり良くて、優しい回復術士の女の子だ。お前にぴったりだろ」
「……」
「おーい! せめて“ありがとう”くらい言え!」
──こうして、また俺の“誤解と孤独の冒険”が始まる。