第三章 新しい先生
「こんにちは、皆さん、私の名前はエックス博士です。」
ピーターは信じられない表情で教室の前に立っている男性を見つめた。彼はとてもハンサムだった。彼の髪はムースでしっかり整っていた。この学校のほとんどの男性の先生はカジュアルなTシャツを着たが、エックス博士は細い体格を見せびらかすような長くて黒いコートを着ていた。
この時、ピーターは、クラスの多くの女子が、彼とは違う視線でこの男性を見つめているのに気づいた。皆うっとりしたような目で新しい先生のことを見ていたので、ピーターは少しだけ嫉妬した。彼はソフィアの方をちらっと見たが、彼女はそこまでこの先生に関心を示していないようだったので、安心した。
エックス博士は真剣な顔をしてクラスを見回した。「サリバン先生のニュースには多くの皆さんがショックを受けたことかと存じますが、あれは事故であったことをわかってください。皆さんにはまだ長い長い未来が待っています。確かに皆さんはサリバン先生のことが好きだったので、しばらく悲しむでしょうけど、彼女はもういないという事実を受け入れて、前に進まなければなりません。」
ピーターはサリバン先生に何が起きたか思い出しただけで表情が暗くなった。その時、彼はエックス博士の口角が若干上にピクピクしているのに気づいた。まるで笑顔を必死で隠しているようだった。
「では、誰も質問がなければ、授業を始めます。」とエックス博士は言った。
みんなうなった。先生によっては、初回の授業を全部自己紹介に使う人もいる。
ジョン・ホプキンズは手を挙げた。
「はい、そこの若い男性。」
「本当の名前は何ですか?」とジョンは聞いた。
エックス博士はにっこり笑って、「秘密です。」と言った。
「どうして?」
「ただエックス博士と呼んでください。」
事件から一週間近く経った。ピーターの父は昨夜、中国に二週間出張に出た。彼はまだサリバン先生がピーターの先生であることを知らなかった。出発する前に彼はピーターに、「大丈夫そう?」と聞いた。
ピーターは、大丈夫そうではなかったが、「もちろん。スコットの面倒も見るよ。」と嘘をついた。
ピーターの父は、感謝に満ちた顔でピーターに微笑みかけて、出ていった。
ピーターはスコットと一緒にサリバン先生の葬式に行った。葬式は美しい教会で開かれた。ピーターはたくさんのクラスメイトがいるのに安心した。多くの先生も来ていた。
一人の若い男性は鼻をすすって言った。「彼女は私にとって素晴らしい友達であった。私がプロのサッカー選手になるテストに落ちた時に支えてくれた…。」
一人ずつ、サリバン先生を哀悼するスピーチをしていった。
エックス博士もいた。「お会いしたことはありませんが、きっとすてきな方であったことは間違いないでしょう。お悔やみを申し上げます。」
ピーターはまたエックス博士の口がピクピクするのを見た。
しかし、彼はエックス博士の謎めいた行動についてそれ以上考える時間がなかった。ピーターの番が回ってきたからである。ピーターの喉は綿のように乾き、頭の中は真っ白になった。サリバン先生についてあまりに多くの話がしたくて、どれにするか決められなかった。やっと、彼はかすれた声で、「僕は彼女のことを母と同じぐらい好きだった。僕の人生が終わるまで一緒にいてくれるかと思った―」
突然、前の席に座った長いひげの年寄りの男が泣きじゃくり始めた。彼の泣き方は怒りに満ちていた。
「こいつが殺したんだ!」とありったけの声で年寄りの男は叫び、目の前にいる若い男を指差した。ピーターはその若い男がサリバン先生に似ているのに気づいた。
「お父さん!あなたが他の誰でもない僕を責めるとは信じられない。」
「おまえはクリスティナをビーチまで送る時にクリスティナと喧嘩していた。俺はお前だったってことを知ってる、俺はお前のことをよく知ってる。お前はずっと彼女のことを嫉妬していた。彼女は何でもお前よりうまくできて、お前は負け犬だったから。」彼は声をさらに高くして叫んだ。「誰か警察を呼べ!彼が犯人だ!彼が私の娘を殺したんだ!」
若い男は長いひげの男の腕をきつくつかんだ。「頭大丈夫か?彼女は僕の姉だ!」
「誰か警察を呼べ!」年寄りの男はまた叫び、若い男の束縛をほどいた。
人々は互いにひそひそと小声で話し出した。誰かが「落ち着いてくれないか?今葬式の真っ最中なんだから!」と叫んだ。
「私の言ったことが聞こえただろう!彼が犯人だ!彼が犯人だ!」年寄りの男はまた泣きじゃくりだした。「彼が殺した…彼が殺した…」
背の高い金髪の女性が突然教会の長椅子から立ち上がった。「それよりも私はクリスティナに対して一番大きな恨みを持っている人を知ってるわ。」彼女は赤毛の小柄の女の人を指差した。「それはあなたよ、マリア・ハンフリー。」
「えっ!そんな訳ないわ!何てこと言うの!」
「あなたは彼女がエリートになってからずっと彼女のことを嫌っていた。自分がなれなかったからといって。」
「そんなのずっと昔の話よ。私達がどれだけ仲良かったか知っていてそんなこと言うなんて信じられないわ。」小柄の女は金髪の女を憤慨した表情で睨んだ。「それより一番怪しいのはあなたよ、だって―」
「ひどいことになってきたぞ!」と誰かが叫んだ。
「うるさい!」と小柄の女は叫び返した。
一瞬にして、葬式は怒りの叫びや悲鳴で混乱となった。
カオスは警察の到着で何とか治まった。葬式での災難の後では、ピーターはずっと部屋にこもっていたくなった。もう誰のことも信用できなくなった。どうして人はサリバン先生のような優しくて情愛のある人に対して恨みを持てるのだろうか。
時は過ぎ去り、これ以上サリバン先生のことで哀悼する機会を彼に与えなかった。最近、新しいトピックが浮き上がっていた。それはエックス博士についてだった。彼のどこかがおかしかった。しばらく彼から教わっているうちに、ピーターはエックス先生がいつも生徒に細胞分裂についての変なマニアックな実験をさせていることに気づいた。もちろん、ピーター自身もかなりマニアックだったから何となく有難かったが、クラスの他の人が半分も理解しているのかどうかもわからなかった。また、エックス博士は自分や自分の家族に関する話題になると、いつも話をそらした。彼は個人的な情報は何とかすべて隠すことができた。彼は色々な側面から、とてもとても謎めいた先生であった。