12.引金(トリガー)を引くか?
「知らないふりをして生きていくことはできないよ、バーツ・クォーク」
ハッシユ・バピーから白煙をなびかせて、アルバートがこちらを見やる。
「だから仕方ないんだ。知ってる者を全員殺すしか」
動きに反応する間もなかった。
サイレンサーの極小さな発砲音と共に、今度は車椅子の男がズルリと地に崩れ落ちる。
「マリリンっ!」
静かな銃は、次は金髪の青年の元へ動く。
同時に倒れる弟。
「カイっ!」
地面をのたうち、激しく咳込むカイ。
一切の感情を示さず、アルバートの銃口は倒れたカイをなおも追う。
バーツはその前に躍り出た。
「兄さんっ!」
悲鳴に近い声を背後に聞きながら、バーツは咄嗟にハッシュ・バピーの銃口に指を突っ込んだ。
「う、撃てるもんなら撃ってみなよ。た、弾が目詰まりおこして暴発するからっ!」
「なにっ……!」
僅かに怯むアルバート。
冷静に考えれば分かったはずだ。
銃口を塞ぐ人間のやわらかな指など、鉄の弾丸が弾き飛ばしてしまうことに。
弾詰まりなど起こすわけがない。
ほんの一瞬、戸惑うように指先を震わせるアルバートの手に取りついて、バーツは銃を奪い取る。
背後でカイが何か叫んだような気がしたが、構ってはいられない。
銃を両手で握り締め、バーツは渾身の力を込めてアルバートに体当たりする。
「ぐあッ!」
バランスを崩し、その場に倒れこむ両者。
その刹那、アルバートの手元がキラリと光った。
「ウッ!」
アルバートが隠し持っていたナイフのきっ先が、バーツの腕を抉ったのだ。
銃を取り落とすのを、懸命にこらえる。
「う、動くな!」
銃口をアルバートの額に押し当てる。
「うっ……」
生命の恐怖を感じたか、初めてアルバートの声が震えを帯びた。
「こ、このまま引金を引けば──……」
視野の端に倒れたままのクロエとマリリン、地面にのたうつカイの姿が映る。
「私が引金を引いて、コイツを殺せば──……」
──そんなことして、私に何が残る?
全身の力が抜けるのを実感する。
「駄目だ。できないよ……」
自分はただの兵士だ。
戦争の歯車の一欠片にすぎない。
でも、これだけは分かる。
憎しみから引金を引いちゃいけないんだ。
「………………!」
カイが何か叫ぶのが聞こえた。
同時にアルバートの目に生気が蘇る。
ハッシュ・バピーを奪い返され、バーツも懸命に抵抗する。
しかし次の瞬間、額に凄まじいまでの衝撃。
──撃たれた?
弟の声ももう聞こえなかった。
一気に全身の力が失われる。
ノルマンディーの夜空が視界いっぱいに飛び込んできた。
雨はもう落ちてはこない。
「あぁぁ……」
こんなに簡単に、私はすべてを失くしてしまうの?
意識を手放す寸前、星が音立てて降り注ぐ幻覚。
ああ、手を伸ばせば届きそうな……。




