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かくして英雄は死に給う。めでたし。  作者: コダーマ


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2.事件の概要

 麻薬の捜査を行っていたGリスト──いや、ディオンと共にいたクロエ。

 麻薬と関わっていたという疑いをもたれているカイと一緒だったバーツ。

 二人とも、こう思っている──互いに接触したせいで、大切な相棒を失う羽目になったのだと。


 麻薬を巡っての陰謀に否応なく巻き込まれているこの展開。

 早急すぎる。

 おかしいとは思わないか?


 僅か数時間で自分たちが失ったものはあまりにも大きい。

 何が起きているのか、ここできちんと整理しなくてはなるまい。


 昨日のこと。

 バーツは弟と共に命を受けた。Gリストが死んだ──その確認を取るためにフランス(ここ)に来たのだ。


 しかし……と思う。

 その命令が、そもそも矛盾しているのではあるまいか?


 Gリストとは元々、存在しない架空の英雄なのだ。

 上層部であれば、その事実は認識済みだろう。

 たとえ知らなくとも、死亡確認など現地と無線連絡を取れば済む話ではないか。


 そもそも『Gリスト』に関してだけは、訳が分からなかったんだ。

 ディオンに指摘されただけではない。

 それはひどく曖昧な存在で、僅かな捜査期間の中でも情報が錯綜しているのが分かったのだから。


 ──こんな所でナンですが。


 前置きしてから、バーツはクロエの袖を引っ張った。

 クロエが何の用でこの船に乗り込んだのかは分からない。

 でもここは味方の船だ。

 恐らく外よりも安全なはず。


 ならば今、この靄々を何とかしたい。

 Gリストに関しての情報を整理させてとバーツは考えたのだ。

 ブレーンのカイがいない以上、自分で考えなくてはならない。


 ざっと分かっているGリストの活躍の記録はこうだ。



 一九三六年、ベルリンオリンピックでゴールドメダルを獲得。(でも、ディオン調べではメダリストにGリストの名前はなかったという)

 一九四〇年五月、ダンケルク撤退で活躍。(ディオンに指摘されて気付いたが、この時代アメリカは参戦していない)

 一九四三年七月~八月、シチリア島侵攻作戦で活躍。

 一九四四年一月、アンツィオ上陸作戦で活躍。



「Gリスト活躍しすぎだし! アメリカンヒーローじゃないんだから。一人の兵士がそんなこと、有り得る?」


「アメリカンヒーローって……それってブラックなジョークのつもり? だからさ、それ全部ウソなんだって。アメリカの嘘。だってヒーローのこと大好きでしょ、この国の人たち」


 すでに混乱を来してブツブツ呟くバーツの言葉を、クロエはバッサリ切り捨てた。


「全部嘘なのかな? クロエちゃん」


「ディオンが調べたんだから。ウソに決まってるよ。だって一人の人間に不可能だし。それにディオンがGリストになったのって、ワリに最近だもん。今年の二月くらいだったっけ?」


「そうなんだ? 二月っていうと……」


 弟に教えられた情報を懸命に思い出す。


「今年の二月……あっ、Gリストがアミアン刑務所を空爆したんだったよね! 捕らえられてた政治犯を救出するために。これもGリストの華々しい活躍だって言ってたね」


 しかしクロエはあっさり首を横に振る。

 なるほど。これも嘘なのか。

 ということは、どうやらGリストはアミアン刑務所の空爆も行っていないらしい。


「ややこしいったらないよ」


「だってディオンはそのころ部隊内(レンジャー)の横領を調べてたんだもん」


 大量の罷免者を出したという横領事件の噂はバーツも知っている。

 上層部を巻き込んだ大規模な横領事件で、秘密主義な軍もさすがに秘匿することができず一時期世間は騒然としたものだ。

 上層部からも大量の罷免者を出し、その余波を受けてバーツの叔父が随分と出世したという。


「その事件の後は、すぐに今回の麻薬捜査にかかったわけだしねぇ」


 船内の狭い通路。

 ボソボソと低い声だが、意外と響く。


「Gリストの活躍話って、戦線の中でも大きな作戦とか要衝の爆撃とか……華々しい系ばっかだもん。白々しいくらいに。実際は一人の兵士がそんな活躍するなんて無理なんだってば」


 皮肉たっぷり、といった調子でクロエは笑う。

 本当に存在したGリスト──ディオンは部隊内の闇を、クロエの言葉を借りれば「地味に」探っていたわけだ。


「今回の戦闘だってそう。オレたちはヴィエルヴィルにいたのに、激戦区(オック)からは相変わらずGリスト活躍って知らせが入ってきたり。ありえない話だよ。だってGリストはここにいるのにってね」


 イラつくよねぇと、Gリストのすべてを知る男はバーツに背を向けた。


「もういいや。バァさん、早く行こ」


 どこへ行くのと尋ねても、いい加減見慣れた感のあるニヤニヤが返ってくるだけ。

 先程のやりとりで、クロエは何かをつかんだのだろうか。

 その足取りは軽く、気持ちの高ぶりを示しているかのようだ。


 対して、頭の回転に自信のないバーツは己の思考が混乱の渦に放り込まれていることを自覚する。

 情報は出尽くした。しかし整理することは難しい。


 Gリスト──その英雄は、まるで霧の中にいるようにぼんやりしていて、簡単には姿が見えやしない……。

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