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かくして英雄は死に給う。めでたし。  作者: コダーマ


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7.Gリストを継ぐ者(1)

「例えば──何ですか?」


 M3グリースガンの銃口がピタリとGリストのこめかみに据えられている。

 いつの間にか彼の背後ににじり寄って来たカイが、愛銃を構えていたのだ。


「もう一度言います。フランスのこんな農道で、うちの兄に何の用ですか」


 トイレに立ったバーツがなかなか戻らないので探しに来たのだろう。

 見るからに妙な二人組に絡まれている兄の姿に呆れたのかもしれない。

 だが、近付くと二人組は兄を脅し、あろうことかカイ自身の情報を聞き出そうとしているではないか。


「絶妙なタイミングだよ、さすがカイ君! 私の弟! ステキっ!」


 弟クンが怒ってる。私のために怒ってくれてる。兄として、ささやかに感動。


 弟の視線はいつになく厳しい。

 それは小柄な男の手元──S&Wモデル39に一心に注がれていた。


「その銃……僕を狙撃したのはあなたですね」


 ガチッ。硬い物質のぶつかる激しい音。

 Gリストが己の短銃でカイのサブマシンガンを払い除けたのだ。


「狙撃じゃねぇ。威嚇射撃だ」


「……そうでしたか」


 冷たい声に、六月の風が凍るよう。


 ──あぁぁ、恐ろしいったら。何なの、この空気?


 今更ながら思い至ったがこの二人、剛と柔の違いはあるものの性格が似ているようで。

 つまり極端に合わない様子。


「カ、カイ君。驚かないでよ。紹介するね。この人がGリスト。で、こっちが黒絵ちゃん──あ、いや、クロエ。Gリストの相棒さんだよ」


 タイミングよくクロエがニタリと友好的な笑みを作る。

 おもむろにポーチから煙草を取り出し、もたもたした動作で火を点けた。

 カイの表情は動かないし、Gリストは苛立たしげに舌打ちするし。

 バーツにとっても、ものすごく気まずい雰囲気。


「その煙草は、GOLDですね。一本下さい」


「いいよぅ。一度吸うとコレじゃないと駄目なんだよねぇ」


「……そうですね」


 上辺だけの和やかな会話を滑らせるカイとクロエ。

 弟の苛立ちも、バーツには手に取るように分かった。

 箱から一本取り出されたGOLDは、ゆっくりとクロエの指先からカイの手に。


「おいっ!」


 一触即発の空気を、己から破ってみせたのはGリストだった。

 カイに向き直ると、彼の手からGOLDを掠め取ったのだ。

 弟が何か言うより先にポイとそれを地面に投げ捨てる。


「な、何するの! カイ君の煙草を。大体何なの、キミたち」


 憤る兄の肩を、弟の手が優しく叩く。


「僕はカイ・クォーク上等兵。こっちは二等兵のバァさん。おばあさんという意味じゃなくて。ザーサイと同じ発音で」


「ザーサイ?」

「料理の?」


 二人がポソポソ言い合っている。


「その(くだり)、もう飽きたよ!」


 バーツは一通り、いつもの流れで弟に反抗してみる。


「──で?」


 カイの笑顔に凄みが走った。


「Gリスト、あなたの本名は何ですか?」


「何──?」


 モデル39をM3グリースガンの銃身で打ち払い返す。

 カイの発言の意図するところは明かだ。


「な、何言ってるの、カイ君。本名って? 失礼じゃないの。まるでこの人がGリストのニセモノみたいな言い方。カイ君? 今キミ、ものすごく目付き悪いよ? あでッ!」


 容赦ない返しで膝裏を蹴られる。


 この二人──というかGリストとできるだけ関わらずに、しかも穏便にコトを運ぶには彼を早いとこ叔父に引き渡すのが一番だ。

 そうすればとにもかくにも任務完了。厄介事から解放される。

 Gリストの事情も意図もどうでも良い。


 それを分からないカイではあるまい。

 しかし自称・Gリストを見下ろす彼の表情は険しいままだ。


「偽者だって言ってるんですよ。この男はGリストじゃない」


 言い切った後、彼はこう告げた。


 ──何故なら僕は、本物のGリストに会ったんだ。


「は、初耳だよ。何その新展開! いつ? どこで?」


 緊張に身を震わせたのは、しかしバーツだけだった。

 あくまで好戦的に、Gリストは糾弾者を真っ向から見据える。

 口元を結び、怒声を必死に堪えているといった雰囲気だ。


「僕が会ったGリストは確かにあなたと同じように黒髪で、目の色は濃い紫に見えました。身長は一八〇センチくらいだったか──僕より高かったですね」


 米国人成年男子としては到底、平均に満たないこのGリストの身長は一六〇センチ程度であろうか。


「ブフッ!」


 人事のようにクロエが笑う。

 低い身長を気にしているのか。背のことを指摘され、Gリストの頬に血の色が昇った。


「いつだ? どこで見た?」


 最早、喧嘩ごしだ。


「僕が入隊したての頃。つまり今から二年前ですか。一九四二年ですね。場所はフロリダの陸軍基地。新兵訓練キャンプでしたね。通りすがっただけのようでしたが、大勢の兵士に囲まれて、まるで映画スターのようにも見えましたよ」


 ──他に何か知りたいことは?


 余裕の体でそう言って、それからカイはこう続けた。


「ああ、その時ゴールドメダルを見せてもらいましたよ。Gリストがオリンピックで手に入れたゴールドメダルだ。GリストあなたがGリストを名乗るなら、ゴールドメダルも当然持っているでしょう」


 完全に論破した。

 明らかにカイの勝ちだとバーツも確信する。

 だから驚いたのだ。

 小さなGリストが、突然大声で笑い出したことに。


「本物のGリストを見たのか? ずいぶん得意げに喋っていたが、その時見たのは誰だ? 考えろ! 本物のGリストを見た奴がいるか?」


「なに……?」

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