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  作者: ふく
1/3

第一章 ハン太

この作品には一部、過激な内容が含まれています


桜の花が、もうすぐ満開を迎えようとしている。

春風がそっと頬をなでるように吹き抜ける、よく晴れた日の午後だった。


一本の立派な桜の木の下、ひとりの男の子が気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。


その少年の名はハン太。

顔にはいくつもの傷があり、まるで何度も激しい喧嘩を繰り返してきたような印象を与える。


その姿を目にしたもの達は、怖れから近寄ることはなかった。

誰もが彼の鋭い目つきや傷だらけの顔に怯え、そっと距離を取るのだった。


それでもハン太自身は、そんな周囲の反応をまったく気にしていないようだった。

「怖いなら近寄らなければいいさ」とでも言いたげな表情で、彼はいつもひとりで行動していた。

一匹狼のように、誰にも縛られず、誰にも頼らず。


この桜の木の下は、そんな彼が特に気に入っている場所だった。

春の光を浴びて、花びらが風に舞う様子を眺めながら、時折目を閉じてうたた寝をする。

この場所だけは、彼にとって安心できる唯一の逃げ場だったのかもしれない。


澄み渡る青空の下、桜の花が静かに揺れている。

その下でハン太はまどろみながら、誰にも知られない穏やかな時間を過ごしていた。



その日も、いつものように桜の木の下に来て気ままに散策していると、小さな天道虫を見つけた。

その黒と赤の小さな体をじっと見つめたり、指でそっと触れてみたりするうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。


どれくらい時間が経ったのだろう。

遠くから、枯れ葉を踏む音がゆっくりと近づいてくる。

気だるさを感じながら目を開けると、見知らぬ真っ黒な服をまとった女性が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。


彼女はそのままハン太の隣に座り込むと、何も言わずにじっと桜の花を見上げていた。


(なんだ、こいつは。わざわざ僕が寝てる場所に来やがって……ここは僕の場所だぞ)


ハン太は心の中で毒づいたが、ぽかぽかと温かい太陽の光が心地よく、怒りの感情も次第に薄れていった。

そして、再びうとうとと夢の世界に引き込まれようとしていたそのとき――。


「淋しそうな眼をしてるのね」


静かで優しい声が響いた。

その一言で、ハン太は一気に眠りから引き戻された。

心臓がドキンと跳ね、顔が熱くなるのを感じる。


(なんで……?)


胸の中にあったはずの硬い壁が、崩れる音を立てたような気がした。

まるで、ジグソーパズルの最後の1ピースが突然嵌め込まれたかのようだった。

しかも、それは初めて会ったこの女性によってだ。


目の前では、桜の花びらが風に舞い、優雅に散っていく。


ハン太の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。

親の温もりを知らない自分。

愛という感情が何なのか、ずっと分からないままでいたこと。

母親が呼んだ「ハン太」という名前だけが、自分を繋ぎとめる唯一の記憶だ。


喧嘩を繰り返し、傷だらけの顔を持つ自分を怖がる人々。

誰も近寄らない日々。

それでも一人で生きていけると自分に言い聞かせてきた。

腹が減ればゴミを漁り、盗んだ食べ物で腹を満たす日々。

それでいい、それで十分だと思っていた。


サビシクナイヨ

ボクハツヨイカラヒトリデモヘイキダヨ


そう呪文のように繰り返し、心の中で何度も唱えてきた。

それが自分を守る唯一の術だったはずなのに……。


「何で……」


知らない女性の一言で、すべてが崩れていく。自分でも埋めるつもりのなかった穴が、彼女の言葉によってあっさりと埋められてしまった。

それは温かく、そしてどこか苦しい感覚だった。


舞い散る桜の花びらが、二人の間を静かに埋めていく。



女性は、ハン太の隣でじっと黙ったまま座り、その傷だらけの顔を優しい目で見つめていた。

まるで、彼の痛みや孤独をすべて見通しているかのようだった。


やがて、女性は静かに口を開いた。


「生きとったら辛いことがいっぱいある。時には耐えて、じっと我慢するのも大事だけど、一人になってまで自分の感情を抑える必要はない。泣きたい時は思う存分泣けばいいのよ。」


その声は穏やかで、それでいてどこか温かい母のような響きがあった。


「ほら、あれを見てみなさい。」


女性が指差す方を、俯いたままのハン太は重い目をそっと上げて見た。

そこには一本のたんぽぽが、小さな力強さを感じさせながら咲いていた。


女性はそのたんぽぽを見ながら話を続けた。


「たんぽぽはね、花びらひとつひとつが種になって、風に吹かれてこの広い空をどこまでも飛んでいくの。辛い時や悲しい時、それはまだ種の状態なの。いっぱい泣いた後は、心がまるでおてんと様みたいにすっきり晴れるでしょう?それでね、その後に元気になっていくのよ。種が成長して、大人になって、最後は綺麗な花を咲かせるために」


その言葉に耳を傾けているうちに、ハン太の心の奥底で何かが溶け出していくのを感じた。

氷のように冷えきっていた心が、女性の言葉とともに暖かな陽射しに包まれるようだった。


(ああ……暖かい……。僕はいつからこんなに心が凍ってしまっていたんだろう……。太陽はこんなに暖かいのに……)


そう思いながら、ハン太は目を閉じた。

その心の中に生まれた温もりに身を委ねると、いつしか彼はまた深い眠りに落ちていった。



夕焼け空が赤から群青に変わり、今日という日が静かに沈んでいく頃、遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。

その音に目を覚ましたハン太は、ぼんやりと周りを見渡した。


さっきまで隣に座っていた女性の姿はどこにもなかった。

代わりに、彼のそばにはいくつかの食べ物が置かれていた。


ハン太はその食べ物を手に取ると、腹の空き具合を忘れたかのように、夢中で口いっぱいに頬張った。

食べ物の温かさが身体中に広がる中、ふと彼は女性が示していたたんぽぽに目を向けた。


たんぽぽは夕焼けの光を浴びて、揺らぐことなくそこに咲いていた。


じっとそれを見つめながら、ハン太の頬を一粒の涙が静かに伝い落ちた。

泣くのはずっと我慢していたのに、その涙は止めることができなかった。


(僕もいつか、あのたんぽぽみたいに風に乗って飛べるだろうか。いつか花を咲かせられるだろうか……)


胸に芽生えた小さな希望を抱きながら、ハン太はたんぽぽを見つめ続けた。



次の日の午後、ハン太はいつものように桜の木の下でひなたぼっこをしていた。

そこに、昨日の女性が再びやってきた。

女性は無言のまま隣に腰を下ろし、しばらく桜の木の下で静かに時間を共有した。


やがて、ハン太は何かを決意したように大きく息を吸い込み、顔を真っ赤にしながら声を上げた。


「昨日は食べ物をありがとう!」


その声は少し震えていた。

ハン太にとって、「ありがとう」と言葉にすることは初めての経験だった。

それだけに、彼の心臓はまるで爆発しそうなほど激しく鳴っていた。

恐る恐る隣の女性の表情を伺うと、優しく微笑んでいた。


近くでは虫の鳴き声が聞こえる穏やかな時間の中、女性が静かに言った。


「『ありがとう』という言葉は、とても綺麗な言葉よね。数ある言葉の中でも一番輝いている。『ありがとう』とひとつ言うたびに、自分が少しずつ大人になって、心も綺麗になっていくのよ」


その言葉は、まるで春の陽射しのようにハン太の心に染み込んでいった。



それからの日々、ハン太と女性は桜の木の下で毎日会うようになった。

優しい女性と一緒に暮らしている話や、おいしい食べ物の店の話などをしてくれた。

どの話も楽しく、ハン太は笑ったり、たくさん質問したりした。


女性は決してハン太の過去や境遇について尋ねることはなかった。

それがハン太にとっては不思議で、そして心地よかった。


「殻なんかね、割ろうとしなくてもいいのよ」

女性がそう語り始めた。


「殻はヒビが入ったり、強くなったり、いろいろあるわ。出たくなったら出ればいいし、出たくないなら出ないでいい。やばくなったらサッと隠れて、調子が良ければまたサッと出る。それでいいの。大事なのは、壁を割ろうとしたその気持ちよ。それがね、次の一歩になるから」


女性の言葉に、ハン太の心にずっとあった重たい鎖が少しずつ外れていくのを感じた。



その日の夜、桜の木の下で夜空を見上げながら、ハン太は思いを巡らせていた。

漆黒の夜空に浮かぶ星々、その中にある無数の銀河……。

その広大な宇宙の中で、この地球に生まれ、偶然にもおばさんと出会えた奇跡を思った。


(僕はひとりじゃないんだ。愛の意味だって、今なら少しだけわかる気がする……)


ハン太の中で、今まで築き上げてきた心の壁が、音を立てて崩れていった。

そして、新しい自分が生まれつつあることを感じた。


(蹴散らしてやる! 心の壁なんか、糞くらえだ! ペンペン草も生えないくらいに焼き尽くして、本当の僕を見てもらうんだ!)


興奮して鼻息を荒くするハン太の目に、夜空を横切る一筋の流れ星が飛び込んできた。


その星は、まるで新しいハン太の人生を祝福し、応援しているかのように輝いていた。

そして彼は心の中で静かに叫んだ。


(僕のビッグバンは、今ここから始まるんだ!)


そして、夜空にまた一筋の流れ星が落ちた。

まるで、これからのハン太の決意を祝福するかのように――。


ある日の午後

ハン太は女性が教えてくれた店を探して、興奮気味に街を歩いていた。

美味しい匂いが微かに漂ってきたその時、車道を挟んだ向こう側に女性の姿を見つけた。


思わず声を出しそうになるのをぐっと堪え、ちょっとしたイタズラ心が芽生えた彼は、先回りして電柱の陰に隠れ、女性をびっくりさせようと思いついた。


(驚いた顔を見るのが楽しみだ!)


ハン太は、ちょこちょこと車道に飛び出した。


だが、その瞬間だった。



――パッパーーー!!!



車のクラクションが鋭く響き、猛スピードで車がハン太に向かって突っ込んでくる。


驚きと恐怖で身体が硬直してしまい、ハン太はその場から動けなくなった。


「……っ!」


目をぎゅっと閉じた次の瞬間、何かがぶつかる衝撃を感じ、ハン太は歩道へと弾き飛ばされた。


地面に転がったハン太は、しばらく茫然としていたが、少し腰を打っただけで無事だった。

何が起きたのか、ようやく周囲に目を向ける。


目に飛び込んできたのは、女性の姿だった。


車道の真ん中で血だらけになって倒れている――。



背中を冷たい汗が伝い、恐怖で全身が震える。


「死なないで!」


ハン太は夢中で駆け寄った。

女性の体は小刻みに震えていて、目をうっすらと開け、弱々しく腕を伸ばした


「ハン太……」


その一言にハン太は息を呑んだ。


(な、なんで……僕の名前を知ってるんだ? 言ったことなんて一度もないのに……)


しかし、答えを求める余裕などなかった。

女性が今にも消えてしまいそうで、ハン太はそれだけが怖かった。


「誰か助けて!」


けれど、人々の反応は冷たかった。

事故の衝撃音で集まった人たちは、口々に何かを囁き合い、遠巻きに見ているだけ。

中には目を逸らして去っていく者さえいた。


ハン太の胸は怒りと悲しみでいっぱいになった。


(みんな何て冷たいんだ……こんなに苦しんでいるのに……どうして誰も助けないんだ……)


けれど、それも仕方のないことだった。




だって――




ハン太と女性は、 猫なのだから。




血まみれになった黒猫は、夕日に染まってさらに赤みを帯びていた。

白猫はそばに寄り添い、震えながら何度も「助けて」と叫んだ。

しかし、猫たちの声は人々には届かない。


白い雄猫のハン太は小さな身体で、血と土で汚れた黒い雌猫の女性を引きずりながら、ただひたすらに桜の木を目指した。

車のクラクションが鳴り響き、人間たちが手を差し伸べようとするたびに、ハン太は振り返り、歯をむき出しにして唸った。


「フーッ!」


引っ掻き、威嚇し、誰も近づけさせない。

女性を守るという一心で、疲労も痛みも感じなかった。


ただ、あの桜の木の下まで行かなければ――

それだけが彼の頭の中にあった。


桜が呼んでいる。


そう感じたのは直感だった。

理由なんてない。

ただ、その場所だけが自分たちの行くべき場所だと信じていた。




ハン太は途中で何度も休み、水溜りで喉を潤した。

そして、落ちていたプラスチック容器に水を汲み、女性の元へ戻るたびにこう言った。


「もう少しだよ。桜の木まで行けば、大丈夫だから……!」


そうして、ついに桜の木の下に辿り着いた頃には、空はすでに黒に染まっていた

桜の花びらが風に舞い落ちる中、ハン太は女性の体をそっと寝かせ、自分も横たわった。


「……水を……飲んで……」


容器を近づけると、女性は弱々しく口を動かし、水を一口飲んだ。


「ありがとう、ハン太……」


女性の声はか細かったが、優しく響いた。


「……何で僕の名前を知ってるの……?」


ハン太の問いかけに、女性は小さく微笑んだ。そして、震える声で自分の過去を語り始めた。




「私ね、ハン太……あなたの母親なのよ」


その言葉に、ハン太の目は見開かれた。


「母親……?」


信じられなかった。

けれど、女性の目を見た瞬間、心の奥底に眠っていた記憶が蘇った。


「あなたが生まれて間もない頃、私は病気で体を壊してしまった。この体ではあなたを育てられない……そう思って、置き去りにしてしまったの……」


女性の目には涙が滲んでいた。


「その後、体は回復したけれど、置き去りにした自分を許せなくて……でも、あなたが気になって、ずっと陰から見守っていたの。あなたが成長していく姿を……」


「だったら、どうして僕に話しかけなかったの?」


ハン太の声は震えていた。


「怖かったのよ。もし、あなたが私を恨んでいたら……私を拒絶したらって思うと……どうしても勇気が出なかった。でも……あなたの姿を見るたびに、痩せ細って、喧嘩で傷だらけになっていくあなたを見ているのが、あまりに辛くて……ついに話しかけてしまったの」


「本当に臆病な母親でごめんなさい……」




ハン太は黙ったまま、桜の木を見上げた。

風に揺れる花びらが、まるで母と子を包み込むように舞い落ちていた。


「僕は……」


声を絞り出すように言葉を紡いだ。


「僕は、ずっと一人でいいって思ってた。でも……本当は……寂しかった。……母さん……ずっと傍にいてくれてたんだね……ありがとう……」


ハン太の目から、一筋の涙が零れ落ちた。


母親は、微笑みながらハン太の涙を舐めとるように顔を寄せた


桜の木の下、母と子は寄り添いながら暖かい春風に包まれていた

流れる時間は穏やかで桜の花びらが2匹の体を優しく覆っていった


(これが…愛ってやつなのかな…)


ハン太は桜を見上げながら心の中でそう呟いた



夜空には無数の星が煌めいていた。

桜の花びらが風に舞い、ハン太と母親の周りを静かに包んでいた。


ハン太の心の中には、これまで抑え込んでいた感情が一気に溢れ出していた。


「お母さん!」


声を振り絞りながら、大粒の涙が止めどなく流れる。


微笑みながら静かに横たわる姿を見つめ、ハン太の胸は張り裂けそうだった。


これまで、母親に対する憎しみを自分の心の核として生きてきた。

捨てられた日々の孤独、冷たい夜を一匹で耐えた記憶、誰かにすがることを諦めた日々。


けれど、思っていたのとは違っていた。

優しさに溢れ、自分のことをずっと見守ってくれていた存在。


母親が語った話の一つ一つが、ハン太の胸を刺し、その氷のように冷えた心を溶かしていった。


「ありがとう、ハン太……」


それが母親の最期の言葉だった。




「お母さん……!」



ハン太は母親の体に顔を埋めて泣き続けた。


初めて愛されていると感じた。

初めて母親の温もりを知った。

それが、今、消え去ろうとしている現実がどうしても受け入れられなかった。


「目を開けてよ! 僕を置いていかないで!」

震える声で叫び、母親を何度も揺さぶった。


桜の花びらが舞い降り、星の光が優しく二匹を照らしていた。

その光景はあまりにも美しく、悲しく、そして切なかった。




ハン太は悲しい気持ちを吹っ切るかのように夜空を見上げた

すると一筋の流れ星が輝いた。

その光を見つめながら、小さな声で呟いた。


「お母さん……これが最期のお別れなの?」


桜の木が風に揺れ、ざわざわと音を立てた。

その音が、母親の「さよなら」を告げているかのように聞こえた。


ハン太は、母親の冷たくなった体に顔を寄せ、静かに言った。


「僕、もう泣かないよ……これからは、ちゃんと生きるよ。お母さんが守ってくれた命を無駄にしないから……ありがとう、お母さん……」


星空に向かってそう誓ったハン太の瞳には、悲しみの中にも一筋の強さが宿っていた。


風がまた優しく吹き、桜の花びらが二匹をそっと包み込むように舞った。

夜は深まり、静けさの中で新しい命の物語が始まろうとしていた。



朝の静寂の中、空は薄明るい青に染まり始めていた。


ハン太は、冷たくなった母親の体に顔を埋めながら、最後の温もりを感じ取るようにじっとしていた。


それは悲しみの余韻に浸るひとときであり、別れの準備をする時間でもあった。





名残を惜しみながらも、ハン太は母親の体をそっと離れ、黙々と土を掻き始めた。

足を動かしながらも、心の中では何度も「ありがとう」という言葉が繰り返されていた。


小さな体で必死に掘った穴に、母親をそっと横たえ、桜の花びらをその上に優しく散らした。


「お母さん、ここなら安心だよ。お日様も風も、桜も、みんなが見守ってくれるから……」


ハン太の声は震えていたが、もう涙は流れていなかった。


最後に、たんぽぽの話を思い出しながら、母親に語りかけた。


「僕もいつか飛び立つから……お母さんが教えてくれた、たんぽぽみたいに。僕の種が風に乗ってどこまでも行けるように、頑張るよ。見ててね」


そう呟いたあと、ハン太は静かに母親の眠る場所を見つめ、背を向けて歩き出した。


どこに行くのかは分からないけれど、もう迷うことはなかった。





いくつもの季節が巡り、母親が眠る場所で、たんぽぽが風に揺れている


そして桜の木の下では、小さな子猫たちが無邪気に戯れている光景を、白い猫と三毛猫がそっと見守っていた。


白い猫は、もう遠い過去のような、けれど決して忘れることのない思い出にそっと微笑みながら、静かにたたずんでいた。


彼の目に映る桜の花びらは、舞い上がるたんぽぽの種のように風に乗り、広い空へと飛んでいく。


「お母さん、僕、ちゃんと飛べてるよ。」

ハン太の心の中には、桜とたんぽぽ、そして母親への感謝が永遠に息づいていた。


〜fin〜


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