第84話 もう一度
「トトイト。オレに近づかないほうがいいよ。」
オレは手を伸ばし懐を探る。
「ブラフだね!そんな腕じゃ道具なんて使えないよ!」
全くその通りだ。
手に持って振ったり支えたりするなんてできやしない。
震える手でようやく取り出した道具をトトイトは早業で弾き飛ばした。
「これで終わりだね!」
もう抵抗する手段は無いだろうと、トトイトは笑顔を見せた。
「・・・違うね。これからさ!」
トトイトが弾いた”それ”はの魔道具だった。
「あー!それはホントにズルだー!」
残り少ない熱風で瓶を握りつぶす。
瞬間爆発が巻き起こり、その熱に押されるように感覚が拡大する。
熱が散るまでのわずかな間、オレは一段階強くなれる。
怒れる角と戦いで学んだブースト方法だ。
「うわ!危な!」
トトイトは飛び退りながら気合いを放出する。
そんな体勢でも構えが成立するのか。
「逃がさないよ!」
爆風に感覚を乗せる。
『気持ちがいいな。』
一気に増した情報量に脳の処理が追い付かず、ふわふわと空をたゆたう気分になる。
白んだ視界が徐々に戻るとガラス片がゆっくりと目の前を通り過ぎて行くのが見えた。
『また世界が遅くなった。』
怒れる角との戦いと同じ現象。
『これなら・・・捕まえられる。』
全身でトトイトを包み込む感覚。
足元からじわじわと進み、足首、ふくらはぎを超える。
『いける。』
もうすぐ膝にたどり着く・・・という瞬間。
「うわっ!!!」
破裂音が耳を貫き意識が元に戻る。
オレは爆風に吹き飛ばされて地面を転がった。
「いてて。」
体を見るとガラス片が外套に突き刺さっている。
外套が守ってくれなければ大怪我をしていただろう。
次からは瓶詰めタイプはやめよう。
「そうだ・・・トトイトは?」
周囲を見渡すと頭の後ろで手を組んだトトイトが地面に伏せている。
「ごめんトトイト!やりすぎちゃった。」
「スヴェンってさー!結構無茶苦茶やるタイプだよね!」
温厚なトトイトも流石に我慢できなかったようで、顔を真っ赤にして怒っていた。
「えと、ごめんよ。その、前の戦いで同じことがあって。それでその・・・もう一回やったらできないかなって。」
なんとか釈明をしようとトトイトの方に進もうとするが動かない。
「あれ?」
何かに捕まれている感覚があったので肩越しに後ろを振り返る。
「よーし。お前はやっぱり馬鹿の問題児だ。」
オレを掴んでいたのはナスルの掌だった。
「えと、その、ごめんなさい!」
「ごめんで済んだら私らは要らないんだよ!」
鳩尾に深々と一発貰いうずくまる。
『この感覚ももう慣れたな。』
オレは抵抗を止めて早々に意識を手放した。
「おーい!もう授業終わるぞ!起きろー!」
オレはトトイトに揺さぶられて目を覚ます。
「おはよ。」
「おはよじゃないよ!ほら、今アレクが優勝賞品を貰う所!」
トトイトが指差す方を見ると大量の回復ポーションが積まれた箱を持たされているアレク君が居た。
「どうもありがとうございます。でもこのままでは腐らせてしまいますね。」
「そうだな若者よ。したらどうすべきか。」
「是非皆さんもお持ち帰りください。僕が頂いた分はアルタイル研究室へのお土産にします。」
その言葉にゆらゆらと生徒がアレク君の元に集まり、回復ポーションを手に取る。
「俺達も貰いに行こうよ!」
トトイトに引っ張られてオレもポーションを取りに向かう。
ふとトトイトの足元を見ると裾が焼き焦げて皮膚が赤く腫れていた。
明らかにやりすぎだ。トトイトにこんな怪我をさせる意味が無い。
「そんな顔しないでよスヴェン!怪我はお互い様だから!」
そんなやり取りにアレク君は気が付いたようで、ポーションを2つ投げて渡した。
「これ、やけどにも効くみたいだよ。」
「ありがと。おっと、ととと?・・・いででででで!」
ポーションを受け取った衝撃でオレは腕が骨折していることを思い出した。
「あの爆発には驚いたよスヴェン君。でもあれはちょっと派手すぎるかもね。」
「トトイトに負けたくなくてさ。ついやり過ぎちゃった。」
「今回はオレの勝ちだぞスヴェン!スヴェンはズルしたからな!」
「分かっているよトトイト。あの後戦っても負けてただろうし。」
アレク君も微笑んでオレの言葉を肯定する。
「トトイト君。よかったら今度僕とも手合わせをして欲しいな。」
「いいぞ!俺からもお願いしようと思ってたんだ!よろしくなアレク!」
こうしてオレとトトイトの対決はトトイトの勝利で決着した。
どうやって格闘家を攻略するか。または格闘家の技術を習得するのか。
グラウンドから教室に戻る間オレの頭はそのことでいっぱいだった。
・・・いや何か忘れているな。
何か大事な出来事があったような・・・。
「おいチビ!何帰っとんじゃボケ!こっちこいアホ!」
「そうです。なんで単独行動をしたのですか?練習していた陣形が使えませんでした。」
「実践ではスヴェンが敵と単独で戦うこともあるだろう。しかし今はエミール王子の配下として動くべきではなかったか?どう思うスヴェン。」
「さみしいな。私を立てようとは考えてくれなかったんだね。」
「えと、ごめんなさい。」
デリック達に代わる代わるお説教を食らい、今日の行動が色々と間違っていたんだと実感させられた。
オレは今エミール王子を守る立場にある。
それは確実にこなさなければいけない役目だ。
「次からは気を付けます。」
「以後気を付けろ。優先順位を忘れるな。」
デリックから頭にコツンと拳骨を貰い、今日のところは許された。
「さて、授業が全て終わったら屋敷でさっきの復習をしようか。」
エミール王子からの提案だ。
どうやらあっちの戦いも何か得るものがあったらしい。
「そういえば柄の悪い先輩達はどうなったの?」
「・・・次会ったらワシがボコボコにしたる。」
「後で詳しく説明しますよ。今は次の授業に向かわないと。」
直前までのやり取りとは打って変わって帰り道は静かなものだった。
恐らく皆、オレと同じこと感じているのだろう。
”専攻科目から得られる経験値がどれ程大きいことか”と。
ただ煽られて喧嘩をやらされただけの授業。
それだけでオレ達は”全員格闘家に弱い”という致命的な欠点を知ることができた。
ならば他の専攻科目はどれだけのことを学ぶことができるのだろうか。
この学校が人気な理由がよく分かった気がした。




