第82話 柄の悪い先輩
「くぁ・・・。」
窓から差し込んだ朝日で目を覚ます。
眠い。
適当に作った朝食を胃に詰め込んで一息つく。
「今日の授業は何だっけか。」
じわじわと頭が回転を始める。
・・・そうだ。
今日は初めての専攻科目の授業だった。
こうしてはいられない。
早く学校に向かおう。
教室の扉を開けると早めに来たにも関わらずそこそこ生徒が集まっていた。
「おはよう皆。早いね、オレが一番だと思ったのに。」
「おはようございます。私達は他に用事がありましたので。」
「今日の授業は楽しみだったからな!」
「そうだねトトイト。オレも待ちきれないよ。」
今日の授業は”対人戦闘における心得”だ。
案内によると1対1や1対多数などの状況に応じた戦い方を教えてくれるらしい。
騎士、衛兵、冒険者などの戦闘を伴う職業には必須の授業なのでとても人気がある。
「こちらに来て座れスヴェン。ここには上級生もいらっしゃるのだぞ。」
「あ、皆さんすみません。静かにします。」
デリックに窘められていそいそと着席する。
教室を見渡すと基礎授業で見た顔が半分、知らない顔が半分。
上級生と新入生の割合は同じくらいか。
「おうおうおう、新入生。随分とはしゃいでんね。」
「そうとも。先輩達への敬意が足りないんじゃないか?」
柄の悪そうな二人組が立ち上がりこちらに詰め寄って来る。
やば、変なのに目をつけられたかも。
「ここは一回先輩の威厳を見せてやんないとな。」
「そうとも。なら分かり易りやすいのがいいんじゃないか?」
なんだか物騒な話をしている。
「どうしました先輩方。うちの者が何かご迷惑をおかけしましたか。」
するりとエミール王子が間に入る。
「いやいやいや、王子様よ。これは大問題だぜ。」
「そうとも。今後の関係性に関わるんじゃないか?」
メンタルが強いのか舐めらているのか。
ますいな。エミール王子にまでそういう態度取られると・・・。
「おいボケ共。相手見てしゃべれや。」
「痛い目を見ないと理解できないようですね。」
ああ、ほら。
短気なブランドとマーナルディが挑発に乗ってしまった。
これは抑えるの大変だぞ。
「ねぇデリック。これどうしようか・・・。」
「こうなっては仕方ない。」
デリックはゆっくりと立ち上がるとエミール王子の前に歩み出る。
よかったデリックが丸く収めてくれそうだ。
「先輩方に確認するが・・・覚悟は出来ているということでよろしいか?」
ん?なんだか雲行きが怪しいな。
「覚悟ってお前。あんまり笑わせるなよなぁ。」
「そうとも。冒険者なら当然なんじゃないか?」
柄の悪い二人は舐めた態度を崩さない。
「そうか。なら良い社会勉強になるでしょう。」
その言葉と同時にデリックの鎧から圧力が急激に増す。
「武具作成。剣。」
手に持った兜が一瞬で剣へと形を変える。
こんな場所で本当にやる気か?
「エミール王子。止めないんですか。」
「私はデリックの判断を尊重しているから。」
エミール王子は真顔で答える。
止める気は無くなったらしい。
これオレがどうにかするべきなのか?
このまま喧嘩しちゃって大丈夫なのか?
「スヴェン君。そのままで大丈夫だよ。」
いつの間にか傍に居たアレク君がオレに耳打ちをする。
アレク君の視線に誘導されて教室を再度見渡すと、上級生達は呆れたような表情して教室の端に避難していた。
「王族に絡むなよ馬鹿。」「巻き込まれたくない。」「早く終わんないかな。」
どうやら上級生からするとよくある事のようだ。
「それにほら、時間だよ。」
教室に鐘が鳴り響く。
いざこざの間に授業開始の時間になったようだ。
「よし座れガキ共!逆らったら殴る!」
ドアがバーンと開き杖を突いた男性が入ってくる。
彼は教室の様子からすぐさま状況を理解したらしい。
「おお、ガキ共若いな!喧嘩なら思いっきりやれ!」
「教授!喧嘩を煽んないでくれよ!」
彼がこの授業担当の教授か。
後から続いて入ってきた生徒は・・・ナスルだ。
「そうだったな。・・・ならば今日の授業は戦闘訓練とする!最後まで立って居た者には賞品を出そう!」
「教授!悪い癖だぞ!おい!お前ら真にうけるんじゃねぇぞ!」
ナスルが教授の発言を取り消そうとする。
「乗ったぜじいさん、じゃなくて教授!」
「そうとも。合法的に喧嘩できるなんて最高なんじゃないか?」
相手はノリノリのようだ。
「くたばれやボケ共が!」
「細かいルールを知りたいですね。」
こっちもノリノリだ。
「うわー!なんだかすごいことになってきたぞ!」
「座学よりはましかな。」「試したい技もあったからちょうどいいか。」
トトイトや静観していた生徒達も各々準備を始める。
もう待った無しのようだ。
「王子は私の後ろに、誰も近づけません。」
「頼んだよデリック。まあ私も存分にやらせて貰うけどね。」
エミール王子とデリックは既に陣形を組んでいる。
いやぁ、マジでやるのか。
オレは助けを求めてアレク君の顔を見る。
「僕もスヴェン君と戦える機会を楽しみしていたんだ。」
ダメだ。アレク君もノリノリだ。
こうなってはもう止める人は誰も居ない。
・・・ドリアル、ドリアルさえ居たなら。
「最後まで立ってた奴が優勝。ルールはそれだけだ。」
ナスルもついに諦めたようで司会進行を始めた。
「違反行為は?」
「自分で考えろメガネ。私が違反だと思ったらそいつをぶん殴る。」
なんていう雑なルール。
いや、止めに入る人がいるだけマシなのかな。
全員がグラウンドに移動し各々が配置につく。
「全員準備できたな!・・・では戦闘開始!」
ナスルの宣言でバトルロワイヤルが始まりを告げる。
あーあ。仕方がない。やるしかないない。
それならさ・・・。
「優勝狙うしかないよな!」
折角のチャンスだ。オレの全力がどれだけ通用するのか試しさせて貰おう。




