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第80話 ドリアルという男

「オデたち、たたかった。もりで、ぬしと。」

ドリアルはゆっくりと一音一音正確に発音する。

「報告は受けている。フューリーホーンの上位種と戦ったそうだな。」


ドリアルの登場で講堂がにわかに騒がしくなる。

「トロール族がなんでここに?」「言葉話せたんだ。」「暴れる気か?」

オレの耳に届く会話はドリアルやトロール族への偏見が多かった。

そういえば以前、ドリアルと初めて会話したマーナルディが"身振り手振りで会話する種族"と認識していた。トロール族はまだ広く認知されていないのだろうか。

「はなし、きいた。スヴェン、あぶない。」

誰かがオレの状況をドリアルに伝えたらしい。

こんな大怪我をした状態でわざわざ駆けつけてくれるなんて・・・。

「オデたち、おきて、まもった。」

「なんて言った?」「掟を守ったってさ」「公用語は片言なのか。」

皆ドリアルのことを全く分かっていない。

ただトロール族の声帯や骨格が公用語の発音に不向きなだけなのだ。

むしろドリアルは話をよく理解しているし、行間も正しく察してくれる。

「その主張は理解している。しかし貴方と被告が仲間だとするならその主張は大きな意味を為さない。密猟者の男について調べなければ議論は平行線のままだからな。」

予想外の状況にも関わらずテレンシア王女は冷静に対応している。

「まだ、はなし、ある。」

ドリアルはそういうとオレの方、講堂の中心に向かって歩き始めた。

「おい待て!それ以上近づくんじゃねぇ!代表会は絶対不可侵だぞ!」

ナスルが大声で牽制する。

「止まらなければ我々が貴方を拘束します。これは最終通告です。」

ワーキアは警告と同時に魔力を両腕に集中させる。

「貴方はこの代表会では部外者だ。発言権はない。理解して欲しい。」

「もしかして乱闘か?」「やばいぞこれ。」

講堂が一気に緊張感に包まれ、全員がドリアルの次の行動に集中していた。


「トロール、いった。いちばん、だいじな、おきて。」

一度は警告を受けて立ち止まったが、ドリアルはもう一度足を前に進めた。

「拘束します。」

ワーキアが空中を掴んで引っ張るとドリアルの手足が縛りつけられる。

糸、だろうか。魔法で強化して強度を上げている。

「ウー!」

だがドリアルには十分ではなかったようでまだ前進を続ける。

「馬鹿だなお前!」

ナスルが腕を大きく振りかぶりドリアルの顔面に一撃を加えた。

ゴチンという鈍い音がしてドリアルはよろめく。

「・・・フー!」

しかしまだ体勢を崩すには至らない。

「嘘だろ、どうなってんだ。」

「なんて力、こっちの腕がちぎれそう・・・。」

ナスルとワーキアが規格外のタフさに面食らっている間にドリアルは講堂の中心、オレの隣にたどり着いいた。

「ドリアル・・・。」

「スヴェン、なかま。だから、オデも、ここに、いる。それが、ただしい。」

"仲間を罰するなら自分ごとやってみろ"と脅しをかけている。

「おいおいマジか。」「テレンシア様を脅迫するつもりか。」

ドリアルの意思はこの場の全員に伝わったらしい。

「トロール族の王子よ。貴方の行動には失望した。それは我々との"掟"を破る行為に他ならない。」

ドリアルの非礼を受けてテレンシア王女はそう言い放った。


張り詰めた空気が講堂を支配する。

次の瞬間にもこの場が戦場になるかもしれないと誰もが考えた。

聡い者はすでに出口に向かって移動し始めている。


最初に動いたのはドリアルだった。

地面に腰を下ろし、胡坐をかく。

その目はテレンシア王女を見つめたまま、淡々と言葉を紡いだ。

「オデたち、あたま、わるい。そのとき、すきなこと、やるだけ。」

「おい!突然何の話だ!」

「だから、きらわれる。まち、いれて、もらえ、なかった。」

「・・・歴史の話ですか?」

「トロール、かんがえた。だいじな、おきて。みんな、なかまに、なれる。そんな、おきて。」

ドリアルは大きく息を吸う。

よりゆっくり、よりはっきり全員に"伝わる"ように。

「トロール、うそ、つかない。ドリアル、うそ、つかない。これ、いちばん、だいじな、おきて。」

決して嘘を吐かない。

言うは易いが守るのは難しい約束。

「存じているとも。トロール族の王と王子は嘘を吐いたら死ぬ。我ら侯爵家と結んだ絶対遵守の契約だ。」

テレンシア王女は小さくため息を吐く。

そして目を瞑ってしばらく思考を巡らせた。

「ーーー聞こう。貴方の言葉は偽りのない真実だ。」

その言葉に反応してワーキアは拘束を解く。

両腕が自由になったドリアルはオレの肩に手を置いて力強く宣言した。

「スヴェン、いったこと、ぜんぶ、ほんとう。オデが、しってる。」

その宣言と共に魔法陣がドリアルの左胸に浮かぶ。

赤黒く、不吉を連想させる模様だ。

「・・・聞き届けた。ならば私も責任を果たそう!」

テレンシア王女は姿勢を正して右手を前方に突き出す。

「被告スヴェン・ツオイスは無罪!また代表会総員で密猟の実行犯であるエイミングという男を捕縛せよ!これは厳命である!」

「「「「「拝命いたしました。」」」」

判決は下った。

オレはまたしてもドリアルに救われたのだった。



急展開についてこれなかった観衆もいる中、各代表はすぐに行動を起こす。

ワーキアは手元の資料から必要な情報を切り出し、ナスルは2階へ跳びあがり研究室生に対して指示出しを行っていた。

ブルースは資料からエイミングの逃走経路を予想してテレンシア王女に連携を行う。

「えと、オレはどうすれば?」

あまりの切り替えの速さにポカンと立ち尽くしていると背中を思い切りと叩かれた。

「後輩君、まずはおめでとう。君は無罪を勝ち取った。」

「勝ち取ったって言ってもほとんどドリアルが・・・そうだ、ドリアルの胸に変な魔法陣が!」

「だいじょうぶ。もんだいない。」

ドリアルは手で紋様を隠そうとする。

「問題あるよおバカ。これは契約の証だよ。破れば当然死ぬ。」

ハレンは呆れたように言う。

「だけど本当に助かったよドリアル。君が居なければスヴェンは退学になっていただろう。」

「やるべきこと、だった。ただ、それだけ。」

ドリアルはとんでもないお人よしだ。

そんなドリアルを死なせていいいはずがない。

「ハレン。これがどんな契約なのか教えて。」

「嘘を吐いたら死ぬ契約さ。問題なのは”嘘”の定義だ。」

「嘘の定義?」

「通常嘘は本人の主観によるところが大きい。ある間違った発言に対して本人は真実だと思っている場合が存在する。しかしこの契約はそれを許さない。客観的な真実でなればダメなんだ。」

「ドリアルの言葉が真実だと証明されないとダメってこと?」

「その通り。ドリアルは後輩君を無罪だと宣言した。これは客観的に証明できない。だから契約に抵触したのさ。」

「話は理解できたよ。でもそんなの苦しすぎる。普通の会話すら難しいじゃないか。」

あまりにも不平等な契約だ。

言い間違いで死んでしまう可能性すらある。

「当然違うぞスヴェン。その契約の拘束力はドリアルから侯爵家への発言についてのみ適用される。」

振り向くといつの間にかテレンシア王女が傍に立っていた。

「あ、そうなんですね。」

「彼らを苦しめるために結んだ契約ではないからな。侯爵家は代々各種族が平等でーーー」

「はいはい。それで用件は何かなテレンシア。」

話を遮られて少しむっとした様子だったが、一度咳払いをして本題を切り出した。

「今回はドリアルの勇気に敬意を表して君を無罪にした。それは理解しているな。」

「はい。勿論です。」

「では今度は君が我々、そしてドリアルに勇気を示す番だ。」

「勇気、ですか。」

「期限を2か月設ける。その間に真実を突き止めて私に報告せよ。わかったな。」

これは逃げた密猟者のエイミングを探しあてるだけじゃない。

その背後にいる黒幕も見つけろと言う意味だろう。

「やり遂げます。必ず。」

オレは片膝をついて頭を下げる。

それを見てテレンシア王女は満足げに微笑んだ。

「聞くところによるとエミールは人手不足で困っているそうだな。」

「え、えと、それは・・・。」

「ああ困ってるね。私がこき使われるくらいなんだから。」

ハレンが横から口を挟む。

というかハレンはそろそろ不敬罪で捕まっても文句言えないだろ。

「どの口が言うのか・・・。しかし今回の件も抱えるとなるとエミールの負担になってしまうだだろう。姉としてそれは不本意だ。というわけで強力な人員を貸し出そう。」

テレンシア王女が誰かを手招きをする。

「気前がいいねテレンシア。助かるよ。」

「何、本人が協力を望んでいるのだ。」

ああ、なるほど。助っ人が誰かはもう分かった。



「しばらくぶりだねスヴェン君。君ともう一度組めて嬉しいよ。」

「よろしくアレク君。頼りにしてる。」

アルタイル研究室の代表代理、アレク・イージス。

オレの幼馴染で、目標で、誰よりも頼りになる男だ。

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