第79話 精一杯の抵抗
とはいえ前世の知識で役に立つものは刑事ドラマくらいだ。
ドラマだと失言するとすぐに捕っていたからそれだけは無いようにしよう。
「オレ・・・じゃなくて私は仲間達と正式な手順で依頼を受注しています。それにこの街のギルドを利用するのは初めてで、ギルドの受注方法に感動していたくらいなんです。横取りなんて発想は生まれるはずがありません!」
これは事実だ。変な事は言ってないはず。
「主張は理解した。それでは諸君の意見を聞こうか。」
テレンシア王女が各代表に発言権を移す。
「ワーキアです。彼は入学して2週間の新入生であり、出身は隣のチャート領。資料からも内容は妥当だと判断します。」
「そうだな。発言に嘘は無いだろう。」
おや?頭ごなしに否定されると思ってたけど違うのか。
ならもう少し話してみよう。
「えと、ですので私は悪いことなんてーーー」
「違うよなぁ。」
横から声を被せられた。
そちらを見るとガラの悪そうな女生徒がこちらを睨んでいる。
「デネブ代表のナスルだ。問題をすり替えるなよ新入生。今は”お前が密猟したかどうか”が論点だ。お前が密猟を思いつこうがつかまいが関係ねぇんだよ。」
「どうしてですか!思いつかなきゃやりようが無い!」
意味の分からないことを。
この人が敵か?
「しらばっくれるなよ。誰か言われたんじゃねぇのか?美味い話があるぞってな。」
うぐ、確かにその通りだ。
事実依頼はハレンから勧められたものだしな。
どう反論したものか。
「ナスルの意見は最もだ。被告には密猟の認識すら無かった可能性はある。そうなると後は依頼書の横取りをどう行ったかが論点になるな。」
「時間があったら黒幕を吐かせてやりたいですがね。」
ナスルは視線はハレンに向いている。
知っているぞと言わんばかりだな。
「皆異論は無いな。」
困った。
このまま真実だけ話していてもオレが無実になる気がしない。
この後はどうなる?
依頼書の横取りのところではオレの知っていることは何もない。
ただ目の前でオレに不利な証拠が並べられて、とんとん拍子で有罪にされる未来が見える。
「・・・い、異論あります!」
「・・・認めるが何に対してだ?」
勢いで声を出してしまった。
もうこうなったら言える事全部出すしかない!
「オレ、密猟をしていた人と森で出合いました!名前も知ってます!」
「おい、てめぇ!テレンシア様の決定にけちつけんのかよ!」
「焦らなくても密猟の実行犯については議論に挙げる予定です。段階を飛ばさないで頂きたい。」
ナスルとワーキアの反感を買ってしまった。
でもここは譲れない。オレが最初に言わないと話から追い出されてしまう。
「すみません!でもそもそも密猟者が別にいれば依頼書の横取りについては議論しなくてもよくなります!そうでしょう!」
思わず大きな声を出す。
威圧するつもりは無かったが・・・悪い印象を与えたかもしれない。
「静粛に。・・・スヴェンと言ったな。異論を認めよう。」
「なぜですか!こんな不届き者に!」
「私は異論は無いかと問い、被告は異論があると返した。そこに問題はない。」
「・・・テレンシア様がそうおっしゃるなら。」
ナスルは先ほどハレンに向けていた形相でこちらを見る。
怖い。
「賢明なご判断です。俺は議長を支持します。」
ブルースは何食わぬ顔でフォローしてくれる。
「コホン。そうか、それは結構だ。ふふっ。・・・ああ、スヴェン話していいぞ。」
・・・ん?なんだ?テレンシア王女の様子がおかしいな。
「えと、夕方依頼を終えて帰ろうとした時、派手な魔法がフューリーホーンに打ち込まれるのを見ました。それで群れが怒って密猟者を倒した後私達のことも追いかけてきたんです。」
「それは自殺行為・・・いや、よくわからないな。ブルース、なぜフューリーホーンが被告達まで追い回したのか説明して欲しい。」
「承知しました。フューリーホーンは群れにストレスを与えられると原因を排除するまで追い続ける性質があります。彼の話が真実だとすれば、被告達は依頼を終えた後フューリーホーンの角を所持していたではずです。ご存じの通り魔物は同種の位置を魔力で捉えていますから、森から出ようとする同種の動きを察知して敵だと認識したのでしょう。フューリーホーンは仲間意識が強いですから森から出ようとすることなどありえないですからね。」
ブルースがすらすらと解説を行う。
まるで見てきたかのようだ。そしてオレの認識とも一致している。
「いつも素晴らしいなブルース。動物や魔物知識となれば君が一番だ。」
なんだかテレンシア王女が嬉しそうに見える。
・・・なんだろう。違和感があるな。
何の気なしにちらりとハレンの方を見る。
オレの視線に気が付いたハレンが親指とひとさし指で小さなハート型を作った。
え?そういうことなの?!
「おい新入生。話が止まってんぞ。こっちは異論を聞いてやってんだよ。」
衝撃で思考が止まっていた。集中しないと。
「えと、その後私達は二手に分かれて、私自身は湖の方角に逃げました。森にもう一度侵入して湖側に抜けた瞬間、密猟者の生き残りに爆弾を投げられてドリアル・・・友達が怪我をしたんです!」
ここで一度深呼吸をする。
この先が大事だ。
「続けろ。」
「はい。そこで私達は怪我をして移動ができなくなりました。同時に密猟者の生き残りもフューリーホーンの反撃を受けて私達の横に転がされたのです。その時私達を仲間と勘違いをしたのか自身の名前を叫びながら声を掛けてきました。」
「今”密猟者の名前”と言ったか。」
テレンシア王女と同じように各代表者も反応を示す。
「はい。言いました。」
どうだ?何か反応のある奴はいないか?
「もったいつけてんじゃねぇ!それともあれか?都合のいい奴の名前を考えてる途中か?!」
ナスルの反応は・・・普通か。
「密猟者の名前は”エイミング”。若い男性、学生くらいの年齢に見えました。」
講堂が静寂に包まれる。
最初に動いたのは当然テレンシア王女だった。
「話は以上か?」
「はい、以上です。」
この一言で講堂は音を取り戻す。
だけどダメだ。代表の中に怪しい反応をした人は誰もいなかった。
もしかしてオレの敵は出席してないなんて・・・その可能性は十分あるか。
それとも高圧的なナスルが敵なのだろうか。
「ワーキアです。よろしいでしょうか。」
「認める。」
「他の情報とすり合わせると全体の内容は概ねこちらの認識と一致します。また挙げられた名前については不明です。追加の調査が必要ですね。」
「どうせでっちあげだ。ほんの数日寿命を延ばすためのな。」
「それは調査すれば分かることだナスル。他にも議論すべき点は残っているが時間も迫っている。後日改めて代表会尋問を開くとしよう。」
・・・これはどっちだ。切り抜けた?それとも失敗した?
「異論あるよテレンシア。今話せることは全部話すべきだ。」
ハレンが心なしか硬い表情で発言する。
ダメか。ここで終わると失敗なのか。
時間が経ったらより不利な証拠を集められるだけということだろう。
「その異論は認められない。後日情報が揃ってから改めてするのが合理的だ。」
「君は業務が忙しいだろう?それなら今ーーー」
「うっるせぇんだよ!テレンシア様のお話にケチつけるところあんのか?ねぇよなぁ!」
ナスルの言葉は乱暴だが最もな内容だった。
これ以上はただ駄々をこねているだけになってしまう。
流石に鉄の心臓のハレンでもごねるのは無理だ。
「・・・ナスル。私はテレンシアと話がしたいのさ。割って入らないでくれるか。」
冷たい。恐ろしい程の冷気がハレンから発せられる。
これは魔法じゃない。威圧感だ。
空気が凍りついたと錯覚する程の。
「ビビんねぇぞ!あ、たしはテレンシア様の家臣だ!」
ナスルは気圧されずに反論する。
よく耐えられるな。オレなんか息をするのも忘れていたのに。
「止めろ!馬鹿共が!」
テレンシア王女が机を両手でバン!と叩く。
その衝撃で全員が正気に戻った。
「ハレン。お前がそこまで言うなら鐘が鳴るまで時間を取ろう。残りは後日だ。異論は認めない。」
「ありがとうテレンシア。」
ハレンは申し訳なさそうにこちらを一瞥する。
・・・大丈夫だけどさ。オレ何を話したらいいかなんて分かんないよ。
時間は稼いだ。でも切り出せる話題がない。
これじゃ印象を悪くしただけになってしまう。
頭を捻れ、何か無理やりでも思い出せ・・・。
オレを救える何かを。
「スヴェン!」
救世主の声は2階から舞い降りる。
「ドリアル!なんでここに?!」
ドリアルは全身に包帯を巻きながらも軽い身のこなしで1階へ飛び降りる。
「どうか、きいて、ほしい。」
「・・・認めよう。トロール族の王子よ。」
全てはドリアルの独白に委ねられた。
人物紹介
テレンシア王女
王女であり、代表会の議長。
ハレン
フォーマルハウト研究室代表の生徒。
ブルース
オリオン研究室代表の生徒。男性。
ワーキア
ベガ研究室代表の生徒。女性。
ナスル
デネブ研究室代表の生徒。女性。
ドリアル
トロール族の族長の息子。




