第78話 尋問開始
「ーーーというわけなんだ皆。どうすればいいと思う?」
オレはオリオン研究室から出てすぐに関係者を屋敷に呼び出した。
代表会尋問に召喚されたこと、開廷が今日の夜だと言うこと、容疑が密猟であること。
全ての要素なんとか説明し緊急事態であることは理解して貰えた。
「状況は理解した。息つく暇もないとはまさにこのことだ。」
数日ぶりのデリックは大変やつれて見えた。
オレ達が依頼を受けている間にテレンシア王女主催の舞踏会が襲撃される事件が発生していた。
幸い実行犯が全員捕縛され、数日で首謀者まで検挙されるという異例の解決速度みせたことで生徒達は以前と変わりない生活を送っている。
「解決したとはいえ舞踏会の事後処理すら済んでいません。それで今回の代表会尋問。間違いなく敵の策略でしょう。」
「舞踏会の襲撃犯は末端の仕業じゃ。本当の敵の姿は輪郭すら掴めとらん。」
マーナルディやブランドからも後ろ向きな発言が垣間見え、オレのことを構っている暇は無さそうだった。
「オレが寝ている間に色々あったんだね。それならオレ一人でなんとかするよ。」
正直精神的、体力的に疲弊している皆にこれ以上負担をかけるのは良くない気がする。
「どうしよう。仮にスヴェンが密猟者にされたら他のメンバーも全員拘束されてしまうよ。そしたら私達は責任追及されて立場が無くなっちゃう。」
エミール王子も弱気だ。
本格的にマズイ状況らしい。
「代表会尋問の件は任せてよ。ついさっきまで寝てたオレが一番元気だし、何より悪いことは何一つしてない。真実を伝えられれば皆分かってくれるよ。」
「スヴェン。相手はその真実を捻じ曲げてくるぞ。勝算はあるのか。」
デリックは険しい表情のままだ。
「だからと言ってオレ達が今から集められる武器は少ないよ。証人としてトトイト達に来てもらうとかはできるのかな。」
「可能だろうが意味があるかはわからん。同じ実行犯として発言を取り消される可能性は高い。」
「そっか。・・・そういえばドリアルはどうなったんだろう。結構な大怪我だったけど救護室にはいなかったし、本格的な病院にいるのかな。」
「ギルドに併設された病棟で治療を受けています。彼の意識はまだ戻っていないそうです。」
一緒に残ったドリアルが居てくれたら発言の信憑性があがるかと思ったけど無理か。
「最初にお見舞いに行くべきだった。ドリアルは体を張ってオレを守ってくれたんだ。」
「その件は使いを出そう。見舞いの品と医療費の相談もしなければ。」
「是非私に行かせてください。彼、いや彼らには正式にお礼を言わなければ。」
まだ誰もドリアルの見舞いにすら行けていないのか。
「マーナルディお願いね。オレも代表会尋問が終わったら行くからさ。」
「任されました。スヴェンはそちらに集中してください。」
結局オレが有利になりそうな情報は何も集まらなかった。
だけど覚悟は決まった。
全員の為に何が何でも無罪を勝ち取らないといけない。
冷静に、はっきりと、分かりやすく。
ハレンに言われたことを思い出して落ち着いて挑もう。
「それでは代表会尋問を始める。」
講堂に机や椅子などの簡易的な設備が設置され、2階は誰でも出入りできるように解放されていた。
「議長はテレンシア・レイヴン・タナトリスが務める。異論は無いな。」
異論などあるわけもない。
お決まりだろう話がつらつらと述べられ議会が進行しついに尋問が始まった。
「改めて宣言する。本議会はスヴェン・ツオイス及びその同行者がレイヴン領内にて密猟を行ったとして通告があったため、その真偽を問うために開かれている。」
テレンシア王女には為政者の風格があり、彼女の発言中は誰一人として物音すら立てられなかった。
一つ確かなことは彼女を納得させなければオレの勝利はあり得ないということだ。
「代表者そして被告に認識相違はないか。あるならば今ここで挙手し発言することを認める。」
「はい。」
挙手した人物はなんとハレンだった。
ダメだな。緊張で視野が狭くなっている。
「発言を許す。」
「フォーマルハウト代表のハレンだ。今日の代表会さ、日程が急すぎやしないかな。通達から開催まで半日しかないなんて例が無いよ。」
ハレンの太々しい発言に講堂がざわつく。
周囲の様子から許されない範疇の言動らしい。
「急な日程だとは私も感じている。しかし手続きに不備はない。故にこの件についてこれ以上議論の余地はない。それで良いなハレン。」
「問題ないよテレンシア。一言文句が言いたかっただけだから。」
ついに数名が怒鳴り出し代表者の中でも顔をしかめている人物がいる。
『なんでそんな不利になることするんだよハレン。』
オレは恨めしそうな表情でハレンに抗議するとハレンは目くばせで数名の代表者を示した。
オレはもう一度代表者達を確認する。
・・・そうか今の反応でそれぞれの立場とか性格が大まかにわかるのか。
テレンシア王女の左右に座っている人物は今にも襲い掛かりそうな表情をしているし、オリオン代表のブルースは涼しい顔をしている。
落ち着いて全体を見渡すとそもそも空席が目立つし、今回の代表会が異例なのだと実感できた。
「静粛に。代表会では特例が適用される。ここでは参加者の身分は一切考慮しない。ハレンの発言に問題はなかった。」
テレンシア王女は一喝して騒ぎを鎮める。
「発言をよろしいですか議長。」
今度はブルースか。
「発言を許す。」
「オリオン代表のブルースです。日程については承知しました。しかし実際に都合がつかない代表が多すぎます。これでは代表会の有り方にそぐわないのではありませんか。」
「こちらも問題ない。参加できない代表者からは"決議に同意する"と事前に了承を貰っている。欠席した代表者の意思は決議に反映されているとする。」
ここで少し変化があった。
王女の発言中、今までは静聴するだけだった2階の生徒達からひそひそ声が聞こえくる。
ひとまず全員がオレの敵ということではないらしい。
「承知しました。ブルースからは以上です。」
「他に疑問を呈する者はいるか。・・・いないな。」
テレンシア王女は一呼吸置く。
「では本題に入ろう。ワーキア、どのような通告であったか読み上げてくれ。」
「はい。先週末、レイヴン領グランマーク市西部の森でフューリーホーンの密猟がありました。上位種を含む10頭以上が密猟されています。こちらはギルドの冒険者及び周囲の住民から寄せられた情報であり、情報の信憑性が高いです。」
今読み上げをしている代表者はワーキア。
ベガ研究室代表の生徒だ。
議会の進行の一部を任されている以上、彼女はテレンシア王女に近しい人物だと考えていいだろう。
「ありがとうワーキア。この通り密猟行為があったのは事実だ。そして被告のスヴェンはその犯人として疑われている。何か異論はあるか。」
事実が述べられただけだ。何もあるわけがない。
「それでは尋問に入る。スヴェンは当日現場に居たのか。」
「はい。ギルドで依頼を受けてフューリーホーンの角を採りに向かいました。」
「よろしい。では議論は被告の行動がギルドによる正式な依頼であったかどうかが焦点になる。」
ここまでは全員の予想通りといったところか。
「ではワーキヤ。通告の続きを読み上げてくれ。」
「はい。ギルド職員に調査を行ったところ該当の依頼書は別の冒険者に依頼する予定だったそうです。しかし当日、予定とは異なる人物に依頼が受け渡されておりちょっとした騒ぎが起きました。」
「要するに被告が依頼書を横取りして狩りを行ったという主張だ。それが本当であれば密猟行為に当たる。異論はあるか。」
まてまてまて。
これハレンのせいだよな。
ハレンが余計な事した責任をオレが被せられているようにしか見えないぞ!
・・・だけどダメだ。ここでハレンを見てしまったらオレの考えが透けてしまう。
ギルドでの目撃情報があるならハレンがそこに居たことも知れているだろう。
であればハレンが魅了を使ったのだとこの場の全員が考えているはずだ。
それを暗に認めたら議論が終わってしまう。
「異論あります!」
ここで言い淀んだら即終了だ。
頑張れオレ。助けてくれ前世の知識!
人物紹介
テレンシア王女
王女であり、代表会の議長。
ハレン
フォーマルハウト研究室代表の生徒。
ブルース
オリオン研究室代表の生徒。
ワーキア
ベガ研究室代表の生徒。




