第75話 フューリーホーンの角:その6
「ォオオオオオオオォォォ!!!」
フューリーホーンの群れがオレとドリアルを視認した。
「ほらこっちだ!衝撃波!」
群れを覆う空気が上下にグワンと揺れる。
「「「ピュイ!!」」」
フューリーホーンが角で魔法を捉えるならこれは効くだろう。
頭を揺らされる不快さは相当なものだ。
「ォオオオオオオオォォォ!!!」
群れの進行方向がこちらに傾く。
どうやら挑発は成功したようだ。
「ここまでは計画どおりだね。後頼んだよドリアル。」
「もりに、はしる。」
ドリアルが速度を徐々に上げると群れも逃がすまいと後を追う。
「こっちに向かうとどこに出るか知ってる?」
「みずうみ。」
川の下流にある湖か。
確か湖の辺りは開けていたはず。
「湖に出るのはなるだけ避けよう。」
今は木々を避けるため群れ全体の速度が抑えられている。
それに時折放たれる雷魔法も当たりやすくなってしまう。
「いずれ、でる。みずうみ、おおきい。」
「そっか。なら何か考えないと。」
森の中をグネグネと走る案。
これはダメだ。
オレが群れの位置を捉えられないと皆の方に群れが向かう可能性がある。
なら魔法で攻撃して弱らせる案。
これも微妙だ。
群れに大きなダメージは入るだろうけど、肝心の怒れる角2頭を倒しきれない。
熱を消費した後に接敵されたら対応できる保証がない。
それに熱魔法は範囲内を無差別に焼き尽くしてしまう。
無関係な生き物の殺生は避けたい。森の生態系に関わる。
となると残りの案は・・・。
「湖に出たら反転しよう。」
「むずかしい。ぬし、つよい。」
「主の位置は分かってる。だから群れの薄い箇所を抜けよう。」
これなら群れの意識はオレ達に向いたままだし、湖に出なくて済む。
「オデ、じょうぶ。でも、スヴェン、こども。」
「大丈夫だよ。オレ、魔法には強いんだ。」
それに怪我しても治るし。
「わかった。すぐ、みずうみ。かまえて。」
森の入り口から湖までそれなりの距離があったはず。
ドリアルの速度だとすぐなのか。本当に速いな。
「ォオオオオオオオォォォ!!!」
「近い。やっぱり相手も早いな。」
木々の間からちらりと怒れる角が姿を見せる。
鳴き声の高さからすると若い個体か。
・・・ん?あの角に引っかかってるものはなんだ?
木の枝・・・じゃないな。
「あいつ、角になんかーーー」
「スヴェン。みなくて、いい。」
ドリアルが声を被せる。
気になるな。でも今はそれどころじゃないか。
もうオレの視界には夕日を反射した湖面が映っている。
反転のタイミングに集中しろ。
「ドリアル。右斜め後ろにお願い。そっちが薄い。」
「わかった。」
そろそろ開けた場所に出るな。
「合図したら反転して。・・・3・・・2ーーー」
「お前らぁ!よくも俺の仲間を殺したなぁ!ぶっ殺してやる!!!」
湖側から怒声が聞こえる。
誰だ?こんなところで何をしている?
「おい!危ないから下がって!なんだってこんなーーー」
「スヴェン!」
突然ドリアルがオレをぶん投げた。
「うわ!」
オレは美しい放物線を描いて湖へ放り出され、水しぶきをあげて着水した。
「ぶはぁ!浅くて助かった!」
水草をかき分けて水面に浮上する。
「うおおおおおお!!!死ねぇぇぇ!!!」
知らない男の叫び声と断続的な爆発音が鳴り響く。
森の入り口に向けて魔法か爆発物を投げつけているらしい。
「何やってんだ!ドリアルに当たる!」
オレは急いで湖から上がると体の温度を上げて服の水分を蒸発させる。
「止めろよ!聞こえねーのか!」
「うあああああ!!!」
ダメだ!興奮して止まらない。
煙で視界も悪いし突然のことに熱も大半を手放してしまった。
状況は最悪だ。
「ドリアル!聞こえる?!どこ?」
どこだ?ドリアルは無事なのか?
「スヴェン。こっち。」
声の方を振り向くとドリアルが地面に伏せていた。
「よかった!無事・・・そうじゃないね。」
「あし、やられた。それだけ。」
ドリアルの右足はやけどで爛れていた。
あの爆発に巻き込まれて吹き飛んでいないのが奇跡か。
でもこれで走って逃げる選択肢は無くなった。
「・・・ふぅぅぅ!ふぅぅ!」
爆発が止み、森に静寂が戻る。
どうなった?群れはやられたのか?
「ォオオオオオオオォォォ!!!」
声と共に煙の中から巨体が現れる。
ダメか。せめて直撃させないとダメージにならない。
「ぐっ・・・ああああ!!!」
男が再び爆発物を投げつける。
怒れる角は意に介することなくそれを角で空中に弾き飛ばした。
「ぐわ!」
空中で爆発が起こり男は尻もちを着く。
これでは突進を避けられない。
「なにやってんだよ!突風!」
オレは風魔法で空気を圧縮して飛ばす。
「なんだ?!」
男は風に吹き飛ばされ怒れる角の突進を何とか躱した。
「誰かいるのか?もしかして生きてたのか?俺だよ!エイミングだ!」
冷静に考えるとこの森に今日居た人間は依頼を受けたオレ達。
それと密猟者だ。
この男は密猟者の生き残りの可能性が高い。
「人違いだよ。オレ達は冒険者だ。」
「・・・なんだよ。皆死んじまったのか。俺のせいかよ。くそぉ。」
密猟とか雑な狩りとかフューリーホーンの生態を知らないとか。
この男に言いたい正論は山ほどあるが今はそれどころではない。
「ォオオオオオオオォォォ!!!」
群れに囲まれた。
後ろは湖、前はフューリーホーンの群れ。
一帯は開けていて隠れる場所は無い。
ドリアルは怪我をしていて走れない。
湖に入れば雷魔法で狙い撃ちにされる。
まさに絶体絶命。大体詰みだな。
「ドリアル。今何ならできる?」
「ぬし、とめる。いっかい、だけ。」
「お前は?爆弾野郎。」
「・・・ひぐ。もう死ぬ。終わりだ。」
「何ができるかって聞いてるんだ!答えろよ!」
「・・・あ、まだ魔鉱石が少し。」
男はローブのポケットから小石サイズの魔鉱石をいくつか取り出した。
危険物をこんなに雑に管理するなんてどうかしている。
「貰うよこれ。・・・お前は合図したら湖に飛び込んで。運が良ければ生き残れる。」
「あえ?何をするつもりだ?」
「爆弾の使い道なんて一つしかないだろ。」
いつもの通り一か八かだ。
全力で吹き飛ばすしかない。
入試の時。
ダンジョンの守護者を倒し、開かない鉄の扉を空気爆弾でこじ開けようとした。
あの時は扉が曲がるだけでマーナルディーの力が無ければこじ開けることはできなかった。
しかしトトイト一行はメイジェーンの爆弾で扉をこじ開けて脱出したらしい。
オレの全力より魔道具の方が威力が高かったのは明白だ。
今日一日でいくつかの魔道具を目の当たりにしたから分かる。
魔道具を上手く使えれば実力以上の相手に勝てる。
オレの空気爆弾とこの魔道具が合わされば怒れる角だって倒せるはずだ。
「やろうぜ怒れる角。お前だってやられっぱなしは嫌だろ。」
オレの挑発が聞こえたのかは分からない。
群れの後ろからのそりと足を引きずりもう一つの巨体が現れる。
老いた怒れる角だ。
彼は若い個体を角で押しのけ前に出る。
俺がやる。そういわんばかりに。
「ウー!ガー!」
ドリアルが雄叫びと共に一歩前に出る。
右ひざを着き、両腕を前に出したまま。
「ォォォオオオオオ!!!」
突進して来いと言わんばかりの構えに怒れる角は激怒する。
その角に魔力を込めてスパークさせ、腫れあがった後ろ足で地面を強く抉った。
これはプライドのぶつかり合いだ。
若い個体も静かに下がり両者の立ち合いを見守る。
「スヴェン。ドリアル、つよい。じょうぶ。」
「分かってるよ。全力でやる。」
中途半端は意味がない。
ドリアルもオレも巻き込まれる覚悟で一撃で仕留める。
その覚悟は共有できた。
「ォオォォォオオオオオ!!!!!」
「ウー!ラー!」
全部だ。報酬も経験も命も誇りも全部。
オレ達が手に入れてやる!
人物紹介
エイミング
密猟者。男。
雑な密猟の末、仲間を失った。




