第73話 フューリーホーンの角:その4
「ォオオオオオオォォォォォ!!!」
低く、圧力のある鳴き声。
一歩踏み出すごとに地面が揺れ、木々がなぎ倒される。
この森に彼の障害となるものは一つもない。
当たれば即死の重戦車だ。
「散れ!」
ブランドの号令でオレ達は四方に散開する。
オレ達が元々居た場所は木の根が見えるほど地面が抉られていた。
かすっただけでも大怪我しそうだ。
「以降は取り決め通りに!」
マーナルディの声に全員が頷く。
ハレンを除くメンバーで二人一組を作り、組ごとに距離を取った。
敵を中心に△の形を保つ。
事前に決めていた対大型生物用の陣形だ。
強力な範囲攻撃に全員が巻き込まれないようにし、それぞれの組が役割を遂行する。
冒険者に広く伝わる戦術だ。
まずはマーナルディとメイジェーンの後方支援組。
「ゴーレムを出します!」
マーナルディがゴーレムコアを金槌で叩く。
すると地面からゴーレムの体が生え、マーナルディとメイジェーンを抱えて走り出した。
「思いっきりやれー!助けてあげるー!」
より安全な位置からサポートする陣形の要。
次にトトイトとブランドの前衛組。
「よーし!!!行くぞ!!!」
トトイトが気合いを入れるとグングンと存在感が増し、体が大きくなったような錯覚を覚える。
格闘家の”構え”だ。
「好きにやれ坊主!ワシが合わせる!」
ブランド達は反対により危険な位置に体を寄せ、相手の気を引く動きをしている。
彼らはチーム戦闘を可能にする前線だ。
最後にオレとドリアルの火力組。
常に相手の背後を取り致命の一撃を入れるのが役割だ。
可能な限り早く相手を倒さなければならない。
・・・だけど先に考えるべきことがある。
「できるなら逃げたい。どうにかなだめられないかな。」
戦わずに済むならそれが一番だ。
攻撃を始めたらもう絶対に逃がしてはくれない。
「むりだ。おいた、ぬし、ずっと、あのまま。」
「老いた主・・・歳をとって感情のブレーキが無くなってるのか。」
文字通り死ぬまで追いかけてくるのだろう。
まさに”怒れる角”だ。
なら覚悟は決まった。
「オレが体制を崩すよ。」
「わかった。オデが、しとめる。」
決め事は全て確認した。
後はどれだけ力を発揮できるかの勝負だ。
「うおおおおお!ボケがぁ!」
「せい!はっ!」
「ォオオ!」
前線組の活躍で相手は突進攻撃に移れない。
角を振り回してどうにか払おうとする。
しかしその巨体が仇となり至近距離の彼らに攻撃が当てられない。
「・・・ォォオオオ!!」
”怒れる角”が動きを止め体を硬直させる。
角にピリピリとしたものが集まる感じ・・・雷魔法、いや風魔法もか?
「魔法だ!」
「避けろ!」
オレとブランドが同時に叫ぶ。
「オオオォォォ!!!」
帯電させた角をより一層激しく振り回す。
同時にスパークが迸り周囲一帯を薙ぎ払った。
「ウギギ・・・痺れた!」
間一髪で前線組はその攻撃を躱した。
しかし直撃しなくても体を痺れさせてくる。
このままでは接近戦は難しい。
「陣形が崩れます!一度距離を取って!」
マーナルディが後方から指示を飛ばす。
ブランドがトトイトを抱えて後ろに下がり、痺れからの回復を図る。
「ォオオ。」
強力な攻撃だけど隙も大きい。
背後のオレ達は完全にフリーだ。
「熱風!」
オレは空気の手で”怒れる角”の左足を掴む。
熱を溜める時間は十分にあった。
鉄だって曲げられる熱さだ!
「ォォオオ!」
しかし対応は迅速だった。
左足を大きく上げ体を一回転させることで空気の手を振り払う。
・・・くそ!握力が足りないか。
「ウー!ガー!」
だけど攻撃は魔法だけではない。
ドリアルが渾身の力を込めて棍棒を脇腹に叩きつける。
「!!!・・・ォォ。」
あまりの衝撃に全身の毛皮が波打つ。
激痛にあまり声を上げることもきないようだ。
「すっごいパワーだ。」
「やるねドリアル!」
「まだ、ぬし、げんき。」
ドリアルの言葉通り”怒れる角”は体制を直すとこちらを真っすぐ見据えた。
どうやら本気で怒らせたようだ。
「ォオオオオオオォォォォォ!!!」
急加速した重戦車がドリアルに迫る。
「・・・ウー!ラー!」
マズイ。距離が近すぎて避けられない。
それを察したドリアルは腰を落として両手を開けた。
受け止めるつもりだ。
でも地面を抉る威力を?ドリアルでも無理なんじゃ・・・。
「『大地の化身よ、身に迫る脅威を打ち払え』・・・開放!岩石砲!」
メイジェーンが何かを唱えた後、彼女の杖が爆発して巨大な岩が飛び出した。
「わかった。」
メイジェーンの意図を察したドリアルが後ろに数歩下がる。
そのままドリアルと”怒れる角”の間に着弾し、触れたら即死の重戦車は大岩に直撃した。
衝撃で地面が揺れる。大岩が崩れ”怒れる角”にぶち当たった。
「ォォオオ!」
「・・・バケモンかこいつ。」
「大岩ですよそれ!」
妨害なんて気にも留めず、岩を砕きながらなお直進する。
「ウー!ガー!」
ドリアルは間一髪で突進を躱し、すれ違いざまに左足に一撃を加えた。
「ォォオオオ・・・」
自身の突進の威力をカウンターされ、今度こそダメージを受けたようだ。
明らかに足がふらついている。
「たった2回の攻撃でここまでダメージが入るなんて・・・これがトロール。」
「ナイス!もう一撃で倒せそう!」
ドリアルの活躍で突進の威力が削がれた”怒れる角”の脅威度は大きく下がり、簡単に攻撃が避けられるようになった。
こうなればもう時間の問題だろう。
「やるね。森の主をここまで追い詰めるなんて。」
どこかに隠れていたハレンがいつの間にかゴーレムに乗っていた。
「・・・そんな甘ないわ。こいつは魔物じゃ。」
ブランドが何かを嗅ぎ取り周囲を警戒する。
「ブランド。何かいるの?」
「チビ!恐らく群れじゃ。」
「群れ?!」
オレは戦闘中溜め続けていた熱の渦を広げ周囲を確認する。
今の渦の大きさなら半径200mを探知できる。
・・・フューリーホーンの角と同じ触り心地がする。
それがざっくり20頭くらいか。
いや、それに加えてピリピリする感覚がある。
「群れだけじゃない!もう一頭でかいのがいるよ。」
「もしかして森の主ですか?・・・なるほど、ちょうど代替わりの時期だったのですね。」
「どうしよう!まだ目の前の主も倒しきれてないよ!」
時間が無い。すぐに選ばないと。
弱らせた”怒れる角”を無視して逃げるか。
速攻で倒して逃げるか。
どちらにもリスクはある。
どっちが正解だ?




