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第72話 フューリーホーンの角:その3

「準備完了!行ってきます!」

トトイトは川の下流に向けて元気よく飛び出して行った。

フューリーホーン酸欠作戦開始だ。

「では我々も所定の場所へ向かいましょうか。」

オレ達は下流が見渡せる丘に陣取り、作戦が失敗した時に備えて装備を整える。

「この辺りの臭いは薄い。獲物(フューリーホーン)はおらん。」

「ドリアルの言った通り日がある間は下流にいるみたいだね。」

「報告ありがとうございます。我々は伏してフューリーホーンを刺激しないようにしましょう。」

「こっちも準備完了ー。」

後方は準備ができた。

後は作戦成功を祈るだけだ。

「トトイト、あそこ、もう、ちかい。」

ドリアルが指さした所を凝視すると空間の揺らぎがギリギリわかる。

もう十歩くらい歩けば触れる距離だ。

「頑張れトトイト。」

「見てるだけの方が怖いわねー。」

ついに真横まで距離を詰めた。

後は即席の魔道具を起動させるだけだ。

「いま、つかった。」

何かを感じたフューリーホーンは頭を振って横に移動する。

けれど走り去る訳ではない。ここまでは予想通りだ。

5秒・・・10秒・・・。

息苦しい理由がわからず段々激しく頭を振り始める。

「マズイな。想定より獲物が耐えよる。仲間の異変を気取られるかもしれん。」

「ドリアル、他のフューリーホーンの様子は?」

「みてる、でも、うごかない。」

事態が解決しないフューリーホーンは遂に仲間の方目掛けて駈け出そうとした。

「ダメだ。逃げられそう。」

「んー?でも動きが鈍いねー。」

駈け出したはいいが足元がおぼつかない。

その様子を見て取ったトトイトがフューリーホーンの首筋に飛びつく。

相手も流石に状況を理解したのか体を捩る。

しかし暴れたことで息が荒くなり悪い空気を一気に吸い込んだのだろう。

フューリーホーンはすぐに痙攣して動かなくなった。

「やった!すごいよトトイト。」

「まだ完了ではありません。警戒が解かれるまで待機してもらう必要があります。」

「シカ、みてる。なかま、たおれた、ふしぎ。まよってる。」

「いい子だからご飯食べててねー。」

群れの内数体が倒れた仲間の様子を伺いに近づいてくる。

「そう都合よくはいきませんか。ドリアル、姿を現してください。」

「わかった。」

ドリアルが木陰から体を出す。

するとフューリーホーンが一斉にドリアルに向き直り警戒する。

倒れた仲間に近づき始めていた個体も群れに戻り警戒に加わった。

「引き上げられそうですね。スヴェン、合図を出してください。」

オレはトトイトに見えるように赤い旗を掲げる。

これは”作戦終了、現時点での成果を回収”の合図だ。

「伝わったみたいねー。旗はもう十分よー。」

トトイトはナイフとハンマーで角を切り出している。

骨の折れる作業だが格闘家の彼であれば5分程度で回収できるだろう。


「大成功ー!見てよこれ!角2本だよ!」

「これで作戦完了ですね。お疲れ様です。」

「ありがとうトトイト。大変なところばかり任せちゃってごめんね。」

「全然問題ないよ!今回は修行のつもりで来てるからね!」

「作戦には魔道具も不可欠でした。素晴らしい腕です。」

「あなたもねー。」

「結局さ!これってどんな魔道具だったんだ?!一度使ったら壊れちゃった!」

トトイトは魔道具をマーナルディに手渡す。

魔道具は頭部が妙に大きい棒状をしている。

例えるなら丸い部分がすごく大きいマラカスだ。

「壊れた上側パーツには圧縮した空気を収めていました。起動と同時に壊れる設計なので気にしないでください。」

「ボタンを押すと頭が割れて悪い空気が飛び出すのよねー。その後は石の風魔法でその空気が逃げないように捕まえていたのー。」

吸魔鉱石には使い方が大きく2つある。

1つは電池、2つめは魔法の記憶媒体だ。

そして魔鉱石の純度が高ければ容量の多い電池、再現性の高い記憶媒体になる。

しかし純度の低い魔鉱石出番が無いかというとそうでもない。

ここで登場するのが錬金術師(アルケミスト)だ。

錬金術師(アルケミスト)の刻む印は魔鉱石を外部から調整する力がある。

つまり魔鉱石に覚えさせる魔法が1種類でも様々な形で再現可能になるのだ。

だが再現性が高すぎると調整(チューニング)が難しいので純度の低い魔鉱石に必要になる。

「俺でも複雑な魔法が使えるなんてすごいよな!」

「魔道具は画期的な発明です。全ての冒険者が平等にその恩恵を受けられますからね。」

「でも、まどうぐ、こわれた。」

確かにこのまま再使用は出来なさそうだ。

「安心してください。そのために鍛冶師がここにいるのです。魔鉱石以外の部品なら何度でも作成できます。」

マーナルディは早速魔道具の修復に取り掛かった。

「上手くいってよかった。」

皆のお陰で作戦は成功した。

これなら今日中に目標の角6本まで届きそうだ。



「これで6本目!目標達成だー!」

夕方、ついにオレ達は6本分の角を手に入れた。

「4頭目はどうしようか。」

「無理じゃ。警戒されとる。」

「昼に比べると孤立する個体も減りました。」

「もう魔鉱石も限界だしねー。次は上手く動かないかもー。」

「ならこれで終わりだね。皆ありがとう。」

目標は達成できた。

これ以上欲張って怪我をするのは良くない。

「ちがう、スヴェン。オデ、まだ、元気。」

そういえばドリアルは力技で1頭捕まえられるのか。

お願いしようか悩むな。

「やめとけ。夜になったら話変わる。欲張ると碌な事にならんのが常じゃ。」

「そうだね。帰り道で別の魔物に襲われる可能性もあるし。ドリアルもそれでいい?」

「わかった。まかせろ。」

「じゃあ片付けをして帰ろうか。」

「賛成ー。」

オレ達は手分けしてキャンプの片付けを済ませた後、一応設置した罠を回収に向かった。

残したままだと誰かが怪我をする可能性がある。

冒険者として忘れてはいけないことだ。


「・・・おかしい。これはどういうことじゃ?」

「何かあったの?・・・あ、罠が壊されてるね。」

いくつか仕掛けられた罠の内の1つ、跳ね上げ式の足くくり罠のロープが断ち切られていた。

「見てみぃ。力任せにちぎったならこんな断面にはならん。」

「同じ依頼を受けた冒険者に横取りされたのでしょうか。」

「それは違うね。今日この依頼を受けたのは私達だけさ。」

ハレンがひょいと現れる。

「では貴方が回収したのですか?」

「そんな大変なことしないよ。・・・あれ?もしかして煽られてる?」

「いえ、確認しただけです。」

ハレンが獲物を独り占めにした可能性をマーナルディは気にしているようだ。

でもハレンはそんな面倒なことはしないだろう。

やるなら堂々と魅了(チャーム)を使うはずだ。

「喧嘩はダメだぞ!」

「アホやっとる場合か!状況考えろボケ!」

ブランドがそわそわしている。

「もり、あらす、にんげん。ぬし、いかる。」

ドリアルも険しい表情だ。

「二人の言う通りだよ。私達は今すぐに森から離れるべきだ。」

「密猟者に襲われるってことか?!でもオレ達は7人もいるぞ?!」

状況を整理しよう。

ドリアルが主が怒ると言った。

つまり密猟者の荒い狩りの結果フューリーホーンの親玉が現れることを危惧しているのだろう。

しかし現れたところで襲われるのは密猟者だ。

オレとブランドで索敵すれば魔物を回避することは難しくないはず。

何をそんなに焦っているんだ?

「・・・しまった。我々はフューリーホーンの角を持っています。そしてこの角はまだ魔力を帯びたままです。」

そういうことか。

魔物は親玉を中心に同種の間で魔力での繋がりがある。

親玉からすればフューリーホーンの角の位置、つまりオレ達の居場所はバレバレだ。

「感知されるねー。」

密猟者(あほども)のせいで襲われたらかなわん!はよ逃げるぞ!」

ブランドの号令でオレ達は駆け足で森の出口を目指す。

急げば日が落ちる前には森を抜けられるはずだ。

・・・はずなんだけど。

ダメだ。悪い予感がする。


バーン!バーン!と魔法が弾ける音が連続して聞こえる。

密漁者がついに狩りを始めたらしい。

「くそっ!ボケ共が!」

ブランドが悪態をつく。

「急ごう!出口は近いはずだよ!」

「本当にままならないですね。」

「ぜぇ、ぜぇ。きついー。」

メイジェーンが青い顔をしている。

これ以上は速度を上げられない。

「オデ、もつ。」

「助かるー。」

ドリアルがメイジェーンを抱えた。

これなら間に合うかもーーー


なんて都合の良いことがオレに限ってあるはずもなく。

「チッ!備えろ!」

森の出口まであと少しという所でブランドが足を止めた。

どうやら補足されたらしい。

「チビ!近くにおるぞ!」

「魔法使っていいの?」

オレが熱魔法を展開するとブランドの嗅覚の邪魔になってしまう。

「でかいのがおる。戦うしかない。」

オレは急いで全身に熱をまとって周囲を探る。

渦を広げると後方50mくらいに大きな魔力を感じた。

間違いない。親玉だ。

「なんでわざわざこちらに。密猟者の方が近いはずです。」

「もう片付いたってことだよ。次は俺達の番だ。」

トトイトが緊張した声で答える。

考えたくはないがその通りなのだろう。

「来るよ!戦闘態勢!」


バキバキと木をなぎ倒しながらそいつは姿を現した。

馬鹿でかい体躯と角を有した鹿、森の主の怒れる角(フューリーホーン)

押しつぶされそうな程の魔力を感じる。

「逃がしてはくれないだろうね。後輩共、正念場だよ。」


なんでいつもこうなるのか。

もう森に入るのやめようかな。


単語紹介

魔道具

魔法が使えない人でも魔法が使用できる便利アイテムの総称。

魔鉱石を動力とし、錬金術師(アルケミスト)が印を刻むことで効果を調整できる。

そのままだと扱いにくいので杖の先などに魔鉱石を埋め込むことが多い。


怒れる角(フューリーホーン)

この森に住む鹿の魔物。

立派な角に魔力を集中させ様々な魔法を操る。

一度怒らせると地の果てまで追いかけられるためその名前が付けられた。

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