第70話 フューリーホーンの角:その1
「マーナルディ、フューリーホーンはどんな魔物なの?」
「フューリーホーンは牡鹿の魔物です。複雑に枝分かれした角が特徴で、様々な属性の魔法を使用します。角は魔法系統の武器の芯としてよく利用されるので需要は高いのですが・・・気軽に狩りに出向いた冒険者が大怪我をするのが通例になっています。」
「そんなに強い魔物なの?」
「単体ならそこそこじゃ。ルーキーでも十分に倒せる可能性はある。問題は奴らが群れで生活しとることじゃ。」
「警戒心が強くて近づくのも難しいし、怒らせると群れで突撃してるんだ!」
「群れかー。そうなると遠距離から一撃で倒すか・・・一頭ずつ誘い出すかになるね。」
「他にも罠をかけて待つ方法もあるねー。」
「トロールなら、おいかけて、つかれたら、つかまえる。」
「それは相手もびっくりの戦法ですね。」
ドリアルならその方法で確実に一頭は狩れる。
でも時間がかかりすぎるからダメだな。
「俺は遠距離魔法は使えないぞ!ドリアルも同じ!メイジェーンは?!」
「準備に時間がかかるねー。それにコストが大きいから赤字ー。」
錬金術師については詳しくないけど、大技になるとお金がかかるのか。
「ならスヴェンは?!」
「うーん。できなくはないけど威力が足りなさそう。オレの得意な魔法は狙撃に向いてないし。」
熱魔法も風魔法も遠すぎると威力がガクッと落ちる。
なにより魔法が届く前に感づかれて逃げられるだろう。
「誘い出そうにもそいつの事を調べんとな。」
「今からは時間が足りないね。」
「以上の理由から却下です。依頼の変更をお願いします。」
マーナルディが依頼書をハレンに突き返す。
「はぁ。後輩共よ、考えが甘いね。」
ハレンがやれやれと首を振る。
「簡単な依頼受けたって7人で割ったら大したお金にならないでしょ?それに君達は修業が目的なんだからこれくらいの難易度じゃないと意味ないよ。」
しれっと"7"で割るな。
「親交を深めるのが目的ですが。」
「そうだっけ?それでも収入は大事だぞ。冒険者の1日の生活費は約銀貨2枚と言われている。報酬がそれに満たないなら依頼は受けるだけ無駄だし、成長にも繋がらない。その点この依頼は角1本につき銀貨5枚だ。一頭に2本の角があるから、3頭仕留めれば銀貨2枚を超えるだろう?」
「貴方の意見は最もですが・・・それよりも命の方が大事ですよ。段階を踏んでこの依頼を受ければ問題ありません。」
「問題あるね。こいつは複数人で受けても一人の収入が減りにくいレアな依頼だ。みーんな受注したくてたまらないの依頼なのさ。そしてフューリーホーンはこの時期にしか現れない。だからこの依頼を来週、再来週まで待ってもらうなんてできやしない。つまりメガネ君の意見は考慮不足だ。機会の損失を勘定に入れてない。」
ハレンの言いたいことは理解できた。
お金も経験も手に入る依頼がちょうどよく手元にあるのだ。
それを逃すのは”冒険者”としてあまりにも慎重すぎる。
「メガネ君は副業冒険者だから報酬にはこだわらないだろうけどね。他の子達は生活をかけて依頼を受けるんだ。これは忘れちゃいけないよ。」
マーナルディは反論しようとしたが言葉が出ないようだった。
しばらく唸っていたがムッとした表情のまま椅子に腰かけ、トトイト達の方を見た。
「わかった!ちょっと時間貰うね!」
トトイト達は3人で集まって相談を始めた。
「お待たせ!俺達さ、この依頼受ようと思う!」
「お金は大事だしねー。」
「オデは、シカ、たべるし、にくも、うれしい。」
トトイト一行の意思は聞いた。
ならオレ達はどうしようか。
「チビはどうしたい。」
「オレは行きたいな。苦手なところをどうにかしなきゃだし。」
「メガネは。」
「・・・行きますよ。目的はトトイト達との親交を深めることですので。」
マーナルディは納得ができればそれまでのやりとりを引きずったりしない。
納得しないとずっと引きずるけど。
「よーし。賢い後輩達を持って先輩は幸せだぞ。」
「貴方も頭数に入っている以上役に立ってくれるのでしょうね。」
「勿論さ。バックアップは先輩に任せなさい。」
積極的には助けてくれないのね。
概ね給料泥棒だな。
「ここ、シカ、いっぱい。トロールの、かりば。」
ドリアルの案内で連れてこられた場所はグランマーク市の東門から出た所にある丘だった。
「川によって森と森が分かたれていますね。」
「この辺りは夏の雨で川が大幅に増水するのよねー。だから森から川への坂道は木が生えていないのよー。」
「待っとればのこのこ角さらして出てくると。ええ狩場じゃ。」
「シカも、むれ、はなれる。」
「わかったぞ!水を飲みに来たフューリーホーンを狙撃するんだな!」
「今が朝だから夕方まで粘れば3頭は見つけられるかも。問題はどうやって狙撃するかだね。」
道中狙撃の方法について相談を続けたが現実的な案はでてこなかった。
「オデが、おいかけても、いい。」
「ダメじゃ。他の鹿が警戒して森に逃げる。」
「では私達は罠を構築します。狙撃の方はよろしくお願いしますね。」
狙撃が上手く行かなかったときのサブプランとして簡易的な罠を仕掛けることになった。
メイジェーンとブランドが罠作成についての知識があるので、マーナルディが2人の話を聞きながらそれっぽいものを作る。
この3人は罠チームだ。
残りのオレ、トトイト、ドリアルの3人は狙撃?チームだ。
「任せたよ罠チーム。オレ達も昼までに作戦完成させるから。」
「頑張ってねー。」
罠チームは森に入った。
オレ達も何か考えないと。
「さて、まずは現地を観察しよう。」
「鹿がどうやって出てくるか確認しないとな!」
「いまの、じかん、シカは、あっち。」
ドリアルは川の下流を指さした。
「ゆっくり移動してみようか。」
「こっち、ばれない。みち。」
オレ達は再びドリアルの案内で下流へと移動する。
「あれ?!なんだろうこれ?」
木に真新しい傷が付いていた。
何か硬いものを擦りつけたようだ、
「これは、シカの、つのとぎ。」
「そうなんだ。じゃあ近くに居そうだね。」
「おー!じゃあ静かにしないとな!」
その声がうるさい。
本当に分かっているのだろうか。
「安心して!気配を消すのは得意なんだ!」
トトイトが構えを取って精神を集中する。
集中が深まるとトトイトの輪郭がぼやけ始め、ついには姿が半透明の膜になってしまった。
「すごいな。これは魔法?技術?」
「・・・」
「トトイト、きえたら、しゃべれない。」
「あー、そうなんだ。」
便利だけど使うタイミングは早かった気がする。
「スヴェン、あっち、シカ。」
今度は川の方を指さす。
最初は分からなかったがよく見ると豆粒くらいの大きさの鹿が見えた。
体と同じくらいのサイズの角が生えている。
「遠すぎてよく見えないや。もうちょっと近くで観察したいな。」
「トロールは、もう、ばれる。ちかづいたら、にげる。」
天敵のトロールに対しては警戒レベルが高いのか。
「ドリアルはこんな遠くからどうやって追いつくの?」
「ほんきで、はしれば、オデが、はやい。」
なんだと。
説明から鹿より早く走れるとは思っていたけど、この距離を追いつくのはかなりの速度差がありそうだ。
なんというかオレとドリアルの種族の差を感じる。
「じゃあここから観察を続けるかな。距離を見誤って逃げられても嫌だし。」
「スヴェン。トトイト、いった。」
「え?ホントに?」
フューリーホーンの辺りを探すと不自然に揺らめている空間があった。
「うわ、あんなに近づいても大丈夫なのか。すごいな。」
空間の揺らめきがフューリーホーンと重なる。
フューリーホーンはビクンと飛び上がって森の方へ逃げて行った。
「ついにバレたか。でもほとんど触れあうくらいの距離だったな。」
「触ってきた!触ったらバレちゃったけど!」
うわ、びっくりした。
意識から一回外れるともうどこにいるかわからないな。
「トトイト、すごい。」
「トトイトなら近づけるのは確認できたね。触った後もトトイトに気が付いて逃げたというよりは驚いてとにかく逃げたように見えた。」
「作戦の役に立ちそうかな?!」
「可能性は結構広がったね。もう一回考えてみようか。」
トトイトが触れられるほど接近できることをふまえて、改めて狙撃方法について案を出し合った。
「結局トトイトが張り付いてオレが魔法を打ち込む以外の案が思いつかないね。」
「そげき、わからない。トロールは、ゆみも、にがて。」
「ダメかー!考えすぎて頭痛いな!」
オレ達は全員前衛だから発想が殴る・蹴るに偏っている。
もっと視野を広げて考えよう。
「そもそもなんで狙撃になったんだっけ?」
「怒らせると群れに追いかけられるから!」
「そうだよね。・・・そういえばドリアルは群れに襲われても大丈夫なの?」
「シカ、かしこい。トロールは、襲わない。つよい、せんし、いっぱい。」
「トロール一人に構っている間に他のトロールに狩られるってことかな。だからトロールからは逃げると。」
「でも、シカ、いっぱい、おいかけるの、ダメ。ぬしが、でる。」
フューリーホーンは魔物だ。
魔物には当然群れのリーダーがいる。
親玉、上位種、或いは主。呼び方は様々だ。
大事なのは群れにストレスをかけすぎると強い個体が報復に現れるってことか。
「それは嫌だな。親玉とはもう戦いたくない。」
ウインドベアが絡んだ記憶はどれも苦いものばかりだ。
できれば刺激せずに依頼を終わらせたい。
・・・面倒だな。ハレンの口車に乗せられたかも。
ハレンか。魅了でフューリーホーンをメロメロにしてくれないかな。
できないだろうな。魅了は人にしか効かない。これは大原則だ。
・・・いや、待てよ。
「そうか、昏倒させればいい。」
「え?!俺の力じゃ一撃では無理だよ!それに精神系の魔法も使えないよ!」
「大丈夫。要は相手が騒がないように仕留めればいいんだ。」
そろそろ昼になる。
一度戻って考えた作戦を全員に聞いてもらおう。




