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第69話 平日から週末へ

「はい終わりー。基礎戦闘はこんなもんかなー。」

体力試験で試験官を担当していた小さなエルフの教授はそのまま基礎戦闘学を教えてくれるみたいだ。

「おめーら、剣100回振って、グラウンド1周して、人形とチャンバラするだけで息上げてんじゃねーよー。どの依頼だったらこれより簡単になるんだー?」

息が上がっている者、授業の内容を反復している者、暇すぎてあくびをしている者。

基礎戦闘の受講者をざっと見渡すだけでも個人の実力差に大きく差があることがわかる。

「ってことでなー。恒例のクラス分けだー。今から呼ばれた奴はもう基礎戦闘学来なくていいぞー。」

入学のパンフレットにも書いてあった内容だが、”基礎〇〇学”となっている講義は終了時に合格者が指名される。

これは実力のある生徒を排出し、基礎を学ぶべき生徒により注力するための仕組みだ。

「そこのお前ー。隣のお前ー。でかいお前ー。一つ飛ばしてお前ー。」

初回の授業で大体半分の生徒が指名され合格となった。

オレの知っている中で受講継続になったのは錬金術師(アルケミスト)のメイジェーンだけだ。

「残念だったなメイジェーン!次はきっと合格できるぞ!」

「ひぃ、ひぃ、脇腹・・・。」

顔が青白くなっている。

これは相当運動不足だな。

「メイジェーン、あさ、はしるか?」

「・・・死んじゃう。」

でもこれが冒険者であるための最低限の体力というならやる以外にない。

メイジェーンには頑張ってほしい。


そんなわけで今日は一日中基礎学を受講する。

基礎魔法学ではドリアル、基礎冒険者学ではトトイトが受講継続になったように、全部の基礎学を合格できた人は意外に少なかった。

合格率が低かったのは基礎薬草学。

自慢だがオレは合格した。今までの経験が活きた。

反対に基礎流行学については受講継続で、人気の武具や商品、最近増えている依頼などのレイヴン領の情勢について全く回答できなかった。

レイヴン領で冒険者を目指すなら常識となることをオレは知らない。

大きな気づきを与えてくれる講義だった。


「問題です。近年レイヴン領で流行のアイテムは?」

「えと、なんか爆発する奴!」

「違います。”冷却瓶”です。細い瓶の上部を割ると内部の溶液が冷える便利アイテムです。食料品の冷却や日射病の予防、患部の冷却など様々な用途で利用されます。」

「冬は”加熱瓶”じゃ。」

「知らないよー!オレ使ったことないし。必要ないし。」

「スヴェンはそうでも使い方を知らないのは問題ですよ。」

「便利アイテムを使わんと冒険するのは考えられん。」

「・・・わかったよ。ちゃんと覚えるよ。」

「これは実物見せないと覚えませんね。週末の依頼で実体験してもらいましょうか。」

常識問題がこんなに大変だなんて。

自分が田舎出身だってことを思い知らされるな。


最初の一週間で基礎学を一通り受講し終えた結果、オレが受講継続になったのは基礎流行学だけだった。

「私は基礎薬草学が受講継続になってしまいました。準備が甘かったですね。」

「オレは基礎流行学だけだった。ちょっと安心したよ。ブランドは?」

「全部合格じゃ。」

「すごいね。やっぱり一番バランスがいいのはブランドか。」

「苦手が有る奴はダンジョンじゃ生き残れん。これは常識じゃ。」

「一手間違えば死んじゃうもんね。それに危険から逃げるって選択肢も選べないこともあるし。」

「ブランドは先代当主が直々にスカウトされたのです。元々名の売れた冒険者だったのですよ。」

「そうなの?それなら納得だけどさ、なんで学校に入るっていう条件を飲んだの?」

「・・・まぁ損は無いし。気まぐれじゃ。」

「私も気になっていました。貴方どのギルドでも重用されるスキルがあります。条件としては悪い方だったのでは?」

「言わん。ボンボンから聞け。」

ブランドはデリックの事をボンボンと呼ぶ。

ボンボンは金持ちの息子って意味だけど、ちょっと馬鹿にしたニュアンスが含まれている。

実際のデリックはボンボンと呼ばれる程お金持ちではないし、実力が無いわけでもない。

ブランドがデリックに口答えしたところをみたことがないし、デリックを認めていると思うけどな。

「言いたくないならいいよ。いつか話してくれると思うし。」

「しつこい。どつくぞお前ら。」

「おや、デリック様とエミール王子がいらっしゃいましたよ。」

「ほんとだ。おーい、こっちだよ。」

「逃げんなボケ!」

なんとなくオレ達の距離も縮まってきたように感じる。

これなら今週末の冒険も上手くいきそうだ。



そして週末、オレ達3人は冒険者ギルドを目指して歩いていた。

「今日は何の依頼受けるんだろ。」

「どの依頼が残っとるかによるな。討伐依頼が手っ取り早いが。」

「いきなりの討伐依頼は連携面が不安です。彼らの動きは講義で見たくらいですよ?」

「練習せな上手くならん。ワシらの連携はお粗末もいいところじゃ。」

オレ達はエミール王子の提案でマーナルディのお手製ゴーレムと模擬戦をしたことがある。

そのときは各々が自分の好きに行動したため、ほぼ個人練習にしかなっていなかった。

「実際陣形とかどうすればいいのかな。オレ討伐依頼って受けたことないからわかんないや。」

「以前狼や魔物と戦ったことがあるとお聞きしましたが?」

「どれも討伐依頼じゃなくて、遭遇戦で仕方なくって感じなんだよ。」

「なら討伐依頼の常識から教えんとか・・・。」

「それくらい知ってるよ!オレ、ギルド長の息子だよ?!」

ブランドとマーナルディは顔を見合わせる。

二人共にやりと笑ってオレの肩に手を置いた。

「知らんことは恥じちゃうぞ。知ってるふりが一番悪い。」

「ええ、ゆっくり一つずつ覚えていきましょうね。」

「だから!知ってるから!」

最近は二人に常識ネタでいじられることが多くなった。

早く基礎流行学を合格しないと一生いじられそうな勢いだ。


「ここが冒険者ギルドです。」

「うわ、でっかい。」

イージス町のギルドも立派な建物だったがここのギルドは別格だ。

細部まで装飾が施されており、なんと3階建て。

横の広さもかなりある。

前世の記憶で一番近いのは市役所だろうか。

「はよ入れ。そんなじろじろ見てたら目立つやろが。」

「ごめん、今行くよ。」

ブランドに急かされて建物の中に入る。

「ーーーって中もすごいな。」

外装は豪華絢爛。

対照的に内装はシンプルかつ実用的に整えられていた。

床には誘導の矢印が描かれており初見でも迷わないように工夫されている。

誘導に従って進むと今度はどの依頼が何件、階級ごとの依頼の相場がいくらなど気になる情報が壁に張り出されていた。

「さて、トトイト達もこの辺りにいるのではないでしょうか。」

誘導に従いやっと依頼の受付までたどり着いた・・・のはよかったものの受付前は大渋滞を起こしていた。

イージス町や地元のギルドではあり得ない程の込み具合だ。

これが冒険者学校のある町のギルドか。

「でもこの人だかりじゃトトイト達を見つけられそうにないよ。それに掲示板に辿り着けないと依頼も確認できないや。」

ブランドはまたもにやりと笑ってこちらを見る。

・・・なんだ?またオレだけ知らない仕組みがあるのか?

「ここのギルドは特別混む。全員がそんなことしてたら日が暮れるわ。」

「なので通常はこうやって紙に希望を書いて提出するのですよ。」

そういってマーナルディはどこかからか用紙を持ってくるとスラスラと項目を埋め始めた。

「えと、なにこれ?」

「頼の種別、受注可能日程、報酬額なんかの希望を書いてそこの自動窓口に投函するのですよ。そうすると自動で適切な難易度の依頼を振り分けてくれるのです。」

「なになに・・・オレ達の登録証も合わせて投函するのか。でもこれじゃあトトイト達と一緒に受注できないよ?

「チビ、ここに共同受注って項目がある。これにマル付けて相手の条件に『トトイト一行』って書けばそれでうまくやってくれるわけじゃ。」

「今回は相手が決まっていますが他にも『魔法使い1名』や『銀クラス以上3名』なんて書き方でも調整してくれます。」

「うわ~、便利~。」

思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

どんな天才がこんな仕組みを考えたのだろうか。

「この仕組みを考えたのはフォーマルハウトの卒業生さ。感動するだろう後輩君。」

振り返ると相変わらずの格好をしたハレンがニッコニコで立っていた。

「あ、ハレン先輩。先輩も依頼受けに来たの?」

「そうだとも。研究費が足りなくなってね。ひと稼ぎしようかと思ったら君達を見つけたのさ。」

この流れは一緒に依頼を受けようってところだろうか。

でも今日は都合が悪いな。先約もいるし。

「えと、今日は同じ学年のメンバーと依頼を受けることになってるんだ。」

「あちゃ、そうなのか。折角都合の・・・後輩の手助けをしようと思ったのに。」

都合の良いなんだって?

「おー!スヴェン達!遅いぞ!ちょっと待った!」

「そこはねー。正直に言わなくても良いけどねー。」

でかい声が遠くから聞こえる。

居場所がわかりやすくて助かるな。


トトイト達と合流し部屋の隅で雑談をしながらまっているとアナウンスが流れた。

『パーティリーダ、トトイトで受注の冒険者の皆様。依頼が決定しましたので受け取り口までお越しください。』

「お、決まったみたいだね。私が取りに行ってあげるから待ってなさい後輩達。」

ハレンが上機嫌で受け取り口に赴く。

・・・なにかする気じゃないだろうな。不安だ。

「さっきのお姉さんは何者?!」

「上級生だよ。フォーマルハウトっていう研究室所属なんだ。」

「うわー!学校って色んな・・・人がいるんだね!」

「えらいねー。よく我慢したねー。」

色んな”恰好”をした人と言いたかったんだろうな。

「まあ驚くよね。わかるよ。」

「嫌な話ですが私はもう慣れました。」

獣人族(リカント)基準ならギリ普通じゃ。」」

でもハレンの格好は彼女自身の得意魔法を活かすための戦術的な衣装だ。

同じ魔法使いとしてそれを咎めるのは心が痛む。

「みんな、もどってきた。」

ドリアルがハレンを指さす。

「喜べ後輩達よ。より質の良い依頼に変更して貰えるようにお願いしてきたぞ。」

おい、絶対魔法使っただろ。

そんなんだから敬遠されるんだぞ。

「今回の依頼はこれ、簡単な討伐系依頼で達成条件は素材の回収さ。」

おお、めちゃくちゃな依頼を持ってくるかと思ったが大丈夫だった。

ハレンは大事な所は外さないタイプだよな。

「見せてください。討伐対象は・・・『フューリーホーン』素材指定は『角』。これって魔物じゃないですか!」

いや、信じたのが間違いだったかもしれない。

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