第68話 トトイト一行
入学式後の宴も完全にお開きになり、”一応”宴の主賓だったオレ達も講堂を後にした。
「それでさ!オレが拳をズガーンって打ち込むと、木が生えたゴーレムがバーン!って割れてさ!」
「へー、そうなんだね。」
話を聞く限りトトイトは格闘家らしい。
格闘家とはパンチやキックで相手を攻撃するスタイルで、戦闘の際は体をの内側を魔法で強化して戦う。
戦士、魔法戦士との違いは魔法で強化する部分が体の”内側”か”外側”かという点。
格闘家は体の内側を強化する関係で魔法が成立していないと簡単に怪我をする。
なので格闘家と名乗れる時点でそれなりの実力者であることが分かるのだ。
「ーーーんで!あの時は死んだと思ったよ実際!でもトロールのドリアルが助けてくれてさー!」
「オデは、からだ、げんき、だから。」
トトイトの後ろを遠慮がちについて来る巨漢はトロール族のドリアルだ。
身長は2m以上あり背中に木製の棍棒を携えている。
「しかし驚きです。トロールという種族は会話ができない認識でした。身振り手振りで意思疎通すると聞き及んでいたのですが、噂というのは信用ならないものですね。」
「オデは、ちょっと、べんきょう、できる。族長の息子、だから。」
少し話をしていて分かったのだが、トロール族は族長をトロール、族長の息子をドリアルと呼ぶらしい。
「ーーーそれでさ!最後にメイジェーンの爆弾でドッカーン!って扉をぶっ壊したんだ!」
「もー、トトイトしゃべりすぎだよー。」
メイジェーンと呼ばれた女性は錬金術師のようだ。
「あの扉をぶっとばした?盛りすぎじゃ坊主。」
「盛ってないよ!ドッカーン!で一発だ!」
「はいはいそれで終わりねー。錬金術師は秘密主義って言ったよねー。」
「そうだった!ごめんメイジェーン!」
トトイトの説明をメイジェーンが否定していないから話は本当らしい。
となるとオレの奥の手である空気爆弾よりメイジェーンの爆弾の方が威力が上なのか。
「俺達の話は終わり!今度はスヴェン達の話を聞かせてよ!」
「えと、どう説明しよう。」
「そういえば私達、互いの自己紹介を聞いた事がありませんね。」
「・・・なんでやろうな。」
はは。
それどころじゃない状況が多かったってことにしよう。
「では私から。マーナルディ・オルティカと申します。アイクラフト家に代々仕える鍛冶師の家系です。魔法はあまり使えませんが土系統の魔法には知見があります。戦闘時のポジションは・・・戦士でしょうか。」
「よろしく!武器は何使うの!」
「小型のハンマー、金槌です。」
「珍しい!鍛冶屋っぽいね!」
「オデも、こんぼう。おなじ、よろしく。」
「ええ、よろしくお願いします。」
「覚えやすいのは助かるわねー。」
確かに。マーナルディは見た目も技も統一感があって覚えやすい。
「次は・・・ワシか。ブランド・キースじゃ。狼の獣人族でレンジャーやっとる。」
「魔法は何使うの?!」
「トトイト、獣人族は魔法が得意じゃないのー。」
「あれ?そうだったっけ?!ごめん!」
「坊主、獣人族にはタブーの話題じゃ。覚えとけ。」
「覚えた!」
ブランドは魔力試験に参加していた。
結構目立ってたしメイジェーンもその場に居たと思うけど・・・。
言いたくないなら言わせないって気遣いかな。
「最後はスヴェンだね!」
「えと、スヴェン・ツオイス。隣のチャート領出身で12歳。熱魔法が得意で・・・自分では魔法戦士だと思ってる。」
「へー!体小っちゃいのに前衛なの?!」
「まあ、チビは前衛の方が動きやすいか。」
「独自の戦闘スタイルですからね。表現が難しいです。」
「ちょっと興味あるねー。」
「こども、しんぱい。」
興味を持ってくれている。
折角友達ができそうな雰囲気だしオレは色々隠す必要はないか。
「説明は難しいけど見れば一発でわかるよ。こんな感じで熱を集めてさ・・・えと、ドリアルって熱いの大丈夫?」
「オデは、からだ、げんき。あついの、いける。」
「ドリアルは火罠で燃やされてもピンピンしてたんだよ!」
そうなんだ。トロールってすごいな。
「じゃあオレの体触ってみて。」
「さわる。」
ドリアルがオレの体に触れる。
「ちょっと、あったかい。」
「もっと熱くできるよ。こんな感じで。」
ドリアルはしばらくは平然とした顔つきだったが途中で手を離した。
「あぶない、スヴェン、こども。」
互いにまだまだいけそうだけどオレの事を心配してくれたみたいだ。
「ありがとうドリアル。・・・大体こんな感じだね。」
周囲を見ると皆は居なくなっていた。
あれ?もしかしておいて行かれたの?
「トトイト、メイジェーン。あんぜん。」
ドリアルの声で建物の裏に隠れていた皆が姿を現した。
「スヴェンってすごいな!熱すぎて息できなかったよ!」
「考えんかいボケ!お前ら二人だけちゃうぞ!」
「これはいい熱源だねー。」
ブランドに怒られてしまった。
でも自己紹介は上手くできたようだ。
「自己紹介はこれで全員済みましたね。明日からの講義でもよろしくお願いします。」
「こちらこそ!講義もだけど依頼も一緒に受けない?!今週末3人でギルドに行こうと思ってたんだ!」
今週末か。オレは特に予定はないけど。
ブランドとマーナルディはどうなんだ?
「お誘いありがとうございます。しかしデリック様に一度お伺いしないとですね。」
そうりゃそうか。仕事もあるもんな。
「構わん、行ってこい。」
振り返るとデリックとエミール王子が講堂から出てきたところだった。
「デリック様。どこからお聞きに?」
「週末の誘いを受けたところからだ。」
「私とデリックは週末にテレンシア王女に謁見させて頂くことになった。スヴェン達は休暇になるから都合がいい。」
なるほど。
オレ達は護衛任務が無いから親交を深めて来いと。
・・・それも実質仕事では?
「うわわ!王子様と知り合いなの?!」
「本物だねー。」
「オデ、ドリアル。おうじ、よろしく。」
三者三様の反応で面白い。
「じゃあ許可も出たし、週末はギルドで待ち合わせだね。」
「よーし!皆でアレクより強くなるぞー!」
「修行よりお金の方が大事よねー。」
「オデは、どっちも、だいじ。」
まとまりが有るようで無いようなちょっと変わった3人組だった。
日も暮れてきたのでトトイト達とは別れ、オレ達も帰宅することにした。
「スヴェン、新居の住み心地はどうだ?」
「まだ少ししか住んでないけど、結構気に入ってる。ありがとうデリック。」
「小さいが必要なものは全て周囲にある。恩を着せるようだがあれは人気の物件だ。追い出されることのないようにな。」
「大丈夫、そんなことはしないよ。」
「チビはこの後どうする気じゃ。」
「銭湯に行くよ。お酒の匂いが服に付いちゃったし、洗濯もしようかなって。」
「・・・銭湯、私も行きたいです。」
王子がそわそわし始めた。
まずいか、好奇心を刺激してしまったかもしれない。
「ダメです。王子は屋敷の風呂で我慢してください。」
女性の声?どこからだ?
「・・・ってカリファさん?!いつから?」
「ずっといましたよ。気が付かなかったのですか?」
気が付かなかった。忍者かなんかか?
「デリックからもカリファに言ってください。銭湯くらい皆で行けば大丈夫だって。」
「ダメです。視界が悪いので。」
ガーン、という表情。
王子は相変わらずオンオフの差が激しいな。
「そろそろスヴェンの下宿に着きますね。」
「もう着いたのか。本当に学校に近くて助かるな。」
「明日は午前から戦闘、魔法、冒険者学・・・基礎学科のレクリエーションがありますから遅れないようにしてください。」
「ありがとうマーナルディ。皆もまた明日!」
じゃあね。と別れた後オレは替えの服を持ってウキウキで銭湯に向かう。
洗濯もさせて貰えるしここには毎日通うことになるかもしれない。
「おじさん。今日もよろしくーーー」
ガラリと扉を開けて中を覗くと待合室に服が散乱している。
なんだこれ、何か事件でもあったのか?
そう考えていると風呂場から「ギャー」とか「ワー」とか叫び声が聞こえてきた。
・・・酔っ払いが騒いでいるらしい。
さっきワインとか酒が振舞われたからそのせいか。
「お、坊やか。共有の風呂場は見ての通りお祭り騒ぎだ。」
「出直した方がいいですか?」
「ふーむ。割り増しになるが個人用の風呂場は空いているよ。」
冒険者クオリティに我慢できない人用の風呂があるのか。商売上手だ。
「じゃあ個人用の洗濯場も貸してください。共有場は荒れてそうなので・・・。」
「冒険者に慣れているね坊や。いい読みだ。・・・合計で銀貨1枚だね。」
高いなー。いや両方個人用を借りたらそんなもんか。
「それでお願いします。」
「坊やは常連になりそうだ。まけてはあげないが冷やしたミルクを1本つけよう。」
「どうも、これからもお願いします。」
銭湯と洗濯で銀貨1枚。
自由に暮らすにはお金がいるのか。
家賃もあるしちゃんと稼がないとな。
記念すべき入学1日目は現実を思い知らされるような出来事ばかりだった。
人物紹介
トトイト
格闘家の少年。14歳。
声が大きい。
メイジェーン
気だるげで秘密主義の錬金術師。
16歳くらい。
ドリアル
トロール族。族長の息子。
年齢はよくわからない。身長は2m以上。
トロール族では族長はトロールと呼ぶらしい。覚えやすい。




