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第66話 フォーマルハウトの秘儀

「見たまえ後輩共よ!これが我がフォーマルハウトの研究室だ!」

ハレンのテンションが上がりすぎてマッドサイエンティストみたいになっている。

「うわー、古い書籍がいっぱいありますね。これ全部研究用ですか?」

「そうだとも!古今東西あらゆるジャンルが揃っているよ!」

オレは研究室をざっと見渡す。

机が複数配置されている。ハレン以外にも所属メンバーは居るらしい。

壁際の棚には本と備品がギチギチに詰め込まれているが、種類ごとには整理されているようだ。

備品も髑髏とか蝋燭とか禍々しいものではなく、魔物の爪だったり魔鉱石だったり冒険者からすれば普通の物ばかりだ。

棚を除けば部屋は十分に綺麗だし、デリックから聞いた話よりかなりまともそうな雰囲気がする。

「人を招く最低限度の部屋で安心しました。」

「メガネ君自重しないね。そろそろお仕置きしようか?」

「ハレン嬢、勘弁してくれ。」

「あ!この本見たことあります!儀式魔法は私も詳しいんですよ!」

「わー!触っちゃダメ王子!それは呪いの本!」

「なぜそんなものが平然と置かれているのですか?!やっぱりこの女は危険です!」

「収集がつかん!王子は私の傍から離れないでください!マーナルディは外の警戒に出ろ!」

・・・まともな部屋ではなかったかもしれない。

そして頑張れデリック。

「研究室だから危ないものもあるよね。」

一応フォローを入れておく。

「はいはい悪かった。先に触っちゃダメな棚だけ言うからさ。」


バタバタが落ち着いてハレンがお茶を汲みに外に出た。

その間王子が不意に動かない様にデリックが見張る。

うーん、なんだか王子のイメージが違うな。

一緒に試験受けたときは高貴な印象だったけど・・・今はもっと幼く感じる。

カッコいいというよりキュートだ。これが素なのだろうか。

「おいチビ、面貸せ。」

ブランドからの呼び出しだ。

オレはブランドに続いて部屋を出る。

「おいチビ、この部屋くっさいわ。あの女の臭いの元はここじゃ。」

ハレンから感じる魔法のことか。

オレはハレンから何も感じないんだよなー。

「あの女が居らんうちにはよやれ。」

熱魔法で部屋を隅々まで調べろってことか。

「でもオレの魔法に何が反応するかわからないよ。ブランドがあたりつけてくれないと怖すぎる。間違って呪いの本でも触ったら嫌だし。」

「・・・まあそうか。ならワシは外居るから後はどうにかせい。中じゃ鼻が利かん。」

「そっか、なら仕方ないね。」

「では外は私達が見張るので中はよろしくお願いしますね。」

「ああ、うん。任せてよ。」

マーナルディ、君はそれでいいのか?

いいのか、鍛冶師だし。


ハレンが部屋に戻った後、王子の好奇心が再び爆発しハレンを質問攻めにしていた。

ハレンも嬉しそうに答えているのでオレとデリックはしばらく二人を見守ることにした。


「王子はデリックの屋敷から学校に通うの?」

「そうだ。我々が常に傍にいて護衛する。」

「オレは屋敷まで迎えにいくのかな。」

「その必要はない。私が声を掛けるまで自由行動だスヴェン。」

「わかった。あと授業中とかはどうなるの?」

「私と王子は全て同じ科目を選ぶ。それにカリファもいるから気にしなくていい。」

じゃあ王子の傍には2人が張り付いているのか。

それなら安心かな。

「そういえばカリファさんはどこ行ったの?」

「カリファは屋敷を守ってくれている。本当に全員が外出する訳にはいかないからな。」

「ふーん、そうなんだ。」

「気になることはあるだろうが後日だ。今はお前の用事を済ませる時だからな。」

それはそうだった。

あまり時間をかけると日を跨いでしまう。

「ねえハレン先輩。研究の協力にオレが呼ばれたんですよね?」

ハレンはハッとして何かを見る。

視線を追うとそこには時計?があった。

「もう時間になっちゃう。後輩君、急いでそこ立って!」

ハレンは部屋の片隅に描かれた魔法陣を指さす。

「これから何が始まるのですか?ハレンさん!」

「それはだねー王子。私の研究に関連する重大なーーー」

「ハレン嬢、時間が無いのでは?」

「ああ、そうだった。後輩君もうちょっと右だね。立ち位置書いてあるから。」

「えと、このマルですか?」

「そうそう。そのままじっとしててね。」

オレが指定された場所に立つと魔法陣が淡く光りはじめた。

なんだかそわそわする。

色々な角度からまじまじと観察されているような感覚だ。

「時間だね。」

部屋中から鐘の音が鳴り響く。

ハレンは魔法陣の端に手を置き詠唱を始めた。

『これは干渉に非ず。我は未知への飽くなき探求者。フォーマルハウトの名の下にハレン・リオビアードが知識の扉を叩く。』

魔法陣の端に炎が灯る。

その炎は・・・魚だろうか。

炎の魚がユラユラと魔法陣の中を揺らめいている。

『我は契約の子細をのみを望む。』

あれ?なんだか・・・痛たたたたた!!!

首筋が痛い!

『英知の魚よ。どうかここに至れ。』

ハレンは特大サイズの羊皮紙を広げる。

そこに一匹の魚が呼び寄せられ羊皮紙を鼻でつついた。

一瞬、羊皮紙が燃え上がったかと思うとすぐに炎は消えた。

『貴方の慈悲に海より深い感謝を。』

その言葉で魚達はゆっくりと燃え尽き、部屋には静寂が残された。


「はいお疲れー。後輩君はもう帰ってもいいよ。」

「ハレン先輩。それじゃ納得いかない。」

「えー?さっきのはフォーマルハウトに伝わる知識探求の魔法だよ。」

「それでそれで?もっと教えてください!」

エミール王子は大興奮だ。

「王子ったら仕方ないなー。今のは契約解析の儀式魔法で、契約そのものには一切干渉せずに契約の内容だけ知ることができるのさ。」

「ではその羊皮紙には契約の詳細が記されているのですね!」

「そうだよー。王子は賢いねー。」

オレはチクチクと痛む首筋を抑えながら皆のところへ戻る。

「あの、首筋痛かったんだけど・・・大丈夫だよね?」

「そうだったの?じゃあちょっと抵抗されたのかな?よかった、失敗しなくて。」

「失敗したらどうなってたの?」

「そりゃあねぇ。大丈夫、その時は私も一緒だ後輩君。」

ハレンは軽く笑う。

冗談じゃないが?

「ハレン嬢、王子の前で危険なことはやめて頂きたい。」

「大丈夫だよ。魔法の反動は当事者にしかないから。」

大丈夫じゃないが?

「ハレンさん!私にも契約の内容を見せてください!」

「ああ、それは無理。」

終始笑顔だったハレンがスッと真顔になる。

「さっきの儀式も契約だからね。中身を見れるのは私だけさ。」

「えー、私も見たかったです。」

「王子もフォーマルハウトに入ればできるようになるよ。」

「魅力的です。どうでしょうかデリック。」

「王子、他の研究室も見学してから決めましょう。それからでも遅くありません。」

その後しばらくハレンと王子の会話が弾み、護衛組は眠い中待たされることになった。

日を跨いだかという頃にデリックが痺れを切らし、今日の集まりは解散となった。


オレは一人新たな下宿先に戻り、ごろりとベットに転がった。

「今日は色々あったな。ハレンへの借りはこれで返したし、明日はゆっくりできそうだ。」

明日はどこへ行こうかと思いを馳せる時間もなく、オレは眠りに落ちていた。

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