第64話 お部屋探し
「合格おめでとう後輩君!」
「ありがとうございます。ハレン先輩。」
「ふふ、悪くない響きだ。」
祝いの言葉もそこそこにオレはハレンに連れられて街に繰り出していた。
「入学式まで時間がないからね。必要なものをササっと揃えようか。」
「えと、入学式が明後日で。買わなきゃいけないのが・・・あれとこれと、後あそこの店のと。」
「落ち着いて後輩君。こういうのは順序があるのさ。」
ハレンはオレからリストを取り上げるとざっと眺める。
「一番最初に選ぶべきものはこのリストには載っていないね。」
「え、メモし忘れちゃったかな?」
「チッチッチ。言われたことだけでなくもっと大局的に物事を見ないとね。」
・・・なんだかハレンのテンションが高い。ちょっと鬱陶しい。
「一番大事なものとは?」
これでくだらないものだったらどうしてやろうか。
「それはだね。ズバリ宿さ。」
朝から昼まで街中の宿、貸家を探したが優良物件は既に契約済みとなっていた。
このままでは埒が明かない。
歩き疲れたオレ達は喫茶店で作戦会議を開くことにした。
「困った。選ぼうにもそもそも部屋が空いてない。」
「良い部屋はすぐに埋まっちゃうからね。スピード勝負なんだ。」
ハレンも少し困った様子だ。
「例年はこのタイミングでも十分部屋が選べたんだけど。受験者が増えたせいかな。」
「そうなんですね。」
「今年は去年の1.5倍くらいかな。基礎試験だけ受けるって子も多かったらしいね。」
ハレンはなんだかんだ情報通だ。
「最終手段として旅人向けの宿の一室を借り続けるって方法はあるけど。これだと騒がしいし休んだ気にならないんだよね。盗難の可能性もあるし。」
「ぐっすり寝れないのは嫌だな。」
「だよねー。後は学校から遠いところで探すか、頑張って高い部屋借りるか。後輩君はどっちがマシかな?」
うぐぐ。正直どっちも嫌だ。
部屋が遠いと通うのが億劫になりそう。
でも自分で部屋代を稼ぐことを考えると値段が高い部屋は現実的じゃない。
「選べないって顔だね。それならコネでどうにかねじ込んでもらうしかないかも。」
コネかー。
思いつくのは一つしかない。
「デリックにお願いしようかな。」
「あれ?聞いたことある名前だな。その子は新入生?」
「うん。デリック・アイクラフト。」
「辺境伯のアイクラフトか。いいね、悪くないコネだ。」
ハレンはオレのカバンからこの街の地図を取り出すと机の上に広げた。
「アイクラフトの屋敷はここ。早速行こうか。」
街の中心近くの商店街から離れて職人が集う区画へと足を進めた。
色鮮やかで活気のある街並みは段々と機能美と実用性を追求した職人の街に姿を変える。
「すごいな。同じ街とは思えない。」
「でしょ。私はこの無駄を捨てた洗練された街も好き。」
店が立ち並んでいるのに客引きが一切いない。
その代わりと言わんばかりに看板がずっしりと構えられている。
剣専門店、槍専門店、弓専門店、革鎧専門店、指輪専門店・・・。
どこもかしこも専門店ばかりだ。
「ここの悪い所は装備一式揃えようとすると何件も梯子しないといけないことだね。」
「確かにお客はベテラン冒険者ばかりだ。」
ちらほら見かける冒険者は皆、年季の入った武器・防具を携えて真剣な顔つきで店主と話をしている。
「そしてこの区画をまとめるのがアイクラフト家。さあ着いたよ。」
チャート様の屋敷と比べると決して大きくはない。
けれど外装は美しく庭は端正に整えられている。
「おー。きれいな屋敷だ。」
門の前には石像が2体鎮座している。
近づくと石像がこちらを向き槍で道を封じる。
「許可のないものは帰れ。」
「えと、スヴェンです。デリックさんに会いに来ました。」
「スヴェン。・・・しばし待て。」
ハレンと小話をしているとガチャリと屋敷のとびらが開いた。
「そろそろ来ると思っていましたよスヴェン。」
現れたのはマーナルディだった。
「突然ごめんね。実は下宿の事で相談があって・・・。」
「もうどこも埋まってしまったのでしょう?大丈夫ですよ。」
マーナルディの合図で石像は正面に向き直る。
「デリック様がお待ちです。どうぞ中へ。」
「ありがとう!おじゃまします!」
「じゃあ私も~。」
オレが門をくぐったの見てハレンも続く。
・・・が門が小さく爆発しハレンは尻もちをついた。
「危な!殺す気か!」
「スヴェン。お連れの女性とはどのような関係で?」
「先輩のハレンだよ。こっちに来た日に出会って、そこから色々街や学校のことを教えて貰ってる。」
「ほう。恩人とあれば招くのもやぶさかではないのですが・・・。服装が相応しくありませんね。」
ハレンは今日も肌の露出の多い大胆な恰好をしている。
これで貴族の屋敷に出入りすると変な噂が立ちそうではある。
「可愛くない奴だな!まず謝れよ!」
「ハレン、別の服持ってないの?」
「着の身着のままよ。はぁ、アイクラフト家は小さいところにこだわるのね。」
「貴方その格好だと痴女と間違われませんか?」
「わー!待ってマーナルディ!先輩だよ?オレ達の先輩!」
「ですが・・・。」
「おら!かかってこいよメガネ君。」
ハレンも安い挑発をする。
どいつもこいつも血の気が多すぎる。
これが冒険者か。
「やめんか馬鹿者共が!」
屋敷の奥から怒声が鳴り響く。
「屋敷の前で争い事など家の品位を問われる行為だ。」
「申し訳ございませんデリック様。」
「お前も上手くやれスヴェン。」
やったんだけどなー。
「ご客人、家の者が失礼した。今日は人気の菓子を取り寄せたところなのだ。詫びと言ってなんだが如何かな。」
「甲冑君は話がわかるねー。じゃあお言葉に甘えて。」
ハレンはケロリとした表情で門をくぐる。
もしかしてさっきのは演技か?
わざと騒ぎを起こしたんじゃないだろうな。
「改めて。私がデリック・アイクラフトだ。こちらは部下のマーナルディ。」
「先程は失礼しました。私はマーナルディ・オルティカ。アイクラフト家専属の鍛冶師です。」
「はいはい、私はハレン。よろしくね後輩達。」
ハレンは適当に自己紹介を返すと早速話を切り出した。
「要件はスヴェンの下宿についてなんだけど。アイクラフト家なら融通できるんでしょ?」
「勿論だ。既に候補は絞っている。」
「ほらほら、私が選んであげるから出してみ。」
「デリック様は辺境伯を継ぐお方です。失礼のないように。」
やばい。マーナルディのイライラゲージが溜まってきた。
「わかったよメガネ君。」
「えと、オレどんな部屋があるか楽しみだなー。早く選びたいなー。」
「そうでした。すぐに持って参ります。」
マーナルディは立ち上がると後ろに引っ込んだ。
「メガネ君はあれだな。女の子にモテなさそうだね。」
「ハレン嬢。うちの部下で遊ぶのはやめて頂きたい。」
「そうだよ。大変なのはこっちなんだから。」
「からかいがいがあるとどうしてもね。」
悪びれないなハレンは。
「まあいい。話は変わるがハレン嬢はなぜスヴェンの世話を?」
「スヴェンが研究対象になりそうなんだ。些細なことはさっさと解決して自由になって欲しいの。」
デリックは兜の下で思案しているようだ。
「その研究内容について伺っても?」
「言いたくないな。」
「すまないが話して貰えないと貴方を帰すことができない。」
「どうしても?」
「どうしてもだ。」
あーあ。と小さく呟く。
「私の所属がフォーマルハウト。専門が精神魔法学って言えばわかるかな。」
それを聞いてデリックがビクリと体を震わせる。
「スヴェン!お前なんて奴を連れてきた!」
「え?」
「ほらこうなる!」
「武具創造!盾!」
デリックは盾を作り顔の前に構える。
「なんもしないってばー。」
「デリック様!いかがしましたか!」
奥から書類の束を抱えたマーナルディが走ってきた。
うわ!まずいまずい!
「貴様!デリック様に何をした!」
マーナルディが金槌を振り周囲の銅像を叩く。
すると銅像に命が宿りハレンを捕まえようと迫った。
「待って!攻撃する必要はないだろ!」
なんだってこんなことに。
オレがマーナルディを宥めようとして席を立つ。
「・・・うるさいよ君達。魅了。」
背中の方でトロリと熱い感覚がする。
「ハレン!」
熱が弾けて部屋中に広がる。
「・・・。」
マーナルディは時が止まったように固まると急に脱力して床に崩れ落ちる。
「・・・くそ。」
デリックは両膝をついたが盾で体を支えて持ちこたえていた。
「やるね甲冑君。その盾のおかげかな。」
ハレンの魅了が炸裂しデリックもマーナルディも行動不能になってしまった。
「どうするんだよハレン先輩。またオレがあれこれしないと・・・はぁ。」
「やっぱり後輩君には効かないのか。自信なくなっちゃうね。」
「とにかく魅了解いて。このままだとまずいよ。」
「はいはい、後任せたよ。」
ハレンが魅了を解くと二人は床からゆっくりと立ち上がった。
「スヴェンには魅了が効かないのか。」
「私の全力でもダメだったんだ。それに後輩君は魅了を感知できる。だから君達が思っているようなことはない。安心していいよ。」
「それは失礼した。動揺して不適切な対応を取った。」
「いいよ。そういうのは慣れっこだ。」
オレには効かないから気が付かなかったけど、ハレンの魅了は一般的な魅了と少し違うようだ。
先生の説明ではあらゆる動作をより魅力的に見せる魔法で、どちらかと言えば技術に近いものだったはずだ。
「私のは一工夫も二工夫もしているからね。専門家を舐めちゃだめだよ。」
オレの表情が読まれたらしい。
「部屋選びの前にはっきりさせたいんだけどさ。ハレン先輩のどこがまずかったの?」
ハレンは無視して部屋のカタログを読み漁っている。
答える気はない様だ。
「フォーマルハウトとは所属する研究室の名前だ。彼女らは未知の魔法への探求を史上としている。」
「そうなんですね。難しそう。」
「そして精神魔法学は・・・言葉を選ばず言えば貴族間で嫌われている。理由は察せられるな。」
なるほどな。ハレン程精神魔法を使える相手が傍にいると自分の行動が自らの意思か、操られているのか判断がつかない。
他人が判別つけようにもその人も操られていたら終わりだ。
さらに未知の魔法への探求とかいう怪しさMAXな研究。
不安要素がてんこ盛りなわけだ。
「そういうこと。最近は教授陣しかまともに会話してくれないんだよね。なんにもしないってのに。」
「そう言って他の生徒に使ってない?」
「・・・いや?」
絶対使ってるなこいつ。
ハレンが情報通な理由が分かった気がする。
「そんなことよりスヴェンの部屋探し!これとか良さそうだよ。」
入学前から色んな事がありすぎて疲れてしまいそうだ。




