第63話 勇者になる方法
デリックは近くの椅子に腰かけて兜を机の上に置いた。
ゴンという重厚感溢れる音が鳴り、彼が身に着ける甲冑の重さを感じさせる。
「簡単な話、私とスヴェンは親戚だ。」
「えと、そうなんですね。」
なんだなんだ。
アレク君みたいにオレも実は貴族でしたってことか?
「アイクラフト家は歴史のある家だが裕福ではない。嫡子のみがアイクラフトを名乗り、庶子はどこかで家名を変えるのだ。」
残念。オレは貴族じゃないってことね。
「なんだか大変ですね。」
「そうやってアイクラフト家の縁者を増やしレイヴン領での影響力を強めてきた。」
「あの、話は分かったんですけど・・・これって重々しくする話ですか?」
血筋がどうとか家系がどうとか、村出身のオレからすれば関係のない話だ。
デリックには良くしておこうくらいの重要度だし、デリックも何かを頼みやすい相手ぐらいのものだろう。
今日の試験は実際そうだった訳だし。
「普段ならな。私だって数ある親戚の内スヴェンだけを特別扱いはしない。だが今回は事情が違う。」
「事情?」
「タナトリス王国第9王子、または継承権第14位エミール・ポニカ・タナトリス。我々は彼の安全を保障しなければならない。」
ポニカ?それってチャート領で暮らしているポニカ族と同じか?
「ポニカ族は知っているなスヴェン。」
「はい、うちの村と交流があります。蜂蜜とか魚とかを小麦と交換したり、開拓計画の相談もしています。」
「そうか、ヨシサダさんは上手くやっているのだな。」
デリックは安堵した様子だった。
「私達アイクラフト家はポニカ族に大きな恩がある。彼らは私達に”とある技”を教えてくれた。」
デリックは机に置いた兜を再び手に取る。
「武具造形、槍。」
詠唱と共に兜が槍へと形を変える。
パパと同じ魔法だ。パパは土くれから作っていたけど。
「槍は敵を穿つ。」
目にも止まらない速度て突きが放たれる。
その威力は風圧で病室のカーテンがめくれ上がる程だ。
「それ、オレのパ・・・お父様が使っていた魔法です。」
「細部は異なるがな。ヨシサダさんの魔法の方がよりポニカ族の伝承に近い。」
デリックは槍を握り直し再び詠唱を行う。
「武具造形、兜。」
すると槍は元の兜に戻った。
「これは儀式系統に分類される魔法だ。詠唱に対して定められた結果をもたらすポニカ族の秘儀。」
「すごい魔法ですね。冒険者からも人気がでそうだ。」
でもパパ以外の人がこの魔法を使っているのを見たことがない。
こんなに便利そうな魔法なのに。
「儀式魔法には常に制限がある。武具造形の魔法の制限は”ポニカ族かその友人”であることだ。我々アイクラフト家はポニカ族の友人としてこの魔法を使わせて貰っている。」
要するに魔法を使わせてもらう代わりにポニカ族が困っていたら助ける。
そういう関係性なんだろう。
「となるとエミール王子はポニカ族なんですか?」
「ああ、ポニカ族の姫が現タナトリス王に嫁いでいる。」
デリックがエミール王子を守らないといけない理由は分かった。
でも”何から”エミール王子を守らないとダメなのかはまだわからないな。
「少し喉が渇いた。スヴェンも元気なら飲むといい。」
デリックは懐から小瓶を取り出した。
それを病室の水差しに加え、コップに注いでくれた。
「おいしいです。」
ライムの香りがする。
屋台で貰ったやつと同じだ。
「変わらず良い香りだ。」
デリックはグイっとライム水を飲み干しこちらに向き直る。
「ここからは政治の話になる。」
・・・そんなにスケールの大きい話なんですか?
「嫌そうな顔をするな。お前の夢にも関わる話だ。」
どうやら顔に出ていたらしい。
「お父様ならともかくオレはただの村人なんですが・・・。」
「まあ聞け、お前は”勇者”を目指しているらしいな。」
「はい、そうですけど。」
「民衆が何を持って”勇者”と呼ぶかはわからんが、一応”勇者”の規定は国で定められている。」
「え!そうなんですか!」
「規定ではこうなっている。『”勇者”は国への多大な貢献をした者に対し、"王"あるいは”直系の子息”がその成果を認め個人への最大の恩賞として贈る栄誉とする。』」
「えと、つまり王様か王子様の誰かに認められないと”勇者”って名乗れないってことですか?」
「そういうことだ。あと王女様でも良い。」
このままだとオレは”自称勇者”になるのか。
いや自分から『オレ勇者なんだけどー!』なんて言うつもりは無かったけどさ。
「エミール王子を助け、成果を認めてもらえれば正式に”勇者”に成れる。だから政治の話も聞け。」
うーん。それならしょうがないかー。
「わかりました。話してください。」
オレはしぶしぶ了承する。
「タナトリス王国は国政が安定した国だ。タナトリス統一以前は内乱や紛争は日常だったらしい。」
「へー。そうなんですね。」
そういえば歴史の授業はタナトリス王国統一から始まっていた。
それ以前の話は聞いたことがない。
「これは貴族のみが学ぶ歴史だ。庶民は知らなくても良いからな。」
「なるほど?」
「大事な事はタナトリス統一以降、一度も内乱が起きたことがないということだ。」
「はい。すごいことですね。」
「だが歴史上一度だけ大騒動が起きたことがある。それが約100年前の二代目勇者誕生の時だ。」
英雄譚の第2章の主人公、『無敗の勇者』シルバー。
聖剣を使い魔族を蹴散らし、ついには魔王を倒した実在する人物。
その強さは初代勇者のストリトを凌ぐと言われている。
・・・オレが目指しているのはそれ以外の”勇者達”なんだけどね。
「二代目勇者は予言によってその存在が示された。内容はこうだ『聖剣を携えし青年が魔王を打ち倒し人の世に安寧を齎す。15となりしその者は満月の夜に旅立つ。』」
「ん?なんでそれで騒動が?」
「おとぎ話ともされている初代勇者の伝承が現代にまで影響を及ぼしている。それならば二代目勇者にも同じくらいの力がある。そう考えた俗物も多かったのだ。」
「二代目の取り合いがあったのですか?」
「その通りだスヴェン。各領主が領内の15歳の青少年をこぞって魔王討伐に向かわせた。・・・結果は悲惨なものだったと聞く。」
訓練をしていなければ人は森の狼にだって負ける。
多くは魔族領にたどり着く以前に亡くなったのだろう。
「当時の王は激怒しすぐに止めさせた。だが国としては予言の勇者を埋もれさせる訳にはいかない。それで王はひどく悩んだそうだ。」
「難しい問題ですね。」
「王は結局自らの子供達に国の命運を委ねた。『わが愛する子供達よ。お前達がそれぞれ”勇者”を一人選び魔王討伐に旅立たせよ。』・・・結果二代目勇者は魔王を討伐し、彼を選んだ王子は次の国王になった。それが二代前の国王、現国王の祖父だ。」
「そんな話があったなんて驚きです。でも今は魔王なんていないですし、あんまり関係なさそうですけど。」
デリックは改めて周囲の確認するとオレの耳元で小さくつぶやく。
「予言があったのだ。次代の勇者についての。」
予言?っていうことは魔王が復活したってこと?!
いやいや別の魔法が生まれたのかも?!
大変なことになった。戦争が始まるかもしれない!
「それでまーーーー」
「スヴェン!ライム水を気に入ったか!私もこれが好きなんだ!」
デリックはオレの口を抑えるとライム水を無理やり流し込んだ。
「ごほっ!あー美味しいなー!・・・えほっ!」
危ない。うっかりで機密事項を叫ぶところだった。
「話をまとめると王子、王女は次の勇者を自分が選べば次の国王に成れると思っている。」
「けほっ、なんとなくわかりました。」
「だが安心しろ。エミール王子は王権争いについては消極的だ。すでに辞退の申告も済ませている。」
「でも命を狙われているんですよね?」
「他の王子、王女は理解を示しているがその取り巻きは功績を焦って突飛な行動に走ることもある。故にここまで逃げてきたのだ、アイクラフト家の庇護を受けるために。」
デリックの言いたいことは分かった。
たまたま同時期に入学してきた親族のオレに仕事の手伝いをしろということだ。
困っているみたいだし協力を断るつもりはない。
けどこれは聞いておかないと。
「あの、それってオレを”勇者”って認めたらエミール王子はまた政権争いに巻き込まれるんじゃ?」
「・・・それはお前次第だスヴェン。誰もが認める功績があればお前を勇者に認めることも不自然ではない。」
デリックは兜をかぶり直してから答えた。
この野郎、詐欺じゃねーか!
「・・・他に王子様の宛てなんてないし、できる範囲で頑張ります。」
「頼りにしているぞスヴェン。」
早くも学校生活が窮屈になりそうな未来が見えてきた。
単語紹介
レイヴン家
侯爵。レイヴン領領主。
冒険者学校の理事でもある。
アイクラフト家
レイヴン家に仕える辺境伯の家系。
爵位はあるけれど領土はない。
過去ポニカ族と親交を結び、武具造形を相伝の魔法とした。
オレの父方の親戚にあたる。




