第62話 奥の手
「二人共、少し離れてて。」
奥の手に使うのは熱魔法と風魔法。
目標はこの扉をぶっ壊すことだ。
オレは左手に集めていた熱を一度全身に戻し、風魔法を準備する。
そして扉に風を送り一番深く亀裂が入っている部分を確かめた。
「・・・あった。ここが一番深い。」
マーナルディのおかけでかなり深くまで亀裂が入っている。
その亀裂に限界まで空気を圧縮した突風を送り込む。
「爆弾は良し、次は着火の準備だ。」
今にも弾けてしまいそうな風爆弾を慎重に亀裂の奥まで押し込んだ後、オレは右手を亀裂の上に添えた。
「息止めて、耳を塞いで!」
二人が反応したのを確認して、意識を右手に戻す。
左手から全身に移した熱を今度は右手に集める。
熱い。この2年間で忘れてしまった感覚だ。
「爆弾良し、着火良し。行くぞ!!!」
オレは右手の熱を亀裂に向かって一気に打ち込む。
それと同時に左手の突風を開放した。
爆発、そして轟音。
金属の扉がその衝撃で跳び跳ね、部屋全体が揺れる。
オレは亀裂から逆噴射した風に吹き飛ばされた。
「チビ!」
空中を舞いながら薄れる意識で扉を見る。
厚い金属は完全に割れていた。
「よかった。成功した。」
オレは床に激突し、そのまま意識を失った。
『△△君って大変だね。クラス委員の代表だなんて。』
『そんなことないよ。あんまりやることないし。○○君だって誰もやりたがらない放送委員やってくれてるから。』
『オレはさ、委員決めが終わらないのが嫌なんだ。遊べなくなるし。』
前世の夢だ。
毎日見ている夢。でもこんなにはっきりと意識があるのは久々だ。
『それに△△君がクラス委員やってくれないと地獄のジャンケン大会が始まるところだったよ。』
『でも僕が居なかったら○○君がクラス委員やってくれたでしょ?』
『・・・わかんない。誰もやらなかったらそうだったかも。』
人生で一番面倒な行事。それが委員決めだ。
圧倒的不人気の委員を誰に押し付けるか、いかに目立たないか、という限りなく不毛な争いをさせられる。
そんなことを毎年やらされてきたが、オレはこの時間が大嫌いだった。
それをどうにか早く終わらせるために一昨年や去年はオレがクラス委員になって、他の不人気委員はジャンケンで決めさせていた。
でも今年は△△君と同じクラスになったことでオレがクラス委員をやらずにすみ、不人気の放送委員を埋めることで過去一番早く決着がついた。
『○○君は僕達が損してるって思う?』
『それはそうだよ。オレ達は好きな委員選べないし。』
『そうだね。・・・でもさ僕達○○君が貸してくれた本の『勇者』みたいじゃない?』
『え?どこが?』
『僕達は”外で遊びたい”とか”時間を無駄にしたくない”とか、自分勝手な理由で損な役を引き受けてるだけ。でも他の人は僕達が居てよかったって思ってる。』
『まあ、そうだろうね。』
『好きなように動いて、周りからは勝手に感謝される。これって本の”勇者”と同じだよ。』
『えー?それはどうだろう。』
『そう思った方が気持ちが良くない?』
『うーん。じゃあオレ達は”クラスの勇者”?』
『そうだよ。”クラスの勇者”だ。』
・・・恥ずかしい思い出だ。
誰もやらない委員を引き受けたぐらいで”勇者”になんてならないだろうに。
「スヴェン君。目が覚めたんだね。」
聞き覚えのある声。そして前もこんなことがあった気がする。
「・・・アレク君。オレまだ目を開けてなかったよね。」
「わかるさ。ずっと同じ部屋だったからね。」
オレは辺りを見渡す。
知らない部屋だ。少なくともオレが借りた宿じゃない。
「ここは救護室さ。担当医は今席を外しているね。」
「ありがとう。・・・それで色々聞きたいことがあるんだけど。」
「なんでも答えるよ。」
「ブランドとマーナルディは?」
「二人共無事だね。酸欠で具合が悪そうだったけど命に別状はないらしい。」
それはよかった。
あの後意識のないオレを担いで脱出してくれたようだ。
「えと、エミール王子は?」
「王子も無事だよ。スヴェン君達のおかげでね。」
「そっか。・・・それで試験はどうなったの?」
「続行したよ。本来のダンジョンでね。」
「え?中止じゃないの?」
「試験は中止できなかったのさ、日程的にも体裁的にもね。」
エミール王子が襲われました。実は学校側は気が付きませんでした。
ということにはしたくなかったのか。
「偽ダンジョンはオレ達がクリアしたから消えたのかな。」
「そうだね。残りの31ルートは教授達と数名の受験者で踏破した。それで偽ダンジョンは完全に消え去ったよ。」
「ボス部屋って32個あったの?」
「偽ダンジョンはそういう仕組みだった。性格の悪いことにね。」
「あれ?他のグループはどうだったの?」
「皆最初の方で救助を待っていた。だから誰も死んだりしていないよ。」
”試験を受けている”という認識で”救助を待つ”判断ができるのは流石は冒険者の卵だ。
「よかった。・・・えと、それでその。」
「スヴェン君達は文句なしの合格さ。偽ダンジョンに入った他のグループも合格になったよ。」
「そっか。・・・合格かー!」
高揚感が全身を駆け巡る。
合格。この二文字のためにずっと頑張ってきた。
こんなにうれしいことはない。
「明日が入学式になるから今日はゆっくり休んでいて。また迎えに来るよ。」
アレク君はそう言い残して部屋を出て行った。
しばらくぼんやりしていると扉がノックする音が聞こえた。
「スヴェン。起きているか。」
「あ、はい。起きてます。」
ガチャリと音がして人がぞろぞろと入ってくる。
「元気そうで何よりだ。」
デリックは相変わらず甲冑姿だった。
「チビ、お前重症だったはずじゃ。なんで起き上がれる?」
「無理しないでください。心臓に悪いです。」
後ろから入ってきたのはブランドとマーナルディ。
二人共まだ顔色が悪い。無理をしてきてくれたのだろう。
「二人も辛そうだよ。ここまだベッド空いてるし休ませて貰ったら?」
「アホか!お前手足がぐちゃぐちゃに・・・。どんな魔法やったらここまで元気になる?」
「それは、話すと長くなるんだけど・・・。」
オレはレイン様から貰った外套の説明をして、ついでに魔法が無制限に使える理由も納得して貰った。
「伝説級の装備ですか。是非今度見せてほしいですね。」
「いいけど、見た目はただの布だよ?」
「組成が気になります。伝説級の装備は希少な素材で作成されることが多くーーー」
「マーナルディ、その話は後日だ。」
デリックが話を遮る。
「デリック様、申し訳ございません。」
マーナルディは頭を下げてデリックの後ろに控えた。
ブランドはまだ何か言いたげだったが我慢したようだ。
「二人共、席を外してくれ。」
デリックが指示すると二人は頷いて退室した。
なんだなんだ。何があるんだ?
「スヴェン。大事な話がある。」
デリックが甲冑の兜を外す。
キリリとして聡明な印象を受ける顔立ち。
それになんだかどこかで見たことがあるような気がする。
「私とスヴェンの関係。それとエミール王子についてだ。」
これまた面倒な話の予感がする。
オレの勘は当たるんだ。こういう時だけ。




