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第60話 最深部目前

「氷罠はオレが全部溶かすよ。」

「ならワシが雷罠をつぶす。」

「できるなら強硬突破が一番ですね。」


2つ目の分かれ道、地底湖の氷罠と雷罠を力技で解除した後に俺達は一度休憩を取ることにした。

タイムアタックだ!と意気込んだものの準備は十分にしないとオレ達の命に関わる。

「チビ、もっと熱くじゃ。」

「えと、こう?」

「うわっ!熱すぎます!もうちょっと抑えて!」

「あーごめん。これくらいかな?」

地底湖をわたるときに装備品が一式濡れてしまったので、オレがドライヤー替わりになって乾かしている。

だけど他人を温めるのって結構難しい。

微調整を繰り返してやっと適切な温度を見つけられた。

「チビ、お前なかなか便利じゃ。・・・ワシも熱魔法練習するか。」

「熱魔法は一般的なのですか?私が魔法に詳しくないだけかもしれませんが、普通は火魔法を習得を目指すと思っていました。」

「そのとおりじゃ。熱魔法は非効率の極みと言われとる。」

「熱魔法で頑張って温めるより、火魔法を火種に焚火する方が圧倒的に効率がいいもんね。」

「それならなぜスヴェンさんは熱魔法を?」

「えと、オレの熱魔法は練習したわけじゃなくて必要に迫られて使えるようになったというか。」

どこから話そうか。まずは狼に襲われたところからかな。

「ワシも気になるがその話は後じゃ。ボチボチ服も乾いた。」

「そうだね。急がないとだね。」

「では先程と変わらずブランドを先頭に私達が続く陣形を維持しましょう。」

この即席パーティも段々息が合ってきた。

これなら最深部まで問題なく進めそうだ。


3度目、4度目と分かれ道とその先の罠を解除して進み、オレ達はついに5つ目の分かれ道までたどり着いた。

「また分かれ道だね。ブランド、罠の種類はどう?」

「左は油の臭いが濃い。右は酸い臭い・・・酸系の罠じゃ。」

「左は火罠でしょうね。なら左の道を行きましょう。スヴェン、お任せします。」

ここまでの冒険でパーティの役割がはっきりとしてきた。

ブランドが斥候として敵と罠の有無を確認。

必要であればオレが魔法探知。

マーナルディが情報をまとめて判断。

なかなか悪くない。

「任せて。オレは熱に強いからね。」

「これで5つ目の分かれ道じゃ。長い、時間がない。」

「例年の試験では問題数は5つでした。これで最後なら良いのですが。」

「急ごう。早く地上に出ないと。」

体感で鐘が2回鳴るくらいダンジョンに潜っているだろうか。

そろそろ猶予もなくなってきた。


左の道を少し歩くと鉄製の扉が現れた。

「きっついわ。何の油じゃ、これ。」

「ここまで来たらオレでもわかるね。」

「では先程話した作戦通りにお願いします。扉を開けたらスヴェンが侵入。扉はすぐに閉じます。想定通り火罠、火魔法による攻撃であれば笛を一度吹いてそのまま解除までお願いします。」

「笛を1回吹くね。」

「想定外の場合は笛を二度吹いてください。すぐさま扉を開けて10数える間待ちます。」

「笛2回ね。覚えた。」

「数える間にスヴェンが戻ってこない場合緊急事態とみなします。それまでの情報を基に私かブランドが救援に向かいますが・・・。」

「大丈夫だよ。何とかしてみせる。」

「ええ覚悟じゃチビ。骨は拾ったる。」

「骨が残ればいいけどね。」

「くだらない冗談を言ってないで始めますよ。準備はいいですか。」

密室での火はとても危険だ。

火そのものは当然として煙や空気が悪くなり、吸い込むと命に関わる。

部屋から悪い空気を出さない意味でも、部屋の中に新しい空気を入れてより燃え上がらないようにする意味でもオレが入った後は扉を閉じなきゃいけない。

その点オレは風魔法で自分の周りにだけ良い空気を留めることができるし、熱は効かない。

まさにうってつけだ。

「いいよ。準備できた。」

「では3つ数えます。3・2・1、どうぞ!」

扉が開かれるのと同時にオレは部屋に飛び込む。

部屋の中は扉から中央に続く細道と何もない中央の広場だけがある部屋だった。

ランプで照らして壁を確認するが”いかにも”な罠は見つけられない。

なら細道の外はどうなっているのかとのぞき込む。

「これは・・・油だ。」

細道と中央の広場、それ以外のところには油が溜められているらしい。

「笛2回かな。一度戻ろう。」

笛を2回吹くと扉がガチャリと開き、オレは元来た道に引き返した。


「油の溜まった部屋ですか。そして中央には何もない広場。」

「何かあるのは間違いないよね。」

「チビ、部屋の大きさはどれくらいじゃ。」

「うーん。横はランプの光で壁が見えるくらいだったよ。縦は壁がはっきりと見えなかったから結構長いかも。」

「このランプだとはっきり見えるのは10mが限界でしょうか。つまり横幅は20mくらいですかね。」

「縦幅は30m以上か。かなりでかい部屋じゃ。」

ダンジョン深くにあるいかにも何かありそうな大部屋。

嫌な予感しかしない。

「もしかしてボス部屋?」

「悪いことばかりではありません。守護者(ガーディアン)の部屋があるということはその奥は最深部だと考えられます。」

「情報が足りん。未知の守護者(ガーディアン)を倒すには過剰なくらいの戦力と後方支援部隊が必要じゃ。」

とはいえ後方に戻っても地上につながる道はない。

分かれ道の全てを確認する方法もあるけどそれだと間違いなく時間切れになる。

「ブランド、我々は王国に仕える者としてエミール王子の安全を確保しなければなりません。」

「・・・ワシは雇われて4日もたっとらんが。」

「ここで臆せばデリック様の命も危険に晒されます。貴方も分かっているでしょう。」

ブランドは黙り込む。

ブランドだって使命は理解しているのだ。

ただ今までの経験から無策でボス部屋に突っ込むのが自殺行為だと知ってる。

決断ができないのは当然のことだ。

「ならもっと情報が必要だね。」

オレは心臓に熱を溜める。

そして渦を大きく広げて部屋の中に送り込んだ。

「スヴェン。それではブランドの鼻が効かなくなります。」

「この部屋じゃワシの鼻は役に立たん。悪いな。」

「そうですか・・・。ならスヴェンに任せるしかないですね。」

マーナルディは不安そうだ。

それだけブランドの嗅覚を信頼しているのだろう。

ブランドも乱暴な言い方をしてないし、二人の仲は進展しているように感じる。


「スヴェン何かわかりましたか?」

既に部屋全体は触って確かめたけれど生き物が居そうな感触はない。

「触った感じ生き物は居ないかも。」

「かも?・・・チビ、”それ”部屋全体いけるんか?」

「え?だからやってるよ。」

「ブランドは部屋全体を”同時”に精度を落とさず確かめられるのか、と聞いているのです。」

「あ、それはどうだろう。」

オレの熱探知は意識を向けている部分と向けていない部分で精度に大きな差がある。

それはイメージの原型が”手で触れる事”であるためだ。

手の感触に集中しすぎると他の部分の精度は一気に落ちる。

「部屋の中にでかい奴はいない。それに小さい奴がいっぱいいる訳でもない。はっきり言えるのはそれだけだね。」

「不安じゃ。チビは魔力を探っとるらしいから・・・魔物や魔法の罠はないくらいか。」

「ボス部屋じゃないのかな?ただの罠部屋なのかも。」

「ダンジョンは様式美にこだわると聞いたことがあります。例えこの部屋が守護者(ガーディアン)の部屋でないとしても戦闘は起こるでしょう。」

難しい。前世の記憶だとダンジョンなんて結構なんでもありだったような気もする。

今までの道のりも色んな罠があったし、こだわりなんてあったかな?

強いて言うならどの罠も殺意MAXだったくらい・・・いや待てよ。

「そういえばこのダンジョンでさ、生き物って見てないよね。地底湖には魚すらいなかったし。」

「それはワシも思った。恐らく罠の誤作動を防ぐためじゃ。」

「このダンジョンは”罠だけで冒険者を退けること”をコンセプトにしている。けれど守護者(ガーディアン)はダンジョンの花形です。必ず何かが居るはず。」


しばらく3人で唸っていたが、突然ブランドがランプを付けたり消したりし始めた。

「あの、それ気になるから止めてよ。」

それを無視してブランドは呟くように言った。

「・・・わかった。ここの守護者(ガーディアン)はゴーレムじゃ。」

「ゴーレムは魔法生物では?サイズ的にもスヴェンが見落とすはずがないと思うのですが。」

「起動前なんじゃ。だから魔力も通っとらん。」

「でもオレは魔鉱石があったら分かるよ?ゴーレムには必要だよね?」

「油ん中じゃ。ゴーレムなら隠れられる。」

言われてみれば油の中は調べてなかった。

というよりも液体の中はオレでは調べられない。

今まで気が付かなかったけどこれは弱点だ。

「わかりましたよ。この部屋のメインは結局火罠なのですね。」

「え?そうなの?」

「ゴーレムは火を広める装置、見方によっては罠じゃ。」

「ダンジョンのコンセプトを通しながら様式美に反さない方法。納得できる仮説です。」

「確証はない。結局はただの勘じゃ。」

「これ以上時間はありません。最も納得できる作戦に賭けるべきです。」

ブランドもマーナルディも覚悟を決めたようだ。

「よし!ならゴーレム倒す方法を考えなきゃ。」

「正直ワシはゴーレムと相性が悪い。更に火罠を避けながらとなるともう足手まといじゃ。」

「ブランド、ここまで無事に来れたのは貴方のおかげです。勿論スヴェンの功績も大きい。対しては私はあまり何もできていませんでした。」

「そんなことはないよ。作戦とかさ、色々決めるのだってーーー」

「いいえ、それでは全く足りません。」

マーナルディは立ち上がり、張りのある声で続ける。

「ですがゴーレムが相手なら私の得意分野です。この場は私に任せて貰いましょう。」

そんな彼の手には黒鉄の金槌が握られていた。

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