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第59話 ダンジョン

「また分かれ道だね。ブランド、罠の種類はどう?」

「左は油の臭いが濃い。右は酸い臭い・・・酸系の罠じゃ。」

「左は火罠でしょうね。なら左の道を行きましょう。スヴェン、お任せします。」

「任せて。オレは熱に強いからね。」

「これで5つ目の分かれ道じゃ。長い、時間がない。」

「例年の試験では問題数は5つでした。これで最後なら良いのですが。」

「急ごう。早く地上に出ないと。」




午後の実技試験は各グループにいくつか簡単な罠が配布されて、制限時間内に可能な限り解除する。

・・・という試験のはずだった。

「今年の実技試験はより実践的な科目に変更になります。この人工ダンジョンに各グループが挑み、罠を解除しながら最深部を目指してください。」

なんと今年から試験方法が変更になったらしい。

マーナルディとブランドが喧嘩したら最悪一人で試験を進めてしまえばいいか・・・なんて考えは甘かったようだ。


「では次、中へ。」

オレ達がダンジョンの入り口に足を踏み入れると視界がぐにゃりと曲がった。

この感覚はテレポートか。

視界が戻るとそこは暗闇だった。

カチリと音がすると光が灯2つ灯り、マーナルディとブランドが顔を覗かせた。

オレも辺りを手で探ると近くにランプがあったので光を灯す。

「これがダンジョンか。初めてだ。」

オレは人生初のダンジョンに少し興奮していた。


3人で周囲を見渡して状況を確認する。

目の前には2つの道が用意されていて、後方は壁になっていた。

「うえ、テレポートは酔うから苦手だ・・・。」

「大丈夫ですか。少し休みましょうか。」

「おう休んどけ。ワシは先に行っとる。」

ブランドは右側の道へ歩き始める。

「相変わらず協調性がありませんね。少し待つという発想はないのですか?」

「アホは黙っとけ。ダンジョンは何があるかわからん。ベテランが先行調査するのが常識じゃ。」

開幕から喧嘩になってしまった。

喧嘩するなよ・・・とは思うけれどどちらの意見ももっともだ。

冒険者として即席パーティを組む場合、簡単な連携が取れることが絶対条件になる。

その点全員が纏まって動けば不測の事態に対処しやすい。

なぜなら”味方の位置”や”危険な物の位置”をでき、声かけでの連携に認識の違いが生まれないからだ。

咄嗟の判断が大事な冒険者達にとっては大きな要素になる。

これが連携を大切にしたマーナルディの意見。

反対にブランドはダンジョン攻略の目線で考えている。

パパ曰く、ダンジョン攻略は専門性が高いらしい。

通常の依頼では考えないような細かな点をしっかりと確認して進まないと命に関わる。

つまり経験があるメンバーが先行して状況を確認、安全であれば後続を呼ぶという形が適切なのだろう。

結局どちらの意見も正しい。

ならオレはどうするべきか。


「待って、オレ達もついてくよ。」

「あ?休んどけ。足手まといじゃ。」

「そうだね。でもブランドとオレ達が互いに見える位置を保とう。」

「なるほど中間策ですか。まあ獣人族(リカント)は鼻が利きますから斥候としては十分でしょう。」

「ブランドそれでいいよね?」

「・・・2mじゃ。視界が切れる場所は都度指示する。ええな?」

2mを保って歩けと。

どうやらブランドはダンジョンにかなり慣れているようだ。

「では全員これを受け取ってください。」

マーナルディは小さな笛を取り出すと全員に配った。

「これは我々騎士が使用する伝達用の笛です。本来は鳴らし方で複数の情報を伝えられるのですが・・・今回は”音が鳴ったら後方に退避”。この約束だけにしましょうか。」

試しに鳴らしてみるとピィと甲高い音がダンジョンに響いた。

これなら別の音と聞き違えることもなさそうだ。


少し歩くとブランドが腕で静止の合図を出した。

どうやらこの先に罠があるようだ。

「罠解除はどうする?皆で集まってからする?」

「ワシがやる。」

ブランドは会話しながら鼻をスンスンと鳴らしている。

やると言うからには解除できるのだろう。

「わかったよ。任せるね。」

「いえ報告が足りません。罠の種類と数は?」

「あ?・・・槍罠じゃ。数は1。」

「なら場所もわかるでしょう。任せます。」

なんというか・・・この二人できるな。

喧嘩さえしなければ頼りになる。

「動力は・・・魔法。なら臭いを辿れば・・・ここじゃ。」

ブランドは足元の小石を蹴る。

するとブランドから1m先の床から槍が飛び出してきた。

・・・あれ当たったら死人がでるのでは?

「その罠は再発動しますか?」

「魔法の臭いが途切れた。1回きりの罠じゃ。」

単発使い切りの罠の様だ。

「ありがとうブランド。頼りになるね。」

「試験用じゃ。あまりに露骨で簡単すぎるわ。」


また少し先に進むと2回目の分かれ道が見えてきた。

ブランドが静止の合図を出し、周囲をくまなく調べる。

「左じゃ。鉄の臭いがする。数は3以上。」

「待ちなさい。右の道の報告が必要です。」

「・・・魔法の臭いが濃い。水系の魔法じゃ。数はわからん。」

「なるほど。では貴方が安全に解除できるのが左の罠だということですね。」

今までの様子から見るとブランドは魔法を嗅覚で知覚しているらしい。

「私は右の道を進むべきだと考えます。鉄を使う罠は種類が豊富かつ殺傷力が高い。水系の罠は種類が限定的で事前に対処方法も共有できます。」

マーナルディはオレを見る。

オレの意見は?ってことね。

「その前にちょっと試したいことがあるんだ。時間が欲しいな。」

「チビ、迷惑じゃ。ダンジョンは実験室ちゃうぞ。」

「スヴェンは何をするつもりですか?」

そうだった。アロナに「何かする前は説明しろ!」と怒られていたの忘れてた。

「熱魔法を飛ばして罠の”感触”を確かめてくるよ。」

「どうやって?想像がつきません。」

「えっとね。こうやって熱魔法を体の周りに纏わせるんだ。それで熱魔法が届く範囲に魔法があったら”触覚”でなんとなく分かる。」

「・・・チビの臭いが被って肝心の罠の位置が分からん。却下じゃ。」

そっか。オレが魔法を広範囲に広げるとブランドの邪魔になるのか。

「何とかできませんか?可能なら有用な選択肢になります。」

うーん。方法は・・・無くもないな。

「えと、できるかも。試したことなかったけど。」

問題はオレの魔法、それと魔法の残滓がダンジョン内に広がることだ。

それなら熱魔法と風魔法は使えない。

例え”空気の手”のように範囲を絞って魔法を使っても、熱と風の魔法の残滓は簡単にダンジョン内に広がってしまう。

使い終わったらその場で朽ちる魔法・・・水か土魔法か。

「では一度右の道に進みましょう。罠の場所が分からなければ引き返して左の道を進む。この案でいかがですか?」

ブランドは黙って腕を組む。

危険度を天秤にかけているのだろう。

「チビ、少しでも迷うなら引き返す。それでええな。」

「わかった。頑張る。」

オレ達は右の道へと歩みを進めた。


「これは・・・地底湖ですね。初めて見ました。」

目の前には一面に水が広がっていた。

「泳いで渡れって言われてる気がするね。」

「見え見えの罠じゃ。・・・魔法の臭いは対岸が一番濃い。」

「なら最初に調べるべき場所は対岸ですね。」

「対岸ね、了解。」

「チビ、水場には魔物か危険な動物がいる。気ぃつけろ。」

「知力試験では戦闘は無いはずですがね。警戒は十分にしましょう。」

「わかった。ちょっと集中するね。」

オレは水に手をつける。

かなり冷たい。けどオレは冷たさについては大丈夫。

問題は正確に水を操れるかだ。

「よし!いくぞ!」

オレは水に自分の魔力を注入する。

じわっとオレの魔力が広がる感覚。

先生からは水玉の表面に膜を張る感覚だと教えて貰った。

うまくできるといいけど。

「水中に大きな水の塊があります。これが水魔法ですか。」

「警戒せいアホ。死ぬぞ。」

よし十分な大きさの水玉ができた。

次は水玉を段々細く伸ばす。

ゆっくりと水玉が帯状に伸び、対岸までたどり着いた。

よしよし順調だ。

最後は対岸に上陸させて対岸を水で薄く浸す。

・・・より冷たい感覚がある。

これは氷の魔法?対岸の地面にいくつも仕掛けられているようだ。

「対岸には氷魔法が仕掛けられているみたい。」

「なるほど。泳いで渡った冒険者を凍えさせる罠ですか。嫌らしいですね。」

「足止めの後は本命の罠があるのがダンジョンじゃ。」

ブランドは対岸の天井を指さす。

「独特の臭さ。雷魔法の罠じゃ。」

「あまりにも殺意が高い。試験官は何を考えているのでしょうか?」

オレもそう思う。

最初の罠も簡単そうに見えるけど当たったら即死だ。

もしもの事を考えるとありえない難易度になっている。

「嫌な予感がします。我々はここまで先発組の痕跡を見つけられず、後続の気配も感じません。」

「まだ2つ目の分かれ道だから左の道がすごく簡単だった可能性はあるけど。」

「人の臭いは無かった。ここにはワシらしかおらん。」

「全グループが別々のダンジョンなんてどれだけの手間がかかるんだろう。知力試験は受験者が一番多いのに。」

「・・・罠じゃ。」

ブランドは怒りに震えていた。

「誰かが仕組んだ悪意じゃ。対象が全員か特定の”誰か”かは分からんが。」

「試験内容に干渉して受験者を別のダンジョンにテレポートさせた、あるいはダンジョン内の罠をすり替えた。という仮説ですね。」

狙いが全員ならどうしようもない。そもそもこれが用意された試験の可能性もある。

でも特定の誰かを狙っているとしたらよりまずいことになる。

受験者の中で一番狙われる可能性がある人物。

「エミール王子が危ない。」

「エミール王子にはデリック様とアレクがついています。群衆の目も考慮すると地上で襲われる心配はないでしょう。」

「ワシらがなんとかせんといかん。」

「エミール王子のグループは最後方、対して我々はほぼ先発です。まだ猶予はあります。」

「ここからはタイムアタックになるね。」

速攻でこのダンジョンをクリアして試験を中止させる。

これがオレ達の使命だ。

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