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第57話 おまじない

「さて、オレも頑張んないと。」

二人はオレを待ってくれようとしたが先に合格して貰った。

理由は解答をどう言葉にしようか迷ったからだ。

大体の答えはもう出ている。

でもオレの場合は重なっている魔法陣が何かまで言い当てる必要がある。

エミール王子も当然そうしたはずだ。

「一番下の魔法陣は絶対にオレのだ。でも上の二つは多分そうじゃない。」

オレの魔力に自然と混ざるほどの別の魔力。

その答えの一つはレイン様から貰った外套で間違いない。

オレはもうこの外套から魔力を吸い上げることを意識してすらいない。

「問題は3つ目かー。」

3つ目の一番小さな魔法陣は何か。

それは首筋のこれ(・・)だろう。

その印はハレン先輩の魅了(チャーム)を完全に無効化するほどの効果がある。

それにオレが意識していなくても自動で発動する優れものだ。

つまりオレの体に薄く、常に魔力が張り巡らされているのだろう。

「守られてるな。色んな人に。」

自分が多くの人に支えられてこの場に立っていることを再確認すると、胸が熱くなる思いだった。

だけどここから先が問題だった。

「どう説明しよう。全部言う?いやそれはちょっと・・・。」

ミーシャの事は当然説明できないし、「夢魔族(サキュバス)の加護です!」なんて言ったら魔族のスパイだと疑われるだろう。

何かヒントは無いか?

この場だけでいいからごまかせるそれっぽい説明は・・・。

「あ!・・・うーん。後で絶対怒られるよなー。」

一つ良くない嘘を思いついた。

割と、いやかなりタチの悪い嘘だけど今回だけ目を瞑ってもらおう。



「試験官、魔法陣の解析が完了しました。」

「解答は一度きりだ。今なら引き返すことを認めよう。」

「いいえ大丈夫です。解答させてください。」

試験官は振り向いてオレを真正面から見据えた。

「では聞こうか。君のその魔法陣は何だね?」

オレは深呼吸をすると一息で答えた。

「一番下の大きな魔法陣はオレの魔力です。熱と風の紋様がそれを表しています。2つ目に大きな魔法陣はこの外套の魔力です。これは伝説級の装備で魔力をオレに分けてくれます。3つ目、一番小さな魔法陣は精神系の魔法に反応する防御魔法です。その、この街に来た時にハレンという先輩と出会って・・・。色々あってこれを貰いました。」

オレは首の印を試験官に見せる。

「む・・・。それは・・・。」

試験官はオレの首筋を確認するとサッと青ざめて、オレを他の受験者から遠ざけた。

「悪いがもう一度魔法陣を見せてくれ。」

「えと、どうぞ。」

試験官は大分悩んだ後オレの肩に手を置いて言った。

「これは契約魔法の一種だ。その危険性について君は把握しているのかね?」

「少しだけ。契約を破ったら死ぬって聞いてます。」

「なんということだ・・・。これは由々しき事態だ。・・・しかしハレンか。信じたくはないが、やりそうではあるか・・・。」

腕を組んでブツブツと何かを唱えているが聞き取れない。

「いやまず先にするべきことがあったな。・・・スヴェン・ツオイスを合格とする!」

試験官が高らかに宣言する。

「ありがとうございます。」

「ではあちらの出口から退出するように。」

これでオレの魔力試験は終了した。

・・・ハレン先輩には迷惑をかけてしまった。

後でちゃんと謝らないと。



「やあ未来の後輩君。魔力試験には手こずったようだね。」

宿に向かう途中で再びハレン先輩と出会った。

「今回は魔法陣の解析が試験内容で・・・。本当に大変でした。」

「その様子なら合格貰ったんだろう?」

さっきまでは合格の喜びで誤魔化していた罪悪感が一気に湧いてくる。

「あ、その。それで一個謝らないといけないことがあって・・・。」

「どうして私に謝るの?」

「その・・・問題の魔法陣が”自分”の魔力特性を魔法陣にするもので・・・。」

「うん。それがどうかした?」

「それでその・・・。これ(・・)の魔力も魔法陣にでちゃいまして・・・。」

「そうなんだ。よく説明できたね、ごまかすの大変だったでしょ。」

「その、ごめんなさい!」

「ん?・・・ん?もしかして君嘘ついた?」

「ハレン先輩に貰ったって言いました。」

「はあああああ????!!!お前!ふざけんな馬鹿!私が危い奴だと思われるだろ!!第一試験官がそんな説明で納得するか!」

「あの、特に何も聞かれなくて。」

「あのワックスガチガチ野郎が!!!!・・・ちょっと文句言って来る!!」

「これって相当マズイですか。」

「死活問題だよ!私の残りの学生生活棒に振れっての?!」

結局ひと悶着があった後二人で今回の試験官、バードン教授に事実を説明しに行くことになった。


「バードン教授はいますか!私です!フォーマルハウトのハレンです!」

バードン教授の研究室の扉をドンドンと叩く。

奥からドタドタと音がして扉が勢いよく開かれた。

「ハレン!私も話があるぞ!」

扉が開かれると同時に部屋の奥から縄が飛び出して、ハレンを一瞬で縛り上げた。

「何するんですか!冗談は頭だけにしてください!」

「冗談ではないぞ!契約魔法は禁止されていると君も知っているだろう!」

マズイ。本当にマズイ。

オレが軽い気持ちでついた嘘でとんでもないことになってしまった。

「バードン教授!待ってください!僕です!スヴェンです!」

「君!大人しくしていなさい。」

「あの、ごめんなさい!僕が嘘をつきました!」

「嘘?」

バードン教授をオレとハレン顔を交互に見る。

ハレンはしかめっ面で首を縦に振っている。

「ほう・・・。」

バードン教授は縄を緩める。

「では詳しく聞かせてくれ。本当の話を。」


部屋の中に招かれたオレは1年前の出来事を含めて全てを説明した。

「ごめんなさい。本当の話をしたら合格が貰えないと考えました。」

「事情は理解した。しかし嘘は良くない。」

「バードン教授!ひどいです!こんな嘘信じるなんて!」

「最近の君の活動を客観的に振り返ってみるといい。スヴェンとの遭遇も健全に聞こえなかったがね。」

「それはそのー。研究の為でー。・・・そう!利益と研究を兼ねた実益のある活動なんですよ!」

「私はその活動を禁止しないが悪い風評があることは理解するべきだ。」

ハレンは何も言えなくなり黙ってしまった。

「では今度はスヴェン、君の処遇についてだ。」

来た。

「はい。試験は不合格でしょうか・・・。」

「試験の解答に虚偽があったことは事実だ。そして今回の試験の内容を踏まえて採点をやり直すことにする。」

「えと、お願いします。」

「スヴェン。今回の試験の問いを覚えているかね。」

「はい。魔法陣の解析です。」

「その通りだ。だが勘違いしてはならない点が一つある。今回私は『魔法に対する最も基本的な適正』を確認すると宣言した。その手法が魔法陣の解析作業をさせることなのだ。」

「それはどういう意味でしょうか?」

「試験である限り正答を出せれば合格だ。今日であればアレク・イージスなどがそうだった。」

「はい。見てました。」

「しかし今年の試験は受験者が魔法陣の解析について無知であることを前提に用意したのだ。」

「それは・・・どうしてですか?」

受験者を不合格にしたかったのだろうか?

「先に言った通り適正を見るためだ。それは冒険者や研究者になる上で最も大事な要素になる。」

「バードン教授。何を見られていたのか聞いてもいいですか?」

バードン教授は懐から先程の試験で使用したバッチを取り出す。

それを軽く握ると魔法陣が浮かび上がった。

「これは当人の魔力を魔法陣で表したものだ。本来無形の魔力は人の体を経由するとこのように模様が表れる。なぜなら人は魔力に対して無意識に準備をさせているからだ。」

「準備・・・ですか?」

「ある程度使いやすい形に魔力を整えて、体の中に漂わせるのだ。そうすることでスムーズに魔法を放つことができる。」

「なんとなくわかります。」

オレが使っている熱の渦はそれを体の外にまで広げた状態なんだろう。

「無意識であるが故に魔力の形は変えにくい。だから生まれつきの才能が重要だと、多くの人がそう信じているのだ。」

「えと、つまり今回は魔力の形を見られて・・・。」

「違うでしょ後輩君。」

「その通り。冒険者や研究者に最も必要な才能は未知に”挑戦する心”とそれを現実にするための”努力”だ。いかに生まれつき強力な魔法が使えようとも、それだけでは解決できない事柄は山のようにある。それを解決するには挑み、努力するしかないのだ。」

「そう、ですね。」

「総括するとだなスヴェン。君の挑戦と努力、そしてたどり着いた答えを試験の評価項目としていたのだ。解答部分には虚偽報告があるため減点とさせて貰う。」

「はい。」

減点。その言葉が重くのしかかる。

「全てを考慮した上で君の合否を再度通達する。」

「・・・はい!」

オレは目を瞑った。

「スヴェン・ツオイスを合格とする。安心して明日の試験に挑みたまえ。」

バードン教授はそう言い残すと奥に引っ込んでしまった。


「よかったね。合格できてさ。」

「はい。本当によかった。」

「でもさ。」

ハレンはクルリと振り向いて言った。

「次そういう嘘ついたら本気で殺すからね。」

「二度としません。誓います。」

「よろしい。では罰として1年間は私のパシリだ。」

「謹んでお受けします。」

「ふふ、これで研究材料とパシリを同時にゲットだ。」

なんとかハレン先輩の機嫌を取り戻せた。

オレはついに一番気になっていることについて質問した。

「あの、それでこれ(・・)って結局どういうものなんですか?」

オレは首筋に触れる。

「それ知らなくてもいいかなって思ってたけど。君は知らないととんでもない事をしそうだから教えるか。」

ハレンは敢えて軽い口調で続けた。

「古代の契約魔法だよ。正確には契約魔法の原型になった強力なおまじないさ。」

「おまじない?」

「効果が定められていない契約だよ。君の場合、契約の達成条件だけがあって他の要素は全て決定されていない。達成の見返りとか破った時の(ペナルティ)とかね。」

「確かに。」

「当然そんな曖昧な物を契約として形にするのは通常不可能だ。だからそれはすっごい珍しい状態なんだよ。」

「なるほど。教えてくれてありがとうございます。」

オレとミーシャの体質、後はミーシャの神聖魔法の効果だろうか。

「大分軽いね。脅すわけじゃないけど契約魔法に類する以上、(ペナルティ)は軽くないよ。」

「大丈夫です。約束破るつもりないので。」

「おー格好いいね。因みにそれ、約束を破らなくても君が約束を守る”意思”がなくなれば(ペナルティ)は発動するから。」

「発動すると?」

「死ぬ。契約魔法ってのは大体そうさ。」

とんでもない契約だ。

いやでも言い出したのオレだしな・・・。

「でもそのおまじないの副次的な効果は絶大だ。約束を守る意思がある限りその印は君を守ってくれる。効果はもう分かっているよね。」

「精神系の魔法の無効化?」

「その通り、つまり君が死ぬ時は君の意思が揺らいだ時さ。」

どうやらオレは何が何でも勇者にならないとダメらしい。

でも大丈夫だ。あの時の覚悟は薄れていない。

それにこれはミーシャがまだ待ってくれているという証でもある。

「空も暗くなっちゃった。ほらさっさと帰って寝なよ。明日も試験でしょ?」

「あ、そうですね。そうします。」

「じゃあね。お休み。」

「お休みなさい。ハレン先輩。」


オレは宿屋に帰る途中もう一度あの日のことを思い出していた。

「勇者になるかー!」

試験にも受かったし、目標の再確認もできた。

終わってみれば今日はいい日だったと思う。

でもこれからは適当に嘘をつくのだけはやめようと心に誓った。

人物紹介

バードン教授

魔力試験の試験官だった人。

30歳以上に見える。男性。

髪の毛をガチガチに固めている。

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