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第56話 協力体制

「今必要なのはより多くの情報じゃ。まずチビとワシの魔法陣を見比べて違いがないか確認する。これでええな?」

「いいよ。」

オレは自分の魔法陣をブランドに見せる。

ブランドはしばらく目を細めて魔法陣を見ていたが、やがて目をしばしばさせながら言った。

「・・・おいチビ。もっと見やすくできんのか?」

「えと、ちょっと待って。」

オレの魔法陣は胸の30cm先に浮かんでいて、正面がオレ側を向いている。

確かに他人には見せにくい。

でも体をどう捻ってもブランドが見やすい形にはできなさそうだ。

「ちょっとごめん。」

それならばとオレは立ち上がってブランドの膝の間に入るように座りなおした。

「チビ、お前ええ度胸しとるな。」

ブランドがオレを睨む。

「魔法陣の方が大事だよ。」

オレはブランドがより見やすいように体を少しのけ反らせる。

「寄っかかんな!・・・ええわ。一々つっこんでたらこっちが持たん。」

ブランドは諦めてオレの魔法陣を観察する。

「図々しいガキじゃ・・・。」

ぶつぶつと文句を言いながらブランドはオレの魔法陣をじっくりと観察した。

時には触ったり叩いたり、風を送ってみたり色々とできることを試している様だった。


「チビ、どけ。」

3度目の鐘が鳴ったときブランドはオレをむんずと掴んで目の前に座り直せた。

助かった。ずっと変な姿勢だったから体が痛くなってきたところだった。

「何かわかった?」

「わからん。でも収穫はあった。」

ブランドは懐から配られたバッチを取り出すと強く握った。

するとブランドの喉元から魔法陣が浮かび上がる。

「あれ?オレのと形が違うね。」

ブランドの魔法陣はオレのと比べると非常に簡素で基本の円とそれに重なる線しか描かれていなかった。

「チビのが複雑すぎるんじゃ。帽子野郎の魔法陣はワシのとそう変わらんかった。」

声を掛ける前から観察していたのか。

ブランドは何かに気が付いてそれを確認するために行動したのだろう。

「ワシは魔法陣についてなんも知らん。じゃがワシの生まれは寒いとこじゃ。暖房の魔法陣だけなんども見たことがある。」

そしてブランドは自分の魔法陣を指さして続けた。

「ワシの魔法陣はその模様と一切一致しとらん。これは熱や風を起こす魔法陣じゃないことは決まりじゃ。」

「それはでかい情報だね。」

「黙って聞かんかいチビ。・・・ええか、反対にチビの魔法陣は線が重なりすぎてよーわからんことになっとるが、一番大きな円とそれに重なる線は暖房の魔法陣にそっくりじゃ。」

「え?!ホント?!」

予想以上の収穫だった。

オレは何もしていないのにここまで教えてくれるなんて。

実はブランドは良い奴なのかもしれない。

「嘘はつかん。しかしチビの魔法陣のせいで分からんことが増えたわ。魔法陣は円一つに線が重なってできとるんちゃうんか?なんでチビの魔法陣は円が3つもあるんじゃ?」

「確かに・・・。なんかオレの魔法陣だけ難易度高くない?」

なんというか不公平だ。

せめて皆に同じ問題を出してくれないと試験としてどうかと思う。

「知らんわ。文句あるなら言うてこい。」

ブランドは試験官を親指で指差して言った。

「言えないよそんなこと。」

「なら忘れろ。無駄な事じゃ。」

ブランドはもう一度自分の魔法陣とにらめっこを始めた。

「その通りだね。」

今度はオレがブランドの魔法陣を観察させてもらう番だ。


「ううっ。・・・ぐす。もう無理です。ごめんなさい、お母さん・・・。」

4度目の鐘が鳴ったタイミングでついに棄権者が現れた。

あまりのプレッシャーに耐えかねたのだろう。

進展もない、いつ試験が終わるかもわからない。

試験会場は最悪の空気に包まれていた。

「くそ!誰か何か知らないか!なんでもいい!何か教えてくれ!」

今まで躊躇っていた別の受験者も、オレ達と同じように受験者間の相談を始めた。

少しすると受験者が段々と集まり、最終的には3つほどの大きなグループになった。

・・・少数のメンバーを除いて。

当然オレとブランドは少数側だった。

「他の受験者も相談を始めたね。」

「・・・うらやましいならチビも行けばええぞ。」

ブランドはぶっきらぼうに言う。

多分オレ達がグループに誘われないのは自分のせいだと思っているのだろう。

「ブランドの魔法陣の解析が終わったら行くよ。」

オレだけ情報を貰ってさよならなんて後味が悪すぎる。

「ならアイデア出さんかい。今はなんでも試す番じゃ。」

でも実際の所、ブランドが最初に出してくれた情報以外は何も進展がなかった。

このまま二人で考えていても煮詰まってしまう可能性が高い。

・・・それだとオレが役立たずすぎる。

なら次の行動を起こさないと。

「ん?チビどうした?」

「もう一人メンバーが欲しいと思って。」

オレはグラウンドの中央を指さす。

「あ?・・・チビの図々しさは天井知らずじゃな。ネジが外れとるとしか思えんわ。」

ブランドはオレが誰を呼び差しているかに気が付くと溜息をつくように言った。

「いいよね?」

「・・・勝手にせい。」

「じゃあ決まりだ。」

オレは小走りでターゲットに近づくと声を掛ける。

「エミール王子!オレ達と一緒にやりませんか?!」

「やあスヴェン。実は声かけてくれないかなーって思っていたよ。」

これで3人目のメンバーゲットだ!


「ブランド・キースじゃ。」

「エミールだ。よろしくね。」

二人は自己紹介を済ますと早速議論を始めた。

「これは前提じゃがワシもこのチビも魔法陣については素人じゃ。その上であのボケ試験官に吠え面かかすために協力しとる。」

「え?オレは合格できればいいよ。」

「水差すなボケ!同じ意味じゃ!」

「どうぞよろしくね二人共。」

「それで?王子はどうなんじゃ。」

「私の知識は二人より少しだけ深いかな。」

「やった!どれくらい知ってるの?」

「各属性の基本の模様は把握してる。でも魔法陣の運用はした事が無いね。」

十分すぎる。これぞ天の助けだ。

「・・・なら何で解答できん?」

「解答に自信が無いからだよ。」

王子はバッチを握って魔法陣を出した。

「私の魔法陣は2つ重なっていてね。どう答えたものか迷っているんだよ。」

王子の魔法陣は・・・ん?一つにしか見えないぞ?

「ごめんよ。見せ方が悪かったね。」

そう言って魔法陣の角度を変えて側面がこちらに見えるように動かした。

「あ!ピッタリ2つ重なってる!」

「困ったよね。下側の魔法陣が見えにくいのなんの。」

これはまた難しい魔法陣だ。

試験官はこの不公平な試験をどうしてオレ達に受けさせるのだろう。

「えと、オレのも3つ重なってる。でも王子ほどしっかり重なってないよ。」

オレは自分の魔法陣を王子に見せる。

「大きさが異なる円が3つ。これ上の魔法陣は重なっているというより引っかけられているように見えるね。」

エミール王子は小さな円を指さす。

よく見ると上2つの円は、一番下の魔法陣の円と線の隙間に差し込むような形で重ねられていた。

上から引っ張ればするっと抜けそうな状態に見える。

「よく気が付いたね。意識してなかったよ。」

「あ?さっきまで何を見とったんじゃチビ。」

ブランドは気が付いていた様だ。

意外と細かい性格だな。

「ごめんよ。・・・でもこれ引っ張ったら抜けそうじゃない?」

オレは自分の魔法陣の一番小さな円を掴んで引っ張ろうとした。

しかしオレの手は魔法陣は透過してすり抜ける。

「それも試したじゃろが。」

「いや待ってくれ!それは私の魔法陣と違うよ。」

エミール王子は自分の魔法陣をコンコンとノックする。

確かに触れているな。

それがエミール王子の魔法陣の効果なんだろうか?

「ね!オレに貸してよ!」

「貸せ、ワシが試す。」

「あっ。」

オレの手とブランドの手がぶつかり、王子が握っていたバッチをはたいてしまった。

「ごめんなさいエミール王子!すぐに拾うね!」

オレはエミール王子のバッチを拾うとそのまま魔力を込めた。

「おい!はよ貸さんかい・・・ん?それチビのバッチ・・・いや確かに王子のバッチじゃ。」

「ああなるほどね。そういうことか。」

拾った王子のバッチからはオレの魔法陣が現れていた。


「つまりこれって誰のバッチでも受験者の魔法陣、つまり試験内容は変わらないってことだよね?」

「そうじゃ。でももっと大事なとこがあるじゃろが。」

「このバッチ一つ一つに全員分の魔法陣を仕込んでいるとすると効率が悪すぎるね。」

エミール王子の言葉にブランドは頷いて同意した。

「そんな面倒なことするのはアホじゃ。」

「答えがより簡単なものだとするとこの不公平な試験にも納得がいくね。」

準備の労力を考えるのとバッチには一つの魔法が掛かっていると考えるのが自然。

個人によって異なる魔法陣の大きさや紋様。

そしてブランドが教えてくれたオレの魔法陣の情報を合わせて考えると・・・。

「この魔法陣はオレのか。」

「正確には魔力特性を魔法陣で表す魔法だろうね。」

熱と風の魔法。

オレが一番よく使う魔法だから、”魔力を込める”という動作が無意識に”熱と風の魔力を準備して込める”に変わっているのだろう。

それに今思えばオレのバッチは直接触れなくても魔法陣が出ていた。

それはオレの渦の魔力反応して現れていたと考えると納得できる。

「出てきた魔法陣は個人の得意魔法か。あのボケも考えとるな。」

褒めているのか貶しているのか。

どちらにせよブランドは納得した様子だ。

「後はチビと王子の魔法陣がなんで重なってるかじゃ。それが分かればしまいじゃ。」

「いや大丈夫だ。私はもう理解できたよ。」

王子はブランドの申し出を断るとオレを見た。

「スヴェンもそうだろう?ならここから先はプライベートだ。」


「エミール王子。そしてブランド・キース。共に合格とする!」

「しゃあ!どんなもんじゃい!」

「ありがとう試験官。では私達は出ようか。」

「エミール王子はあちらにカリファ様がお待ちです。ブランド・キース、王子を出口まで送れ。これは命令だ。」

「あ?・・・まあ出口は同じじゃ。」

「試験官、ブランドは送ってくれるそうだ。では。」

二人は一足先に試験会場を後にした。

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