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第55話 挑戦

今日は魔力の申告試験の日だ。

今日は昨日と比べて足が軽く感じる。

一番の鬼門だった体力試験は予想外の好感触で終わり、後は自身のある魔力試験と知力試験を残すのみだ。

とはいえ気を抜くことはできない。

一度深く深呼吸をする。

「合格を宣言されるまでが試験だ。頑張れ、オレ。」

「おー、緊張してるね後輩君。」

突然後ろから声を掛けられてビクッとすると、ハレンは悪戯成功と言わんばかりにくすくすと笑った。

「絶対に合格したいので。」

「そんな君に一つアドバイスだ。」

「魔力試験は年によって試験内容が大きく違う。試験官の趣向がダイレクトに出るんだ。だからちゃんと説明を聞いて点数につながる選択を選ぶんだよ。気を散らして説明を聞き逃さないようにね。」

いつもと違いかなり具体的なアドバイスだった。

「ありがとうございます。ハレンさん。」

「いいよいいよ。じゃあ私も学校行かないとだから。」

そう言ってハレンはオレとは逆方向に歩いて行った。

もしかしてこの話をするために待ってくれていたのだろうか。

それほど気に入ってくれたのか、それとも首筋の(これ)が余程貴重なのか。

どちらにしろ応援してくれることは心強い。

今日の試験も頑張ろう。



「受験生はこっちだ。受付が終わった者からピシッと一列に並ぶように。」

試験会場に着くと髪も襟もバッチリ固めた男性が会場を仕切っていた。

「あの、受験希望のスヴェンです。」

「声が小さいね。ハキハキと話すように。もう一回やり直しだ。」

め、めんどくさい人だ・・・。

「受験希望者のスヴェン・ツオイスです!よろしくお願いします!」

「できるじゃないか。ではこのバッチを付けて列の最後尾に並んでくれ。ピシッとね。」

「はい!ありがとうございます!」

オレはぎこちない足取りで列の最後尾までを目指して歩く。

列を見るとあの乱暴な獣人族(リカント)だったり、デリック様と呼ばれていた甲冑を着た貴族の子もいた。

でも真面目そうな人は今日は来ていないらしい。

今日はうるさくならずに済みそうだ。


もう少し進んで列の中盤にはエミール王子、その隣には見知った顔がいた。

今年の特待生アレク・イージス、アレク君だ。

エミール王子と小声で談笑している。

二人の雰囲気は何処か近寄りがたい高貴な雰囲気が漂っていて、オレは二人に気が付かなかったふりをして足早に列の最後尾に並んだ。

「そういうのは合格してからだよな。」

オレは魔力試験用のメモを取り出す。

試験の事で頭をいっぱいにして余計な事は考えないようにした。


「ふむ、受験者全員の集合を確認した。それでは予定を早めて魔力試験を開始する。皆構えて。」

最後の一人が列に並ぶや否や試験官がそう言い放った。

「魔力とは大いなる力だ。この試験を受けるからには諸君らはその恩恵を人並み以上に受けてきたはずだ。」

突然の事態に受験生は騒めく。

そんな雰囲気を気にも留めず試験官は続ける。

「そして魔法とは全てに代わり全てを成す技。細やかな分類など後から付け足されたものに過ぎない。」

一列に並んだ受験生の前をゆっくりと歩き、一人一人の表情を確認するように眺める。

「それゆえに魔力を操り技を行使するものは、常に自らを律していなければならない。」

ちょうどオレの前を試験官が通り過ぎる。

あまりの圧に最後まで目を合わせることができなかった。

「本試験で試されるものは魔法に対する最も基本的な適正だ。」

そこで試験官は腕を振ると受験者全員の目の前に魔法陣が現れた。

「本試験の内容はこの魔法陣の解析だ。解析の手段としてあらゆる手法を認める!試験時間は私が終了を宣言するまでだ。ではかかれ!」

唐突に試験が始まってポカンとする者、すぐに魔法陣とにらめっこする者、伸びをして気を落ち着かせようとする者など反応は様々だ。

オレは事前に決めていた通り、一度筆記用具を取り出して試験官のセリフを可能な限り紙にメモする。

これで一旦頭の中の整理をして落ち着こうとする作戦だ。

でもオレの気持ちは少し暗かった。

「魔法陣の解析かぁ。」


魔法陣の解析はオレが先生と準備した対策の中に入っていないジャンルだ。

ここ十数年の試験では魔法陣の解析なんてなかったのに・・・。

一応オレはイージス校で魔法陣についての授業を習ったことがある。

魔法陣の基本は中央の円だ。

これが他の全ての線を支えている。

そして円に交わる太い線。

この線によって魔法陣の効果が大体決まる。

最後にそれ以外の線。

・・・はっきり言って全然わからない。

授業で教えて貰ったのは一番有名な火魔法と土魔法の魔法陣だけだ。

それだって太い線の形で火魔法系か土魔法系かがわかるぐらいで、具体的に何かと聞かれたら何も答えられない。

「やばい、落ちたかも・・・。」

”かも”というのは強がりだ。

心の中では”解答できない”と結論が出てしまっていた。

それでも試験官のカンニングOKの言葉に縋って役に立たないメモを何回も確認する。

何もわからない。

時間が経つにつれ思考は停止し、代わりに兄のことを思い出していた。


兄のタクチャーは魔法の才能が無い。

正確には生まれつき魔法を感じ取る感覚が五感に備わっていなかった。

それでも兄は他の子と遜色のない規模で魔法が行使できた。

それは誰よりも正確に魔法陣を構築できたからだ。

思えば兄が”当たり前”を調べることが好きだったのはそのせいかもしれない。

兄にとっては魔法は理解できないもので、それを魔法陣の形にすることで理解していた。

そんな風に育った兄は魔法以外の出来事も解明できて当然だと考えていたに違いない。

・・・オレはそんなことをしてこなかった。

分からなければ誰かに教えて貰えたし、得意なことは練習すればできるようになった。

苦手なことは適当にごまかして、必要だったら代わりをお願いする。

そんな楽な生き方をしてきた。

頑張ってはいた。

でも”本当に”苦手なことや嫌なことからは目を逸らしてきた。

だから一番大事な時にどう第一歩を踏み出せばいいのか分からない。

教えてよ先生。

どうすればいい・・・兄ちゃん。


周囲の騒めきで意識が現実に戻って来る。

どうやら一人目のが合格者が出たらしい。

だけどオレは顔を下げたままだった。

見たくない。誰が合格したかなんて分かり切った事だ。

「アレク・イージスの合格を認める。模範的で過不足のない完璧な解答だった。」

「ありがとうございます試験官。」

「ではバッチを返した後あちらの出口から出るように。」

試験開始から1度目の鐘が鳴る前、一人目の合格者は試験会場を後にした。


「このままじゃ埒が明かんわ!そこの帽子!お前の魔法陣見せんかい!」

2度目の鐘が鳴りついに痺れを切らした受験者が現れた。

あの獣人族(リカント)だ。

「で、でも!これは試験だよ!そんなの許されないよ!」

帽子と呼ばれた受験者は咄嗟に自分の魔法陣をフードで隠した。

「おどれはバカか!試験官はなんでもあり言うたじゃろ!」

「常識の範囲があるよ!受験者同士の相談なんてダメに決まってる!」

そう言って帽子の受験者はグラウンドの隅にそそくさと移動した。

「ボケが!このままならどうせ不合格じゃ!」

獣人族(リカント)は苛立って地面を蹴る。

一見唯の暴走に見えるがその意見は一理あった。

このまま時間が過ぎて不合格になるくらいなら、一か八かで挑戦する。

その判断は間違っていない様に感じる。

ただ不正と判断されて退場になれば大間抜けだ。

許された時間を棒に振り挑戦権すら失ってしまう。

・・・でもこの問題なら簡単だ。

その答えだけはとっくに決まっている。

「ねえ!獣人族(リカント)のお兄さん!」

「あ?なんじゃチビ。」

「オレと一緒に問題解こうよ。オレもこのまま終わりたくない!」

結局オレは他人を頼るのだ。

今の後悔は入学後にゆっくり清算しよう。

「・・・他のビビりよりかは役に立つか。おいチビ!名前は?」

「スヴェン・ツオイス!」

狼の獣人族(リカント)はその長い口をにやりと大きく開いて答えた。

「ブランド・キースじゃ!」

オレ達はガッチリと握手する。

一か八かの共同戦線、これがオレ流の未知への第一歩だ。

人物紹介

ブランド・キース

狼の獣人族(リカント)。でかい。

年齢はよくわからない。でもおじさんではなさそう。

方言をしゃべるけどどこの方言かは分からない。

でも意味は大体分かるから問題なし。(前世のおかげ)

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