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第54話 人形

「申告試験を受ける生徒はこっちなー。それ以外の野次馬は下がってろー。」

試験会場に着くと誰も居ないグラウンドに小さな子供が一人立っていた。

「あの、オレもなんだけど受付はどこか知ってる?」

「あー?お前名前はー?」

「スヴェン。スヴェン・ツオイスだよ。」

「おーけー。ちょっと待ってなー。」

そう言って背中のリュックから何かを取り出した。

缶バッチ?

前世では鞄に付ける子もいたよな。

「お前これ着けとけー。」

「えと、なんで?」

「聞くなよバカヤロー。不正になるだろー。」

なんだか違和感がある。

もしかしてオレより小さいこの子が試験官・・・なわけないか。

いや待て。よく観察しろ。

尖った耳の特徴はエルフっぽい。

なら年齢は見た目通りじゃないのか?

「じろじろ見んなよー。失礼だろお前ー。」

やば、堂々と観察するのは良くないか。

「ごめんね。あの、受付ってどこかな?」

「受付は済んだぞー。さっさと行けー。」

そう言ってオレが入ってきた方とは反対側の出入口を指さした。

どうやら本人は試験官として振舞っているようだ。

だけど実は子供の遊びでしたってなったら目も当てられない。

先生にはあんまりやるなって言われたけど・・・ちょっとだけ確かめるか。

「ねえ、今日はよろしく。」

そう言って手を差し出す。

「お前しつこいなー。はいはいよろしくー。」

そう言ってオレの手を握り返してくれた。

・・・ん?なんだこれ。

この子の全身に膜が張ってる感覚がある。

体に張り付ける魔法・・・。

防御系の魔法?それか見た目を変える魔法だったりするのかな。

「いい加減にしろよー。それとも落第させられたいかー?」

だいぶイラつかせてしまったようだ。

唯の子供じゃないって分かったし信じよう。

「ごめんなさい。すぐ行きます。」

「おー。はよ行けー。」


オレは反対側の出入口まで来たが他の受験者は誰も見つからない。

やっぱり変だ。違和感がある。

そもそも今日の申告試験は体力だったはずだ。

だからこそのグラウンド集合じゃなかったのか?

「えと、今日の集合場所・・・あってる。試験開始時間・・・あってる。日付は?・・・あってる。」

全部あってる。

確かに試験開始にはまだ余裕があるけど、他の受験生が一人も居ないなんてありえるのか?

後ろを振り返るとあの小さな試験官が同じ場所に立っているのが見える。

それに何か独り言を話しているようだ。

独り言・・・。それに身振りで何かを指差している。

「あ、もしかして魔法?」

オレは缶バッチに触れる。

すると確かに握っているのに透過するような感覚があった。

やっぱり何かの魔法だ。

それにオレが会場にたどり着いた時、あの試験官「野次馬は下がってろ」って言ってたよな。

近くに誰も居ないのにそれはおかしい。

「やるか。」

心臓に熱を集める。

全身に熱が行き渡ると自然と熱が外へ漏れ出す。

そして漏れ出した熱を体の周りで回転させて留める。

「名付けて熱探知モード。」

熱”を”感知するんじゃなくて、熱”で”探知するからややこしいけど。

まあオレが分かればいいのだ。


熱を広げる分かることがあった。

この広いグラウンドには何も置かれていないように見えるけど、魔法が掛けられた何かが確かに置いてある。

それに生き物っぽい反応もあった。

オレの熱が触れた瞬間にふわりとどこかに逃げてしまったのだ。

「試験会場はここで合ってそうだ。よかった。」

その言葉と同時に会場に鐘が鳴り響いた。

試験開始の合図だ。


「お前らー。今日は申告試験”体力”の日だー。間違えた奴は今から10数える間にバッチを外して地面に捨てろー。そしたら参加しなかったことにしてやるー。」

試験官の声がグラウンドの至る所から響いてきた。

やっぱり仕掛けがあったみたいだ。

「3・・・2・・・1・・・ゼロー。よし今残っている奴を受験者として認めるー。」

聞き逃すなオレ。多分課題は1回しか説明してくれない。

「試験は簡単だー。指定のエリアに敵を放ったから次の鐘がなるまでに倒せー。死ぬなよー。」

その声と共にグラウンドの地面がせり上がった。

土の壁だ。

オレがいる場所の広さは大体半径10mくらいだろうか。

高さは4、5mくらいある。

「うわ!なんだこれ!」

「敵!敵は何処だ!」

他の受験者の声も聞こえる。

やっぱり受験者は互いの存在が分からないようにされていたらしい。

「ちなみに今回は個人課題だー。他人を助けたらその時点で両者失格だからなー。それに故意の妨害は永久的な受験資格のはく奪だから覚悟しとけよー。」

なるほど。姿を隠させる魔法は不正対策だったのか。

学校も大変だな。魔法があるとどんな不正があるかわからないし。

「ケケケ。よそ見すんなよなー。」

声がした方、壁の上を見ると何かが立っている。

剣や盾で武装した兵士のような影だ。

「ケケケ!ケケケケ!!」

奇妙な笑い声と共に壁を飛び降りた。

「ゲゲッ!」

・・・影は着地の衝撃でぐしゃりと潰れてしまった。

「え?もしかして終わった?」

しばらく待っても動く気配はない。

本当に試験終了かもーーー

「ケケケ!そんな訳ないよなー!」

影はあり得ない方向に曲がった腕でオレに剣を投げつけた。

オレは咄嗟に横っ飛びをして回避する。

改めて敵の姿を確認するとそいつの顔には口しかついていなかった。

そしてグネグネと何かに引っ張り上げられるように立ち上がる。

「あれだ。人形を操る魔法。」

先生と教えて貰った受験対策の一つだ。

想定したパターンの中で一番オレ向きの試験。

「ならやることは決まってる。速攻だ!」

オレは熱を開放する。

すると渦が段々と大きく、熱くなる。

相手が人形なら焼き尽くすだけだ!

「ケケケ。それができるならなー!」

人形は持っていた盾をオレに向かって投げつけた。

でも今回は身構えていたので難なく回避できる。

「ケケケ!ケケケケ!!」

人形はめちゃくちゃな走り方で近づいて来ると腕をブンブンと振り回した。

「これで終わりだ。熱風(ヒート)!」

「ゲゲゲ!・・・ゲェ。」

オレは溜めた熱を風に乗せる。

高温の風に焼かれた人形はバラバラになり、破片となって散らばった。


「なんだか呆気ないな。申告試験はもっと難しいって聞いてたのに。」

人形を風魔法で突っついてみても反応はない。

熱探知をしてもこのエリアにはオレ以外誰も居なかった。

だけど土の壁は崩れないし合格のアナウンスもない。

他の受験者が終わるまで待ちぼうけなのだろうか。

「お前小さいくせにやるなー。じゃあ追加の課題だー。」

崩れ落ちた人形から再び声がすると破片がグネグネと膨らみ始める。

膨らんだ破片はくっついて、最後には3mくらいの巨大な人形になった。

「ギャギャギャ!」

人形は腕に勢いをつけている。

マズイ。ここを薙ぎ払うつもりだ。

突風(ブラスト)!!」

オレは突風を生み出すと同時にジャンプする。

するとオレは吹き飛ばされて大きく移動した。

「痛ー!これ嫌なんだよな。」

無様に地面に転がったが攻撃は回避できた。

「でもオレの魔法はさ、相手のでかさはあんまり関係ないんだよね!」

オレはこのやり取りの間も溜め続けていた熱を心臓に集める。

鉄格子を破った時と同じ超高温の状態だ。

「ギャギャギャ!ギャギャギャギャギャ!!!」

巨大人形はこちらを振り向きゆっくりと近づいてくる。

「大人しくしろ!」

オレは空気の手で巨大人形の腕を掴む。

「ギャギャ!」

巨大人形はそれを気にも留めず前進する。

オレの空気の手にはそれを押し返すだけのパワーはない。

でも問題はそこじゃない。

「掴まれてるよお前。オレにさ。」

オレは全力で熱を発散する。

すると熱は空気の手を通して直接相手の体を熱した。

「ギャギャギャ!!」

巨大人形はそれすらも気にせず前進を続け、もう一度腕を薙ぎ払った。

・・・いや薙ぎ払おうとした。

巨大人形が腕を振りがぶった瞬間、オレが掴んでいた部分が弾けた。

「ギャ?」

人形は何が起こったかわからず自分の腕を見る。

「人形じゃ熱さはわからないだろ!」

続いてもう片方の腕も奪う。

「ギャギャ!!!!」

時間をかけて何が起こったか理解したようで、今度は足を振りかぶる。

当たれば必殺の蹴り。

「でもそれは一番楽だ。」

オレは両腕で相手の軸足を掴む。

すると足が弾けその巨体は崩れ落ちた。

「ギャッ!」

崩れた衝撃で巨大人形はぐちゃぐちゃになってしまった。

今度はさっきより原型を留めていない。

でも念のためトドメを刺してしまおう。

「あー!待て待て落ち着けー!それ高いんだぞー!」

どこかから声が聞こえると先ほどの試験官が現れてオレを制した。

「えと、試験は終わりでいいですか?」

「仕方ないなー。ホントは次の段階も用意してたけど相性が悪そうだしなー。お前は合格でいいぞー。」

「やった!合格だ!」

なんだか試験官の都合で後半を免除して貰えた。

超ラッキーだ。


「お前アンドレの紹介だろー?難しめでも大丈夫って言われてたからなー。これなら土人形(ゴーレム)にしてやればよかったなー。」

土人形(ゴーレム)か、土人形(ゴーレム)は熱も風も効き辛い相性の悪い相手だ。

奥の手はあったけど疲れるから使わずに済んでよかった。

「今回のこれは何人形だったんですか?」

「キメラ人形だー。動物の死骸を捏ねて作る奴だなー。臨場感があって試験向きの人形だけど弱点が多くてなー。」

聞かなきゃよかった。

でも素材が生き物なら熱が通りやすい。

今回は運が良かった。

「私はこれ回収するからなー。お前はさっさと帰れー。他の奴の邪魔すんなよー。」

試験官はパチリと指を鳴らすと視界がぐにゃりと曲がる。

視界が元に戻ると入ってきた出入口にテレポートしたことに気が付いた。


テレポート酔いでしばらく座り込んでいると声を掛けられた。

「君大丈夫?立てる?」

聞いたことのある声だ。

「大丈夫。ちょっと酔っただけ。」

差し出された手を取って立ち上がる。

「元気ならよかった。」

相手の顔を見てオレは仰天した。

その相手はエミール王子だった。

焦って周囲を見るとカリファと呼ばれていた従者が綺麗な顔を限界まで歪めてこちらを睨んでいるし、周囲の生徒、先輩達がハラハラしながら見守っている。

「ごめんなさい!不敬でした!」

「いいよ。同い歳の受験生は少ないから、助け合いだ。」

オレの歳をを知ってるみたいだ。

でも王族ならそれくらい聞けば誰でも教えてくれるから不思議じゃないか。

「新入生の最年少は私だと思ってたのにね。今年は後二人もいるって聞いたからどうしても友人になりたくて。君を待っていたんだスヴェン・ツオイス君。」

・・・厄介事の気配。

人間関係に色々悩まされたから正直目立つのは避けたかった。

でもここで「嫌です。」なんて言ったら首が飛びそう。

「えと、嬉しいです。よろしくお願いします。エミール王子。」

王子は満足げに微笑む。

「これで友人が二人もできた。この学校に来てよかった。」

「殿下。個人を贔屓するのはよろしくありません。」

カリファがついに釘を差した。

「相変わらず厳しいねカリファは。じゃあスヴェン、明日の試験も互いに頑張ろう。」

エミール王子はオレに手を振りながら去って行った。


オレはエミール王子が去った後、少し考え事をしていた。

”互いに”ってことは王子も同じ試験を受けていたようだ。

そしてオレより早くクリアしてここで待っていたことになる。

「オレも相当頑張ったんだけどなー。」

王子は実力者のようだ。

でも王子の話にはそれ以上に気になる話があった。

「オレと同い歳でオレより早く試験をクリアした人・・・。」

そして冒険者学校を受験する可能性のある人物。

「アレク君もこの試験受けてたのか。」

アレク君は特待生として卒業後すぐに冒険者学校に旅立った。

本来なら受験不要な立場、つまりは貴族と同じ扱いのはずだ。

だけど今年の”例外”に巻き込まれて参加することになったのだろう。

「まだまだ追いつけないのかー。」

ちょっと残念だ。

けれど体力試験はとりあえず合格したし、気を取り直して明日の試験に備えよう。


オレは昨日よりも軽い足取りで宿へ向かった。

人物紹介

アレク・イージス

幼馴染。才能の塊で性格良し。

冒険者学校には特待生として1か月先に旅立っていた。


体力試験の試験官

子どもの姿をしたエルフ族の試験官。

恐らく人形。

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