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第53話 入学試験

入学試験当日。

入試の手続きを問題なく終えたオレは待機室で試験概要について確認していた。

「よし!どれも先生と準備した内容と一致してる。これなら大丈夫そうだ。」

試験は体力・魔力・知力の3科目。

そしてどの試験も基本試験と申告試験に分かれていて、基本試験は必須で申告試験は好きなだけ科目を選んで受験する。

合格条件は受験した全ての試験で60点を取ることだ。

さらに各試験のそれぞれの項目で60点以上だと合計点に加点される。

例えば体力の科目でランニングと遠投があるとする。

ランニングが40点、遠投が80点なら合計点は100点。

ランニングが60点、遠投が60点なら合計点は120点になる。

正直な話、基本試験で60点を取るのは非常に簡単だ。

種族や出身地を問わないこの学校では、最低限の体力と技能、知識があれば合格できる。

知力の基本試験なんて『冒険者になるにはギルドで登録証の発行が必要である。はい or いいえ』というレベルの常識問題だ。

じゃあなんで60点以上に加点する仕組みがあるのか。

それはこの学校では専攻分野の受講に制限があるからだ。


入学後専攻分野を受講するには対応する申告試験に合格する必要がある。

そのため全ての専攻分野を受講したければ、3科目の基本試験と申告試験の計6つに挑戦する訳だ。

だが当然リスクもある。

合格の条件が”全ての試験で60点”である以上、試験数が増えると不合格になる可能性も高まる。

そして申告試験は一変して高難易度だ。

それだけ専攻分野の授業が人気ということになる。

授業の定員を超える場合は点数の高い方が優先されるので高得点に越したことはない。

そのためにこの1か月間、オレは先生と二人で準備してきたのだ。

全科目受験して合格する。

それが目標の為の第一歩になる。


「受験生の皆さん!グラウンドに入ってください!」

試験官の号令で試験が始まった。

周囲の雰囲気は気楽なもので試験の合間には談笑が聞こえたし、体力・魔力の試験ではずっと喧嘩している二人組がいたくらいだ。

試験官は注意どころか気にも留めていなかった。

これくらいの妨害で試験に落ちるようなら冒険者には向いていないということだろうか。


特に問題なく1日目の試験は終了した。

1日目は基本試験の3科目を受験。

2日目以降は1日ごとに体力、魔力、知力の申告試験が実施される。

明日以降の試験に備えて今日は早く宿に戻ろう。

そう思って帰り支度をしていると辺りがにわかに騒がしくなった。

「キャー!あれって例の”王子様”じゃないかしら!」

「かっこいい~。やっぱり王族は血筋が違うのね!」

「まだ12歳なのにすごいわ!才能の塊ね!」

後ろを振り向くと狭い待機室なのに扉までの道が綺麗に開かれていた。

なるほど彼がタナトリス王国第9王子のエミール王子か。

彼の受験に関しては街で大々的に宣伝されていた。

わざわざ首都から受験に来ているらしい。

貴族階級は入試試験不要なので王族の彼は当然受験する必要がないのだが、本人たっての希望で受験する運びになったようだ。

「ごめんよ皆、私の我儘で迷惑をかけるね。できれば私のことはあまり気にしないでくれ。今は同じ受験生だ。」

「いけませんエミール様。あなたは王族で彼らは市民です。」

王子の発言に周囲はざわつくがお付きの女性の一言でシンと静まった。

「カリファは厳しいね。それなら我々は早く出ようか。」

「承知しました。・・・皆道を開けなさい。王子が通ります。」

すでに開かれていた道がさらに限界まで開かれると王子は申し訳なさそうに退室していった。

オレと同じ年だっていうのに王族も大変なんだな。

「なんじゃい。王族は受験不要じゃろが。」

不意に頭の上で爆弾発言が鳴り響いた。

全員が一斉にこちらを振り返る。

オレじゃない!オレじゃないよ!

「君不敬ですよ。高位の方々のお心など我々が察せるものではないのです。理解できないのは仕方がありませんがせめて黙っていなさい。」

「ああ?理解もクソもあるかボケが。唯の事実じゃろがい。」

「・・・貴方は周囲への配慮というものがまるでありませんね。試験中も不平不満をつらつらとしゃべっていましたね。はっきり言ってこの学校に相応しくありません。」

「てめぇも同じじゃろが!試験中だから我慢しとったがもう我慢の限界じゃ!今ここでシバキ倒したるわ!」

お前らか!試験中ずっと喧嘩してたのは!

言葉が荒い方は狼の獣人族(リカント)で、真面目な方は普通の人族だけど衣装からすると貴族なのかな?

「止めんか馬鹿者共が!」

怒声が鳴り響き両者を制したのは甲冑姿の少年だった。

すごい格好だ。・・・もしかしてあのマントも金属製か?

「申し訳ございません!どうかお許しくださいデリック様。」

「その甲冑、辺境伯の(ボンボン)か。・・・チッ、運がいい奴じゃ。二度とワシの前に面出すんちゃうぞボケナス。」

そう吐き捨てて獣人族(リカント)は部屋を後にした。

「デリック様。何なりと処罰をお与え下さい。」

真面目な方は捨て台詞を気にも留めず跪いていた。

「お前は正しいが周りの迷惑だ。罰は屋敷で言い渡す。」

「仰せのままに。」

静寂に包まれた部屋から二人が退室しことでやっと安寧が戻った。

・・・オレの同級生インパクトが強すぎる。


学校を後にして宿屋に戻る途中、例のハレンに話しかけられた。

「やあ未来の後輩君。今日の試験はどうだった?もしかして落ちた?」

「手応えは十分です。問題は明日からの試験だと思うな。」

ハレンは腕を組んで頷く。

「だろうね。私の見込んだ後輩君だからそれくらいは当然さ。」

「でもちょっと不安です。」

「何かあったの?」

「同じ受験生にその・・・濃い人達が多くて。」

「もしかしてひと悶着あったのかな?あはは!毎年毎年冒険者ってのは飽きないね!」

ハレンの反応からするといつもの事のようだ。

「今年は王子と辺境伯の孫が受験するからね。王子が受験するって言うもんだから貴族たちもこぞって一般受験しているのさ。まあ貴族は試験の結果はどうあれ入学は決まっているけれど。」

王族の思い付きと貴族の見栄でオレ達が迷惑しているのか。

それはちょっと嫌だな。

「入学後もああ(・・)だと思うとちょっと。」

「大丈夫だよ。乱暴なのは大体戦闘系の専攻しか取らないから。後輩君は魔法専攻でしょ?」

「えと、全部です。」

「うわ、志高いね。それならまあ・・・頑張って!」

ハレンは何の役にも立たないアドバイスをして去って行った。

でも不安を話せて少しスッキリした。

不安の種をオレがどうこうできる訳でもない。

明日の試験に備えよう。

人物紹介

エミール王子

タナトリス王国第9王子。12歳。

イケメン(になりそうな顔立ち)。


カリファ

エミール王子の付き人。女性。


デリック

レイヴン領辺境伯の孫。

全身甲冑姿でマントも金属。重そう。

背丈から見るにオレと同じくらいの年齢かも。


真面目な人

デリックには頭が上がらないみたい。


乱暴な獣人族(リカント)

言葉遣いが荒い狼の獣人族(リカント)


ハレン

学校の先輩。

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