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第52話 新しい生活

「次の方、前へ。」

オレは1歩前に出る。

「ようこそレイヴン領へ。観光ですか?それとも商売?・・・いえ、冒険者志望ですかね?」

「冒険者志望です。」

「恰好からすると冒険者学校の受験生ですかね。失礼ですが出身は?」

「チャート領です。」

「チャート領ですか、お隣ですね。・・・では紹介状をお持ちですか?あるいは冒険者ギルドの登録証など。」

「どちらも持ってます。」

「では両方お見せください。・・・紹介状に不備なし。こちらをお返ししますね。」

「ありがとうございます。」

「登録証の方は・・・銅クラスの緑装飾ですか。では問題ありませんね。こちらもお返しします。」

「ありがとうございます。・・・あの、問題ない理由を聞いてもいいですか?」

「大丈夫ですよ。赤装飾の方は問題を起こしがちなので最初に冒険者ギルドに向かうようにお願いするんです。」

「なるほど・・・勉強になりました。」

「これで審査は完了です。では改めまして、チャート領のスヴェンさん。」

門番は後方に合図を出し門を開けるよう指示する。

「ここはレイヴン領グランマーク市。知識と冒険を求める若者の街。あなたの成功を祈っています。」

オレはついに勇者になるための第一歩を踏み出した。



「やばい、建物が多すぎてどこに行けばいいかわからない。」

オレはきょろきょろと辺りを見渡す。

街に入ってから商店、屋台、商店、屋台・・・。

その後ろには3階建ての住居が並んでいる。

何か・・・何か目印はないのか?

「あら”御上りさん”からしら?」

振り向くとやたら肌が出た服を着たお姉さんに話かけられた。

「御上りさん?って何ですか?オレはスヴェンって言います。」

「ふふふ、可愛いわね。ねえ、うちの店寄ってく?そしたら何でも答えてあげるわ。」

「えと、あんまりお金無いので・・・。」

「安くするから。ね、行きましょう?」

お姉さんはオレの手を握り目をじっと見つめた。

・・・握った手を通して魔法の予兆を感じる。

トロリとしてじわっと熱い感覚。魅了(チャーム)だ。

「じゃあ行きましょうね。」

お姉さんはにんまりしてオレの手を引く。

「ごめんなさい。オレ急がないとなので。」

オレは引かれた手をするりと引き抜くと踵を返した。

「え?あ、どうして?」

「体質というか、そんな感じです。」

「へー、すごいわね。私この魔法自信あったのにな。・・・じゃあ未来の後輩君。」

「もしかして冒険者学校の方ですか?」

「ええ。フォーマルハウト所属よ。」

「やった!今日は冒険者学校の下見に来たんです。明日の試験のために場所確認しないといけないから。」

「うんうん偉いね。じゃあ学校の場所教えて欲しいでしょ?」

「教えて欲しいです!」

「じゃあ私ともう一回勝負しましょう。」

「勝負?さっきのは勝負だったんですか?」

「当然よ!私の専攻は精神魔法学なの!受験生のお子様に負けたままじゃ帰れないの!」

お子様か。確かにオレは12歳になったばかりだ。

そしてこのお姉さんは3つか4つ上くらいだろうか。

「専攻ってことは、上級生なんですね。」

「ええ、私はハレン。」

ハレンは手を差し出した。

「スヴェンです。」

オレは握手に応じる。

「じゃあ受けてくれるってことでいいのよね?」

「はい。お願いします。」

「大した自信ね。気に入ったわ。」

ハレンはオレの背中にまわると後ろから抱きしめた。

柔らかい感触と良い香りがオレを包む。

「あなた”知覚”は触覚なんでしょ?じゃあこういうの効くわよね。」

さらに体を密着させて全身で体温を伝える。

魅了≪体≫(チャーミング)

先程よりも強い熱が全身に伝わる。

その差は倍以上だ。

これが魔法専攻の実力か。

「さあ、今度こそお姉さんについてきてくれるわよね?」

「・・・あの、すみません体質なんです。」

「ええー!うそー!」

ハレンはがっかりした様子・・・でもないな。

案外ケロリとしている。

「なんてね。いい経験になったわ。あなたのそれ(・・)、何をやらかしたのかしら。」

「昔出会った女の子に貰ったもの・・・だと思ってます。」

オレは右手で首元を触る。

「へぇ、大事にしなさいよね。」

「もちろんです。」

「勝負はオレの勝ちでいいですか?」

「当然あなたの勝ちよ。それじゃあ案内してあげるわ。」

ハレンは上着を着ると街を色々と案内してくれた。

冒険者ギルド、武器防具屋、ポーション屋、飲食店、あとハレンのバイト先とか。

「そしてここが我らのレイヴン冒険者学校よ!」

「うわ!でっかー!」

まず正門がでかい。

さっき町の門を通ってきたばかりだけど、こっちの方が明らかに装飾が派手だ。

それに辺りを見渡してもどこで学校の敷地が終わっているかわからない程だ。

そもそも建物がいっぱいで敷地の端を視認することができなかった。

「いい反応ね。因みに学校の”敷地”っていうならその範囲はグランマーク全体よ。」

「えー!」

「うんうん。最初は皆驚くのよ。」

「そんなの思いつきもしませんでした。」

「わかるわ。でも安心して、しばらくはこの建物しか使わないから。入試もここよ。」

「あの、ハレンさん。色々ありがとうございました。」

「いいってことよ。冒険者は助け合いでしょ。・・・あなたのそれ(・・)今度研究させて頂戴ね。」

ハレンは手を振って門の方へ戻って行った。

今度こそ誰かが犠牲になるのだろう。可哀そうに。


宿屋と学校の順路を確認した後、改めて周囲を見渡す。

正門の近くではオレと同じような受験生がちらほら見かけられた。

「とりあえずライバル達に勝たないとな。」

オレは再び右手で首元を触る。

これはミーシャとの友情の印。再開の約束だ。

この印に触れているとあの日々を鮮明に思い出すことができる。

「今日はもう宿屋に入って、受験前の最終確認をするか。」


こうやってオレの新しい生活が始まった。

人物紹介

ハレン

冒険者学校の先輩。16歳前後。

精神魔法学を専攻している。


単語紹介

レイヴン冒険者学校

知識と冒険を求める若者が集う学校。

良い意味でも悪い意味でもなんでもあり。

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