第51話 祝春会 4日目ーお別れの時間ー 前半
作戦は簡単だ。
熱の渦をあいつにぶつけて、魔法が一つになった瞬間そのコントロールを奪う。
そしてその魔法をオレの体を通して魔力の状態に戻す。
後はミーシャがその魔力を使ってあいつを操る。
これで終わりだ。
「オレをしっかり掴んでてね。風で飛ばされないように。」
「ええ。頑張って、スヴェン。」
ミーシャが後ろから抱き着く形でオレに掴まる。
ーーー暖かい。心地の良い熱だ。
心臓が高鳴る。
全身に熱が広がり、あふれ出した熱は渦を作り出す。
準備はできた。
「おい!こっちだデカブツ!」
その言葉に反応してあいつはこちらを向いた。
さっきまでとは違い、見つけた瞬間に突撃はして来ない。
オレたちのことを警戒している。
そしてオレが魔法の準備をしていることに気が付いたのか、小さく唸り声をあげ目を細めた。
あいつの周囲の空気が押し潰される感覚。
風魔法を使う気だ。
無意識の防壁じゃない、意志を持って放つ魔法。
これで魔法のコントロールを奪うのはより難しくなった。
でも大丈夫。オレは一人じゃない。
ここまでオレを送り出してくれたみんな。
何より守りたい人が隣にいる。
「ねえミーシャ!みんなから伝言を頼まれてるんだ!」
「それ今じゃないとダメ?!」
「あいつを倒したら言うからさ!どっか行ったりしないでよ!」
「わかったわ。逃げないから。・・・来るわ!」
「グオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!!」
限界まで圧縮された空気が弾けた。
魔法に誘導された暴風の渦はオレたち目掛けて吹き荒れる。
「うおおおおお!!!熱風!!!」
立ち向かうには小さな熱の渦。
オレたちの渦は一瞬で飲みこまれ一つの渦となった。
「ここだ!!!」
熱から意識を手放すな。
渦全体に意識を広げろ。
風がオレたちを包み込むイメージ!
「うぐぐ!!!」
予想は正しかった。
混ざりあった渦はオレ言うことを聞いてくれている。
だけど勢いをコントロールしきれない。
このままだと二人ともどこかに吹き飛ばされてしまう!
「くそ!きつい!・・・うぎぎぎぎ!」
次は体に取り込んで魔力にしないといけないのに・・・。
「グオォ!」
予想外の出来事に面食らっていたが、オレがこらえ切れていないのを察したのか魔法の出力を上げてきた。
「や、ばい・・・かも・・・。」
抑えきれない風が渦から飛び出し、辺りの木々をなぎ倒す。
限界か?オレじゃできないのか?
ここままじゃ二人共・・・。
『スヴェン。』
頭の中にミーシャ声が響いた。
『私を感じてスヴェン。』
オレは目を閉じる。
ミーシャの声に意識を向ける。
『私の手を握って。』
頭の中に白い影が浮んだ。
オレは影の手を握る。
『もっと強く。私を感じて。』
握った手に力を込める。
するとオレの手が影の手に入り込んだ。
わかる。オレとミーシャの境界が曖昧になる。
ふわふわとただどこかに浮かんでいるような。
昔どこかで感じたことのある感覚。
『さあ、反撃よ。』
オレは再び目を開けた。
渦全体のどの部分がオレのモノでどの部分があいつのモノか、はっきりとわかる。
魔法への感覚が研ぎ澄まされる。
今なら何だってできそうだ。
「風がオレたちを包み込むイメージ。」
渦全体にオレたちの意思が広がる。
あいつの意思を押しのけて、端まで。
「グゥゥ!」
驚いたような鳴き声だ。
あいつも感じているのだろう。
魔法のコントロールを失う感覚を。
「グオオ!・・・グオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!!」
魔法での攻撃を続けるのはマズイと察したのか、魔法を中断して突進攻撃に切り替えてきた。
だけど魔法を中断したってことは今までの分全部くれるってことだよな!
「今までの逆だ。溜めた魔法を、熱を魔力に戻す!」
渦がオレの心臓に飲み込まれ始める。
そして全身から”オレ味の魔力”として溢れ出た。
「まさか本当にやるなんてね。・・・これ全部貰うわよ!」
ミーシャに触れられた部分からすごい勢いで魔力が吸われていく。
頭がくらくらする。気を抜いたらそのまま倒れてしまいそうだ。
「ご馳走様。・・・今度こそ正真正銘、私の全力を見せてあげるわ!」
「ミーシャ・イドリースが告げる。導きの声に従い、自らを正しき姿へと誘え。神託!!!」
「グォッ・・・。」
意識の糸は断ち切られその大きな体は横転した。
土煙を巻き上げながら坂を転がっていく。
途中大岩に頭をぶつけ鈍い音を響かせた後、今度はそのまま動かなくなった。
「あっ、そんなつもりじゃ・・・。」
「気絶しているだけかもしれない。熊はタフだからね。・・・でもこれでアレク君からの依頼は達成だ。」
親玉が倒れたなら、同種の魔物の繋がりは無くなったと思っていいだろう。
ウインドベアは元々警戒心が高くて臆病だから人を襲ったりはしなくなるはずだ。
「・・・あれ?体に力が入らないや。」
気が抜けたせいだろうか。オレは地面に座り込んで動けなくなってしまった。
「無茶し過ぎよ。」




