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第50話 祝春会 4日目ー勝利への道ー

ミーシャは今も戦っている途中の様で、どこにいるのかオレにははっきりとわかる。

オレは移動しながらもう一度熱の渦を体にまとわせる。

もうオレの位置がばれたって問題ない。

全力で準備を進めるだけだ。


木々の隙間から大きな獣が動く姿が見える。

あそこだ!・・・でもミーシャの姿が見つからない。

どこだ?どこかに隠れているのかな?

神託(オラクル)!!!」

「グオオァ!!!」

あいつ(親玉)の体がビクンと震え、走っていた勢いのまま地面に激突した。

「うわ。痛そう。」

しかしもう一度ビクンと体を震わせると何事もなかったかのように立ち上がる。

先程の衝突程度ではまるでダメージにならないようだ。

「はぁっ、はぁっ。」

荒い息遣いが聞こえる。

「ミーシャ。どこにいるの?」

「上よ。・・・逃げてって言ったのに。」

ミーシャは木の上に隠れていたようだ。

「女の子はお母さんと一緒だから大丈夫。それにオレはミーシャに話があるからね。」

「そう。ならもうあなたのことは止めないわ。」

ミーシャは飛び降りると風魔法を使いふわりと着地した。

「今どうなってるの?オレはミーシャがあいつを操ってるって聞いてるよ。」

「あの個体は例外よ。どこかから突然現れて暴れまわっているみたいね。」

「そうなんだ。でも後一体くらいミーシャの魔法で操れないの?ワイバーンの親玉だって操れたんでしょ?」

ワイバーンとウインドベアでは正直魔物の格が違う。

ワイバーンができてウインドベアができないのは変だ。

「極度の興奮状態で命令を受け付けないの。遭遇した時からそうだったけど、私が操ろうとしたから怒りの矛先がこっちに向いたみたいね。」

「そっか。じゃあ真正面から戦わなきゃいけないか。」

「ダメよ。私達が真正面から、それも魔法で戦える相手ではないわ。」

「やってみないとわからないよ。」

「わかるわ!ウインドベアの上位種は魔法使いに対して極端に強いの。風の防壁、魔法耐性のある毛皮、そして高いスタミナ。真正面から魔法をぶつけてもこっちが先に体力切れを起こすだけよ。」

「だから大人数人がかりで抑え込んで倒すんだね。」

「そうよ。魔法で対処するなら風の防壁に防がれない魔法が必要なの。私の神聖魔法のように精神に直接作用する魔法が。」

「でも、ダメだった。それに今ここにはオレたちしかいない。走っても逃げられない。そうだよね?」

「私の魔法が完全に効いていないわけじゃないわ。もう何度か試せば操れるはずよ。」

「本当に?」

「・・・他に手段がないでしょ。」

ミーシャはスッと目を逸らした。

「オレが戦うよ。そこで待ってて!」

「ダメよ!待ってスヴェン!」

オレは木陰から飛び出した。

そして今度こそあいつの目を真っすぐ見据える。

相変わらずすごい形相だ。

でも怯んではいられない。

「おいデカブツ!オレが相手だ!」


熱風(ヒート)!!」

オレは名乗りを上げるのと同時に溜めていた熱を一気に相手にぶつけた。

「グオオ!」

オレの熱とあいつの風の防壁がぶつかると周囲に風が吹き荒れる。

「うわっ!」

「きゃあ!」

周囲の木々が倒れ、オレとミーシャは吹き飛ばされた。

「ゴホゴホ!・・・大丈夫ミーシャ?」

「なんとか。でもわかったでしょ?魔法で押し切るのは無理よ。」

今のは間違いなくオレの全力の一撃だった。

それで傷一つつけれないなんて。

「もう一回!・・・をするには時間がないか。」

オレは熱を溜めるのに時間がかかる。

それに対してあいつの風の防壁はもう復活しそうになっていた。

「ずるいよみんな。攻撃を打ち消すだとか、風に守られてるだとか。」

オレは風の防壁を見てメイドの黒い渦、『魔女の回廊』を思い出していた。

・・・そういえばさっき”触って”みて気が付いたけど、風の防壁も渦を巻いていた。

オレの熱の渦と似たようなものなのか?

「ぼーっとしないでスヴェン!」

気が付くとあいつがこちらを目掛けて突進してきていた。

「やばっ!」

神託(オラクル)!!」

またあいつの体がビクンと跳ねるとオレたちの目の前をスライディングして通り過ぎていく。

「・・・ダメ。続けられない!」

ミーシャの魔法が弾かれてあいつが起き上がる。

「オレたちの攻撃は届かないけど、あいつの攻撃はミーシャが止められるね。」

「私の魔力が持つ限りね。さっきも言ったけどあいつはスタミナが売りの魔物よ。」

つまり時間が経てばオレたちが負ける。

それに時間をかければウインドベアの群れに襲われる人も増えるだろう。

オレの得意な持久戦は通用しないみたいだ。

「ねえミーシャ。黒い渦の魔法ってどう使うの?」

「無理よスヴェン。あれは適当に真似できる魔法じゃない。私だって1%も使いこなせていないわ。」

ダメか。でもオレはあれ以上に強そうな魔法を知らない。

「でも一か八か試してみる価値はーーー」

「ないわ。あれは多くの理論が組み合わさった魔法よ。スヴェンにはできない。」

組み合わせか。魔法は要素を掛け算した結果がやりたい事になって初めて発動する。

先生とファラド様に習ったことだ。

あいつの魔法に勝てる要素はなんだ?

あいつの魔法・・・そうか!

「・・・ミーシャ、いい事思いついた。」

「今度は何?」

「あいつと綱引きする。」

「・・・」

オレは人生最大の閃きをしたかもしれない。


「もっとうまく説明して。」

「えっと。メイドと戦った時、オレの熱の渦がメイドの黒い渦に引っ張られたんだ。」

「それで?」

「あいつの風の防壁は黒い渦に似ているでしょ?」

「多少は。」

「なら今回も同じことになると思わない?」

実際にさっき一度魔法がぶつかった時の衝撃は予想以上の大きさだった。

「渦と渦がぶつかると一つの魔法になるんだ。・・・多分。」

「それは・・・どうなのかしら。」

「もしそうなら渦がぶつかったときに、相手の渦もオレのものにできるかもしれない。」

「なるほどね。1つになった魔法の主導権争いを綱引きと表現したのね。でもその理論だと負けるのはスヴェンに聞こえるけど。」

「そうかも。でもちょっと自信があるんだ。」


「グオオォォォォ!!!」

またあいつが突っ込んで来た。

神託(オラクル)!!」

そしてミーシャが一瞬だけ意識を奪って攻撃を無力化する。

「ふう・・・。スヴェンはその綱引きに勝ったらどうするつもり?単純に魔法をぶつけても効果は薄いと思うわ。」

ミーシャの顔色がだんだん悪くなっている。

あんまり時間はなさそうだ。

「もう一つ考えていたことがあるよ。」

「まだあったの?」

「オレとミーシャは魔法の感覚が似てるよね。」

「そうね。」

「ミーシャって町にいる時、オレの魔力を食べてた?」

「・・・そうよ。私、夢魔族(サキュバス)だから。」

ミーシャがバツの悪そうに俯いた。

「いいよ。オレもこの外套から魔力を貰ってるんだ。おすそ分けだよ。」

オレは今は見えない外套を掴む。

見えてはいなくてもミーシャは伝わっているだろう。

「もしかしてなんだけど。オレの魔力を使ってミーシャが魔法を使えたりしない?」

「そんなこと・・・。できるかしら?でも前例が・・・。」

「試してみよう。それができるなら問題は全部解決する。」

「まだよ。最後の問題があるわ。私とスヴェンの魔力を全部合わせてもあいつの意識を完全に奪うには足りないわ。もっと何倍も必要よ。」

「熱を溜めるには時間も足りないね。でもほら、それはさっきの話だよ。」

「・・・奪った魔法をスヴェンが魔力に変換するってこと?・・・そんな!危険すぎるわ!」

「大丈夫。これがオレの、オレとミーシャのできること全部だ。」

ミーシャは不安そうにしているが反論はしなかった。


よし!これでやることは決まった。

あとはあいつに勝つだけだ!

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