第48話 祝春会 4日目ー後悔の無いようにー
オレは4人家族の”息子”の手を掴んで話しかけた。
「ねえ。オレと少しだけお話しない?」
「ッ!!!」
彼はギョッとしてオレの手を振り払う。
「ああケンカしないでこんな時に。どうしたの坊や?坊やも町の外に出たいの?」
お母さんが彼とオレを引き離す。
「もしかしてうちの息子が何かしたのかしら。そうであればお詫びはまた今度するから。」
オレは掌からお母さんへ視線を移してその瞳を真っすぐ見据えた。
「お願いです。今しかないんだ。」
その言葉にお母さんは何かを言おうとしてぐっとそれを飲み込むと、はぁとため息をついた。
「・・・あなたの駄々に付き合ってはいられません。おとなしくしていれば全てが穏便に済んだものを。」
「オレはーーー」
その言葉を遮るようにお母さんは腕を振るった。
「「グワッ!」」
「「ウワァ!」」
その衝撃で部屋にいた兵士はなぎ飛ばされた。
同時にお母さんの姿がぼやけ、長身のメイドが姿を現す。
予想が当たった。
「ミーシャお嬢様、外へ。」
ミーシャも元の姿を現すと扉を開けて外に飛び出した。
「ダメか・・・くそ!」
オレは小さな魔鉱石を取り出して魔力を込める。
魔鉱石からはけたたましい音が鳴り響き作戦”失敗”をメラニーに伝えた。
「追えば殺すと伝えましたよね?」
メイドはオレの心臓に照準を合わせ魔法を構える。
「あの子の生徒を手にかけるのは忍びないと見逃してあげたのに。なぜそこまでお嬢様にこだわるのですか?出会って一月も経っていないでしょう?」
「ミーシャとオレたちは友達なんだ。このままミーシャが帰ったら、今度出会うときは戦わなきゃいけない!」
「当然でしょう。こんなことしてもその結果は変わりません。」
「変わるよ!オレたちは”友達”だってちゃんと言うんだ!これからも仲良くできるって!」
「・・・子供の考えることです。理解しようとしたのが間違いでしたか。」
風の弾丸がオレの心臓へ向けて放たれる。
オレは全力でそれを受け止める・・・ことはできず壁まで弾き飛ばされた。
「もう一度だけ忠告しますね。この扉をあなたがくぐるなら今度こそ殺します。聞こえましたね?」
「そんな物騒な言葉を私の生徒に使わないでください先生。」
その声の主はメイド背後に一瞬で現れ、その喉元にナイフを突きつけた。
「グレジオね!もう何十年ぶり・・・いえ百年はたったかしら。元気そうでなによりだわ!」
「積る話は後にしましょう。降参して頂けますか?」
「せっかちなのは変わらないわね。だからあなたの生徒も生き急いでしまうのよ。」
「彼らは短命ゆえにその一瞬を全力で生きています。だから我々は彼らを支えてあげるべきなのです。私達は敵になったとしても、生きていればこうして出会えるのですから。」
「いい先生になったのねグレジオ。じゃあ私に高説を垂れる実力があるか確かめさせて貰うわ。」
メイドはナイフをむんずと掴むと、血が吹きでるのもお構いなしにナイフを奪い取った。
しかし次の瞬間には滴る血は止まっている。
「神聖魔法便利ですね。ですが無敵ではありません。」
グレジオ先生はメイドの腕を掴むと地面へと投げ飛ばす。
そしてすかさず地面に組み伏した。
「対策してるのね。でもこんな攻撃意味がないわ。私の”回廊”を越えるにはあなたの本気の魔法が必要でしょう?」
「そうかもしれません。でも今必要なのは時間です。」
そう言ってオレの方をちらりと見る。
吹き飛ばされて頭がジンジンするがまだ動ける。
それに兵士も何人かは起き上がり始めている。
「あれ?どういう状況だ?」
「全員この場を離れて!この人は私にしか止められません!」
「はい!」
その声の勢いに兵士たちは気絶した仲間を引きずって安全な場所へ移動させ始めた。
その様子を確認した後、先生はオレを改めて見据えて言った。
「スヴェンさん。あなたの後悔の無いように、自由に動きなさい。」
「ありがとう先生!」
オレは外への扉をくぐり外に飛び出した。
「随分と献身的ね。あの子あなたのお気に入りなの?趣味が悪いわ、”あの女”のお手付きだなんて。」
「私は生徒の味方です。いつでも、いかなる時でも。そうでしょう先生。」
「嬉しい事言ってくれるじゃない。・・・私も今の生徒の為に本気出さないとね。」
二人を中心に黒い歪が発生し、部屋を浸食し始める。
それを見た兵士は慌てて内側の扉をくぐり脱出した。
「なんだよ、これ。」
扉の方を振り返ると黒い渦が部屋を包み込み、もう誰も通ることはできなくなっていた。
そのころオレは扉をくぐりミーシャを姿を探していた。
急いで熱を溜めるが渦ができるまで時間がかかりすぎる。
それに渦が大きくなるよりミーシャが走った方が速い。
くそっ!ミーシャが魔法を使ってさえくれれば!
「落ち着けオレ!考えろ!」
やみくもに走るのは絶対ダメだ。
何かないか?手掛かりになるもの・・・。
「スヴェン君。ミーシャならあちらに走っていったよ。」
その声にはっと顔を上げるといつの間にかアレク君がオレの隣に立っていた。
「うわ!アレク君どうしてこんなとこにいるの?」
「東門でウインドベアを追い払ったと思ったら、今度は北門でとてつもない魔法の衝突が起きたからね。急いで見に来たのさ。」
「それは先生とメイドの・・・えと、メイドってのはミーシャのメイドでーーー」
「大丈夫だよスヴェン君。大体想像がついた。」
やっぱりアレク君はすごいな。
「オレ、ミーシャを追うよ。」
「そう言うと思ったよ。僕もついていくさ。」
オレたちはミーシャを見かけた方角に向けて走り出した。




