世話の焼ける話
私、アロナ・カウントは老舗のポーション屋の跡取りとして生まれた。
おばあちゃんは領主に直接品を卸しているし、チャート領で高級ポーションと言えばうちの店というくらい有名だ。
両親もそうだったし、私も当然家業を継ぐものだと思っている。
・・・両親は王都に店を出すって行ってしまったけど。
学校に入る前からアレクとメラニーとは知り合いだった。
どちらも領主や軍に品を卸しに行くときに軽く話したことがあって、どっちも近所の子供達とは比べ物にならないくらい大人びていた。
将来そんな二人を相手に仕事するならもっと頑張らないとダメだし、一人前の職人になっておばちゃんを安心させたい。
そう思って過ごしていた。
いざ学校に入学するとスヴェンとかいう、いかにも子供っぽい奴が入学してきた。
スヴェン・ツオイス。家名は良く知っている。
チャート領から王都に進学した初めての生徒、タクチャー・ツオイス。
そして王都では色々論文を出していて、それになりに活躍しているらしい。
そのおかげでここ1、2年は王都の最新技術が流れてくるようになり、チャート領全体の技術が大きく伸びた。
私としては尊敬できる先輩だ。
それの弟がどうしてああなのかは正直理解できない。
結局私はスヴェンとは関わらないことにした。
人生とは思った通りに行かないもので、ポーション実習の際にメラニーがスヴェンをグループに誘ってきた。
正直普通に嫌だったが私が講師側だったこともあり断りにくく、仕方なくポーション作りを教えることになった。
予想通りスヴェンは適当で、それが私をイライラさせた。
出来たつもりで調合を進めるし、湯だった煮汁に指を突っ込むしで見ているこっちが頭がおかしくなりそうだった。
・・・それでも最後までやろうって姿勢だけは伝わってきたし、今回は諦めて助けてあげることにした。
その後はアレクがスヴェンを”冒険”と称してあっちこっちで引っ張りまわしていた。
本当はアレクの隣にはメラニーがいるべきだと今でも思う。
でもアレクのややこしい立場を気にせずついていけるのは、あのおバカぐらいなんだろうと納得できる部分もあったし、何よりメラニーが気にしていなさそうなので何も言わないことに決めた。
私があれこれ世話を焼いてあげたおかげか時間が経つと男子3人でつるむようになり、薬草を納品した後はうちの店で過ごすことも多くなった。
そこで3人が仲良くしているの見ていて、私も女子の友達が欲しいかなって。
そう思うこともあった。
祝春会の発表には人生で一番真剣に取り組んでいた。
この発表で優秀賞に選ばれることは結構名誉なことで、他領の冒険者や商人も足を運んでくれる可能性が高くなる。
結局は男子共を入れて4人で発表することになったけど、私しか担当できない部分が多くて祝春会に間に合わない可能性があった。
祭の直前にはアレクが作業できなくなることは予想出来ていたし、おばあちゃんは体を悪くしている。
誰か相談に乗ってくれる人さえいれば・・・。
そう思った矢先に現れたのがミーシャだった。
ミーシャは賢くて覚えが良くて、何より聞き上手だった。
彼女が地元に友達が居ないなんて信じられなかったし、超過保護な彼女の親に対して怒りさえ覚えた。
・・・それもどこまでが本当だったのかは今は分からないけれど。
・・・階段を下りる音がする。
私は頭上げて扉を見つめた。
キィと小さく音がしてファラド様が入ってきた。
「・・・そこで何をしている?ここは立ち入り禁止だ。すぐに出てきなさい。」
「いいえ、離れることはできませんファラド様。」
そう答えるとファラド様は眉に皺を寄せて私に質問した。
「誰の指示だ?私はそんな話は聞いていないが。」
「私の意思です。私の意思でここにいます。」
それを聞いてより一層表情が険しくなる。
「・・・手荒真似をさせるな。外の衛兵を呼んでつまみ出させるぞ。」
「やってみなさいよ。どうせできやしないわ。外の衛兵は伸びてるか寝てるのか、使い物にならないんでしょう?」
「ここは役所の中でも限られた人しか入ることができない場所だ。誰の許可でここにいる!今すぐここから出ていけ!」
「許可なんてないわ!アレクがあなたがここに来るって言ってたの。そしてこれを守れるのは私だけだってね。」
私は手に持っていた、こぶし大の琥珀を掲げて見せた。
「アロナ!それがどれだけ貴重な物か理解しているのか!今すぐ私に渡せ!さもないとーーー」
「さもないと攻撃するって?やってみなさいよミーシャ!」
その言葉を聞いてファラド様の偽物はドキリとした表情をして固まった。
「変身魔法でしょ?聞いたわよ。」
「・・・アロナ。それを渡して。」
ファラド様の姿が歪んだかと思うとそこにはミーシャが立っていた。
「嫌よ、渡す訳ないでしょう。あんたこそ家に帰んなさいよ。誰にも言わないであげるから。」
「そうはいかないわ、私はそれを持ち出すためにこの町にきたの。私の計画の為には絶対に必要なのよ。」
「あんたこそこれが何か知っているの?わかっていたらこの問答は意味の無いものだわ。」
私はもう一度琥珀を掲げる。
「当然よ。それは精霊イージスが宿る魔鉱石。イージスと契約して力を借りるために必須の祭具。」
「だったらこれを持ち出したら町の皆がどうなるかわかるわよね?それだけは絶対にさせないわ。」
「・・・町の外魔物達は私に絶対服従しているの。だからあなたがそれを渡してくれるなら、外の魔物達を撤退させると約束するわ。」
「ダメよ。あの化物達を絶対服従させるなんてありえないわ。聞いたことないもの、そんな魔法。」
ミーシャは少し俯いた。
何か迷っているように見える。
「説明してみなさいよ。聞いてあげるから。」
「・・・私は夢魔族の中でも特別な魔法が使えるの。でもそのせいで誰からも仲間だと認めて貰えなかった。」
「特別な魔法ね。洗脳でもできるのかしら?」
「似たようなものね。私は神聖魔法が使えるのよ。」
「なにそれ?聞いたこともないわ。」
「初代勇者の時代に数人だけ使えたとされる魔法よ。伝承では”神にも届く魔法”と記されていたわ。」
「”神”ってのはよくわからないわね。人族は”道の勇者ストリト”に祈るものだし。『私の旅路に加護をお与えください』ってね。」
「神はこの世界を作った創造主よ。魔族では龍と魔王と教えられているけれど、本当かどうかは知らないわ。」
「へぇ。なんだか嘘くさいわね。」
「大事なところは使い手が”少ない”ってところよアロナ。魔族は使える魔法が似ているかが重要なのよ。そして私の魔法は誰とも似ていなかったわ。先生を除いてね。」
「それは災難だったわね。ならあなたの決断は正解だわ。人族に来ればあなたは大人気なんだから。知ってる?町ではあなたのこと噂になってたのよ。可愛い子がいるってね。」
「・・・やめて!私が夢魔族だからって男がどうとか!女がどうとか!そういう風に決めつけられるのはうんざりなのよ!」
「違う!そういうつもりじゃ・・・」
「違わないわ!だから私が証明するの!『夢魔族は男をかどわかすだけの役に立たない種族』じゃないって!」
失敗した!
ミーシャの一番傷つけてはいけない部分を傷つけてしまった。
「私の神聖魔法は全てを清め正す力よ!その気になれば相手の心を”正して”服従させることだってできる!」
「まさに神気取りの大層な魔法じゃない。・・・私と勝負よミーシャ!」
「懺悔は町の皆にしなさいよアロナ!そんな意識が残っていればね!・・・神託!!」
何かが私の頭の中を通り抜ける。
目の前が真っ白になって、体はフワフワと浮かんでいるようだった。
・・・どこからか声が聞こえる。
「大切なものを胸に抱いて眠りなさい。目を閉じるのです・・・。」
・・・心地のよい声だ。私はただ言葉の通りにすればいい。
それで安心できる・・・。
「・・・さようならアロナ。ここ居れば安全だから。」
ゆっくりと足跡が近づく。
アロナの胸に抱いた琥珀の魔鉱石を手をに取ろうとするーーー。
「・・・捕まえた!」
私はその手を掴んでミーシャを地面に向けて引っ張った。
突然のことにミーシャはバランスを崩して地面に転がる。
「これで形成逆転ねミーシャ。」
「なんで?どうして?確かに魔法にかかっていたはずなのに!」
「これよ。忘れたの?私の一番得意なこと。」
私は懐から空の瓶を取り出して見せた。
「ポーション?・・・精神耐性のエンチャント!」
「当たりよ。よく知っているわねミーシャ。効果は後1時間ってところね。・・・どうする?後1時間私とにらめっこする?」
「アロナが予備を持っていない訳がないわね。・・・なら力ずくで!」
「怖いわー。アロナちゃん怖くてこれ落としちゃうかもー。」
「うざったい演技ね。それが壊れたら困るのはあなたの方よ!」
「そうかしら?これは”契約”に必要なだけでもう精霊イージスとこの町は契約済みよ。これが壊れたら契約の更新はできない。つまりこの町との契約をあなたは破棄させることができないわ。」
「私の計画が・・・。アロナ!覚えてなさい!」
そう言い残すとミーシャは再びファラド様の姿に変身して部屋を飛び出して行った。
「アレク、メラニー、注文通りやってあげたわよ。・・・後は何とかしなさいよスヴェン。」
ふらつきながら琥珀の魔鉱石を元の場所に戻し、扉を開けて外の様子を確認する。
ミーシャが戻ってくる様子はなさそうだ。
・・・まぁ戻ってきたところで私は何もできないけれど。
「虎の子だったのよこれ。材料費高いんだから・・・。」
何とか階段を登り切り、壁にもたれるように座りこむ。
そこで私は意識が途切れた。
今度は誰かが階段を上る音で目が覚めた。
うっすらと目を開けるとスヴェンが忍び足でどこかに向かおうとしている。
「私達の真下に捕まってたのね。・・・遅いのよ、間抜け。」
当てもなく何処かを探すつもりなのはよくわかっている。
・・・まだ世話焼いてあげないとダメなのかしら。
ため息をついてから、力を振り絞って声を掛ける。
「あらスヴェン。これからどんな”ご迷惑”をおかけするつもりなのかしら。」
世界観について
アルデミランの人族は信仰の対象が曖昧である。
多くの人族は旅の安全や無事を”道の勇者ストリト”に祈る程度。
ポニカ族のように自身の先祖を信仰する人族もいる。
反面魔族は魔王が信仰、崇拝の対象であると教えられる。
単語紹介
神聖魔法
”神にも届く魔法”
不浄を清め、全てを正す魔法。
他者を意のままに操ることすら可能にするが、相手が強靭な精神を持つ場合その限りではない。
今は伝承のみ伝わる失われた魔法。だった。




